※この記事はメタモル出版ウェブサイトに掲載されていた成田祟信さんの連載「管理栄養士パパのみんなの食と健康の話」を再掲載したものです
残暑のきびしいこの時期、体の疲れもピークに達し、体調を崩す人も多いと思います。これを「夏バテ」といいますね。「夏バテ」という病気はありませんが、一般的に高温多湿の環境で体温を一定に保つために体が無理し続けたことで現れる症状を指すようです。夏バテの症状には、全身のだるさなど様々なものがありますが、食欲不振や消化管の症状は栄養確保が十分に行えなくなる恐れもあって、体力のない子どもや高齢者にとっては深刻な問題です。
では、そんなとき、どんな食事が適しているのでしょうか。
身も蓋もない話ですが、「コレを食べれば夏バテ解消!」というような魔法のような食事はありません。夏バテ対策に限らず、ひとつの食品で解消する、なんにでも効く(万能である)というような説は信憑性のないものだと思うくらいがちょうどいいと思います。
現実的には、夏バテを悪化させない、胃や腸に負担をかけにくい食事の工夫を組み合わせて乗り切ることが大切です。以下のポイントを参考にしてみてください。
夏バテしたときの食事のポイント
【常温もしくは温かいものを】
大量に汗をかいたあとの水分補給、体温の上昇した体を冷やすために、つい冷たい飲みものを飲んでしまいがちです。でも、冷たいものが胃に入ると、胃の温度が下がってしまい、元の温度に戻るまで胃の運動が少なくなることがわかっています。すると、消化に時間がかかり、胃もたれの原因にもなり、ますます食欲が落ちてしまう……なんてこともありそうです。同様に冷たい料理も胃に負担がかかりますので、頻度には気をつけてください。できるだけ温かい飲みもの、食べものをとることが大切です。
【消化しやすいよう加熱調理して】
暑い夏、加熱調理をするのは、なかなかつらいもの。食べる側はもちろん、作る側にとっても火を使わない料理はありがたいのですが、生野菜や刺身など加熱していない食べものは意外と消化が悪いことをご存じでしょうか。
野菜の組織や刺身のたんぱく質などは生のままでは消化されにくく、胃腸の負担になります。冷たい飲みものの飲み過ぎで胃が冷えて胃酸が薄まっているときに、消化しにくい食べものが入ってきたらどうでしょう。胃がもたれ、食欲不振の原因にもなりかねません。また、胃酸が十分に分泌されていないと食べものに含まれている有害な微生物を殺せないため、食中毒の危険性も高まります。
ですから、生野菜サラダよりも温野菜サラダ、お刺身よりも焼き魚や蒸した魚、肉は油の少ないものがおすすめです。また、冷たい料理であっても、火を通してから冷やしたものなら、さほど負担はかかりません。そして、消化によくないものは、少しずつ口に入れ、よく噛んでから飲み込むことを心がけるようにしてくださいね。
【水分摂取はこまめに】
「熱中症予防のため、水分摂取はこまめに」と言われますが、一気にとるのではなく少しずつとったほうがいい理由は、胃が冷えたり胃酸が薄まったりするからだけではありません。大量の水分を一気にとると、体内の浸透圧バランスが崩れ、訂張性脱水による倦怠感や、低ナトリウム血症をひきおこす可能性があります。あまり冷たくない飲みものを、ゆっくりとこまめに摂ることが夏場の水分補給の鉄則です。
【スパイスや香り、食感を上手に使う】
低下した食欲を引き出すキーワードは、①香りと風味、②旨み、③テクスチャーです。
まずは、①の香りと風味から。香辛料や香味野菜などには、食欲を刺激する作用があります。また、お酢や果物の香りには、唾液の分泌を促進し食欲を増進する作用があります。たとえば、定番の夏野菜カレーは、スパイスの食欲増進効果によって、煮込んで消化の良くなった野菜をたっぷり食べられる嬉しいメニューです。
次に②の旨みです。かつおやこんぶだしをたっぷり使うと、香りで刺激されるだけでなく、旨みを感じるため、食がすすみやすくなります。
最後に③のテクスチャー。食欲のないときは、ボソボソしたものよりも、春雨やくずきりのようなつるつるしたもの、ゼリーのような食感のもの、片栗粉でとろみをつけたもののほうが食べやすいでしょう。
ちなみに、「夏バテしたら、ウナギや肉、ニンニクなどのスタミナがつくものを食べるべき」という説を聞きますが、本当でしょうか。確かにウナギや肉類は良質のたんぱく質を含み、高エネルギーで、ビタミンB1もたっぷりとれます。ニンニクはビタミンB1が豊富です。
そのため、夏バテ対策によさそうに思えますが、本当に疲れ切っている胃腸には負担のかかる食べものですし、他にもそれらの栄養素を摂ることができる食材はいっぱいあります。本当に好きであればともかく、夏バテの予防や解消を目的に食べる必要はありません。
そのほか「汗でミネラル不足になるから補給したほうがいい」という説もあります。この場合のミネラルは主にナトリウム(塩分)です。脱水予防には、水だけでなく、汗によって失われた塩分の補給も大切なのは本当のこと。ただし、予防目的であらかじめ塩分の含まれた飲みものを摂ったり、塩辛い食事をしたりするのは高血圧や浮腫などを招くこともあるので望ましくありません。特に経口補水塩は高塩分ですから、予防目的で摂るのではなく、炎天下での作業やスポーツなどで大量に発汗するような場合だけに飲むようにしましょう。