「保護者の理解を得て性教育を」見解を変えなかった東京都教育委員会の問題

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Thinkstock/Photo by Professor25

 今年3月、自民党・古賀俊昭都議の「足立区の区立中学校で行われた性教育の授業は中学校の学習指導要領にそぐわない」といった指摘を受け、東京都教育委員会(以下、都教委)が足立区教育委員会に指導した、という報道が流れた。古賀都議は2000年代に、東京都日野市の都立七生養護学校(現・都立七生特別支援学校)で行われていた性教育を批判していた議員のひとりでもあり、かつての性教育バッシングを彷彿させるものとして非常に話題になったニュースだ。

性教育で「避妊」「中絶」を取り扱うことは不適切? 15年前と変わらぬ都議と東京都教育委員会

 区立中学校の授業で問題となったのは「性交」「避妊」「人工妊娠中絶」といった言葉を使用していた点だ。中学校の学習指導要領では「妊娠の経過」を扱わないとされているため(「妊娠や出産が可能となるような成熟が始まるという観点から,受精・妊娠を取り扱うものとし,妊娠の経過は取り扱わないものとする」)、「性交」「避妊」「人工妊娠中絶」を使うべきではない、ということだ(詳しくは前述の記事を参照)。こうした都教委の姿勢に対して、現実のニーズにそぐわない、教育への介入だといった批判が起きていた。

 今月26日、都教委は定例会の中で、中学校における性教育のあり方を示した。しかし「受精・妊娠を取り扱うものとし、妊娠の経過は取り扱わないものとする」とし、「学習指導要領を超える内容を指導する場合には、例えば、事前に学習指導案を保護者全員に説明し、保護者の理解・了解を得た生徒を対象に個別指導(複数同時指導も可)を実施することなどが考えられる」という基本的な考えを崩さない内容のものだった(中学校等における性教育への対応について)。

 学習指導要領には「各学校において,児童に生きる力をはぐくむことを目指し,創意工夫を生かした特色ある教育活動を展開する中で」と書かれている。また前述の七生養護学校事件でも、「学習指導要領には一言一句に拘束力はない」ことや「各学校の児童・生徒の状態や経験に応じた教育現場の創意工夫に委ねる度合いが大きい」「教員の創意工夫の余地を奪ってはいけない」ことなどが述べられていた。

 区立中学校での性教育授業は、事前アンケートで「高校生になったらセックスしてもよい」と答えた生徒が44%いたことなどを受けて行われたものとされている。これは「学習指導要領を超える内容」ではなく、まさに生徒の状況や経験に応じた創意工夫なのではないだろうか。

 また都教委は「保護者の理解・了解を得た生徒を対象」としているが、性教育は、性教育に抵抗感・嫌悪感を覚える保護者の子供にこそ必要だろう。家庭でも学校現場でも教えられることがなければ、間違った理解に基づいた性行動をしてしまい、ハラスメントや性暴力の加害者に……ということになりかねない。

 奇しくも私たちはたった一カ月の間に、女性記者へのハラスメントが問題となって辞任した福田淳一元財務事務次官や、強制わいせつ容疑で書類送検されたTOKIOの山口達也氏など「おとな」が問題を起こす事例をみてきた。もう少し遡れば、ジャーナリストの伊藤詩織氏による性暴力被害の告発や、ハリウッドで盛り上がった#metooなど、「おとな」が起こした性暴力の問題は、いくらでも例をあげることができる。

 その上、「被害者に過失がある」「なぜいまになって告発したのか」「政治的な意図があったのではないか」など、被害者をバッシングする声が“すべて”の事件で聞かれた。「おとな」たちが性に関して、どれだけ正しい理解をできているのか甚だ怪しいのが現状なのだ。「保護者の理解・了解」など求めている場合ではない。「おとなが理解」しなければいけない段階なのではないか。

 性の健康世界学会による「性の権利宣言」には「教育を受ける権利、包括的な性教育を受ける権利」として「人は誰も、教育を受ける権利および包括的な性教育を受ける権利を有する。包括的な性教育は、年齢に対して適切で、科学的に正しく、文化的能力に相応し、人権、ジェンダーの平等、セクシュアリティや快楽に対して肯定的なアプローチをその基礎に置くものでなければならない」としている(性の権利宣言)。この宣言に当てはめれば、適切な性教育を受けられない生徒は人権が侵害されているということになる。

 学習指導要領には本件に限らずセクシュアリティなど性に関する問題が他にも指摘されている(ポストトゥルース時代に、性の問題を改善するためにできる3つのこと)。都教委はまず、かつて七尾養護学校事件で敗訴したことを受け止めるところからはじめてほしい。

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