ハリルホジッチ解任騒動に見る、二人の旧ユーゴ名将を“拒絶”した我らが日本

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2011年5月に起きた“一度目の”解任騒動

 もう一つの回想は、8年前に遡る。

 2010年8月17日。クロアチアでサッカージャーナリストとして活動していた私は、ディナモ・ザグレブの監督として「名将」が降臨することに興奮を覚えていた。

 ヴァヒド・ハリルホジッチ――指導者としてはフランスでキャリアを叩き上げた、旧ユーゴスラビア時代の伝説的FWだ。ボスニア紛争の戦火で全財産を失ったこともあり、「旧ユーゴスラビアのチームはどこも率いるつもりはない」と明言していたハリルホジッチだったが、ディナモ幹部の粘り強い交渉もあり、チャンピオンズリーグ予選に敗れて失意状態のチームを救うべく監督を引き受けた。

「あなたたちジャーナリストとはお互いに敬意を払う存在でありたい。個人をあっさりと攻撃するのではなく、スポーツという側面に重きを置いてもらいたい。私が来た理由は目の前の課題を実現すること。その課題とは来季にディナモをチャンピオンズリーグ本戦に出場させることだ。まずは仕事ぶりと勝利をもってして、このチームに自信を取り戻したい」

「ルール、ワーク、ディシプリン」をモットーとし、ロナウジーニョやドログバといったスター選手であろうと妥協を許さぬスタイル。世界を渡り歩き、大舞台で得た経験。そしてにじみ出る知性とカリスマ。就任会見に出席した私は、ハリルホジッチの並々ならぬオーラに圧倒された。フランス語生活があまりに長く、母国語をしばしば忘れて言葉に詰まったところでも、彼の威厳は一瞬たりとも薄れることはなかった。

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ディナモの練習初日に選手と共にランニングするハリルホジッチ監督。彼が見つめるのは、現在のクロアチア代表であるFWのクラマリッチ選手である。(写真/長束恭行)

 就任3日後の初采配で早くもチームには劇的な変化が見られ、就任からちょうど1カ月となる2010年9月16日、ヨーロッパリーグでグループ最強というべきビジャレアル(スペインの都市ヴィラ=レアルを本拠地とするサッカークラブ)をホームに迎えた。当時のビジャレアルは代表クラスを何人も抱えた欧州カップの常連クラブだ。

「過小評価されることが大好きだ」と常日頃から語るハリルホジッチは、敵がスタメンから主力5人を外したことを利用して選手たちを刺激し、平均年齢21.5歳という若いチームで「ジャイアントキリング」(番狂わせ)を起こした。

 新進気鋭の敵将フアン・カルロス・ガリードが顔を紅潮させ、試合後会見で目を合わさず去ったことに、

「彼はまだまだ若いな。まあ、学ぶ時間は残されているだろうがね」

と言い放ったハリルホジッチ。ディナモが初めてスペインのクラブに勝利したこの一戦は、私の取材歴の中で最も魂が揺さぶられた試合だった。

ディナモで本拠地の初采配となる試合後、熱弁をふるうハリルホジッチ監督。(写真/長束恭行)

ディナモで本拠地の初采配となる試合後、熱弁をふるうハリルホジッチ監督。(写真/長束恭行)

 しかし、そんな彼も8カ月でディナモを去ることになる。理由はクラブを牛耳るズドラヴコ・マミッチ副会長(当時)との対立だった。移籍金の一部を陰で着服してきたこの副会長は、自分が贔屓とする選手を起用しないハリルホジッチを好ましく思っていなかった。

「スコアは1-0ばっかり。ハリルホジッチの試合は面白くないから観客も来ない」
「彼の年俸はあれほど高いのに、あんな守備的サッカーしかできないのか?」
「国内二冠(リーグとカップ)はハリルホジッチよりはるかに安い監督でも成し遂げられる」

 メディアにそのようなネガティブキャンペーンを張らせると、ハリルホジッチは「新聞なんか読まなくていい」と選手たちに指示。ジャーナリストたちと就任時に交わした約束は反故にされていた。リーグ優勝を決めてから2週間たった2011年5月6日の試合で、ハーフタイムにロッカーへと乱入した副会長と彼は大喧嘩。試合後にひっそりとチームを去る。

「私たちはハリルホジッチの執事みたいなものだった。まるで奴のワンマンショーだった」――そのようにハリルホジッチを非難するマミッチとの間で、あれは「解任」だったのか、それとも「辞任」だったのかで揉めたが、ハリルホジッチ側が残る契約の報酬130万ユーロの受取りを放棄することで和解した。

 皮肉にもハリルホジッチが去った翌シーズンから2年連続、ディナモはチャンピオンズリーグに本戦出場。だが、ビッグクラブ相手にジャイアントキリングは一度も起こすことなく、12戦1分11敗と散々な結果に終わっている。そのたびにマミッチはハリルホジッチに監督復帰を願い出たものの、彼が二度と首を縦に振ることはなかった。

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