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『世界一受けたい授業』でも「男性脳と女性脳」企画、“平均的な脳の性差の傾向”紹介に意味はある?

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Thinkstock/Photo by wildpixel

 男女の違いを「脳のつくりの違い」で説明するネタは、テレビ番組の企画にしろ雑誌や書籍にしろ人気のテーマのひとつだ。昨年611日に放送された『NHKスペシャル ニッポンの家族が非常事態!?  第2集  妻が夫にキレる本当のワケ』(NHK)では、「今、ニッポンの家族の中で夫に対する妻の怒りが高まって」いるとして、最新科学を使って妻が夫にキレる原因や解決案に迫るというふれこみだったが、どこかで聞いたことのある定番の“男女の違い”説をリピートするものだった。脳の情報伝達の仕組みや、脳の扁桃体・海馬の働きには男女差があり、分泌ホルモンの男女差もあることから夫婦はすれ違うのだという内容を、最新科学で明らかになったとしつつも「~と言われています」「~と考えられています」「~と見られています」等の表現を多用して説明。これでは頻繁に脳科学を取り上げて男女のすれ違いを強化している『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)や『世界一受けたい授業』(日本テレビ系)などのバラエティ番組と変わらないだろう。

 さて55日放送の『世界一受けたい授業 日本に迫る7つの危機2時間SP』(日本テレビ系)でも、脳科学者の中野信子氏が「こんなに違う!男性脳と女性脳 最新脳科学で明かす夫婦円満のコツ!」というテーマで“授業”を行っていた。2004年から放送されている『世界一受けたい授業』は、かつて日本PTA全国協議会が実施していたアンケートで「親が子どもに見せたい番組」の1位に選ばれるなど、健全な印象が強く評判の良い番組である。中野信子といえば、新書『サイコパス』(文藝春秋)がベストセラーを記録し、テレビや雑誌によく登場するお人だ。55日の『世界一受けたい授業』放送内容は、番組が選んだ“7つの危機”について、それぞれの分野に詳しい識者を招いて“授業”を展開するもので、中野氏の授業では、“7つの危機”の第3位・男女関係について、<そもそも夫婦喧嘩は男女の脳の違いから起こる>という話だった。ちなみに7つの危機は、1位・認知症、2位・気象病、3位・男女関係、4位・肥満、5位・害虫、6位・うつ、7位・ネット犯罪というラインナップ。

 中野氏が提示した<男女の脳の違い>とは、女性は勘が鋭い、女性はケンカの時に感情的になりやすい、男性は見栄を張る、の3つ。いずれも男女の脳、ひいてはホルモンの違いを根拠に語られ、たとえば女性は勘が鋭い……男性に比べて安心ホルモン・セロトニンの分泌量が少ないため不安になりやすく、いつもと違うことが起きると物事を注意深く観察するので、結果、勘が鋭くなる。一方の男性は楽天的。であれば、少なくともセロトニンの分泌量が勘の働きに影響を与えているわけではないのでは? 勘が鋭くなるのは、あくまでも「注意深く観察」した結果では? と疑問に思うのだが終始このような調子だ。

 女性はケンカの時に感情的になりやすい説については、ケンカで嫌な気持ちになると脳内の前帯状皮質が働くが、女性は男性に比べて前帯状皮質の機能が高く、心の痛みや不条理を感じやすく、涙を流したり感情的になりやすいと解説。一方男性は、ケンカをすると男性ホルモン・テストステロンが分泌され、誰かといるよりひとりになることを好み、黙ってしまう。だから女性はできるだけ感情を抑えるよう、男性はなるべく女性の話を聞いてあげるように心がけることが大切というアドバイスがなされた。また、男性は見栄を張る説については、男性ホルモン・テストステロンは闘争心を高め「1番になりたい」という心情を生み出すが、女性ホルモン・エストロゲンは協調性を大切にする心情を高め「みんなと同じレベルのものを」とみんな一緒であることに安心すると説明。だから男性は時計や車などステータスのあるものを求め、女性はみんなが持っている流行りものを求める、と結論づけられていた。

 中野氏は「脳にも個人差があって、平均的に見ると男女の脳はこんなに違う!という一般的な傾向をご紹介」したと補足するが、結局人間はひとりひとり個人として向き合うしかないためこのような「平均」の紹介がどう奏功するというのだろうか。今回の内容だけでは、<男女の脳の違い>という話を通してジェンダー役割の再生産に与し、「女は感情的」「男は見栄っ張り」といった偏見を強化するだけだろう。ちなみにゲスト出演者として授業を聞いていた女優の広瀬すずは、「女性はケンカの時に感情的になりやすい説」について「自分はケンカすると黙ってしまうほう」と異論を述べていた。

 こうした「男女の違い」を面白おかしくテレビで取り上げる際、脳科学を根拠にするだけでなく、男性と女性がそれぞれ社会から求められる役割の違いや、社会的・文化的背景の影響にまで触れることは滅多にない。“平均的な脳の性差の傾向”を鵜呑みにする企画では、前述したように誤解が深まるばかりだろう。『世界一受けたい授業』というからには、視聴者に偏見を刷り込む内容であってほしくはない。

中崎亜衣

1987年生まれの未婚シングルマザー。お金はないけどしがらみもないのをいいことに、自由にゆる~く娘と暮らしている。90年代りぼん、邦画、小説、古着、カフェが好き。

@pinkmooncandy

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