自分を開示することが、寄ってくる人を選別するフィルターになる
――今、『男ともだち』という本を紹介してくださったみたいに、花田さんは出会った人に本を紹介されてきたわけですが、70人におすすめして、読んでくれた割合はどれくらいですか?
「半々くらいだと思います。悪くない数字だと思ってます。本に興味がなくてとりあえず会いたいって思ってる人もいるかもしれないし、私自身誰かに本をすすめられて『面白そうですね』って言ったけど結局買わないことも結構ありますから。だから買うところまでいってくれていたら大勝利ですよね」
――1年間のその経験は、その後の書店員としてのお仕事に影響を与えたところはありますか?
「お客さんに聞かれたときに、前よりは自信を持ってすすめられるようになりました。『こういうふうに聞いてくる人には、どういう本がいいんだろう?』というのが、ある程度経験値として積み上がっているからだと思います。
それと、職場も変わったのでこの経験の影響かどうかはわからないんですが、お客さんを人として見られるようになりました。今までは、例えば客数が1日100人だったら、『100人』という塊でしか見れていなかった。その人たち一人ひとりが何かを考えて生きているということが、わかってはいてもリアルに受け止められてはいなかったと思います。
それが、お客さんとしゃべって『この本は違う』『こういうのが読みたかった』という言葉を持っている人間なんだ、と体感として理解した感じはあります」
――お店に立っているだけだと、なかなか得られない実感ですよね、きっと。
「あとは、見える世界が変わってきました。
『出会い系』をやる前は、『転職したいけど行く場所なんかない。大したキャリアじゃないから、やれることなんかない』って堂々巡りの中にずっといたんです。周りの人も同じようなことを言っていたから、それが事実だと思いこんでいたけれど、いろんな人に会う中で『そうでもないな』と思えるようになりました。
唯一無二だと思っていた職場への執着も薄れていったし、『どうとでもなる』もしくは『どうにもならなくても別の楽しさが存在する』と知っていった気がします」
――長く働いて思い入れがあると、なかなか踏ん切りがつかないですよね。「会社の人が嫌いなわけじゃないし」という。
「そうなんですよ。『こういうところは嫌だけど、こういう楽しい部分もある』『社内に友達もいっぱいいるし』って、何かと理由をつけて限界値まで頑張ってしまうんですよね」
――そういうときに、全然関係ない人と会って話をするのは有効そうですね。出会い系やマッチングサービスを使って人と出会うときに、より楽しむためにできる工夫って何だと思いますか?
「自分を開示しないと、いいつながりはできないと思います。自己紹介の仕方として『28歳女子です、都内に住んでます』だと引っかかりは何もないですよね。
確かに自分のことを言うのは怖いから、せいぜい『趣味は読書です』『犬を飼ってます』くらいに留めてしまう。だけど、自分が思っていることや、『これが自分らしさだ』っていうプロフィールを書けたら、それに反応した人だけが応答してくれて、会いたい人にスムーズに会えるんじゃないでしょうか。
例えば『漫☆画太郎が好きです』って書いたら、同じものが好きな男子からは反応があるだろうし、『漫☆画太郎が好きだなんて、気持ち悪い女だな』って思う人はいなくなっていくじゃないですか。そういうフィルターとしても有効だと思います。ダサい言い方ですけど、まずは自分を知って、自分がいちばん伝わることを具体的に書いていくことが大事なんじゃないでしょうか」
花田菜々子(はなだ・ななこ)
1979年、東京都生まれ。書籍と雑貨の店「ヴィレッジヴァンガード」に12年ほど勤めたのち、「二子玉川蔦屋家電」ブックコンシェルジュ、「パン屋の本屋」店長を経て、現在は「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」の店長を務める。編著書に『まだまだ知らない 夢の本屋ガイド』(朝日出版社)がある。
(取材・構成/斎藤岬)