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少女であることのコスト 女性の低賃金問題は在学中のアルバイトからはじまっている

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 なぜ女性の賃金は男性よりも低いのかを考える上で、女子教育の問題や職場での女性差別、出産育児などの重要な要因を連載の中で取り上げてきました。しかし、この女性の低賃金問題を考える上で、重要なトピックはまだあります。

 男女間の賃金格差や女性の労働参加というと、学校を卒業した後のことをイメージする人が多いかもしれません。かく言う私もその一人でした。しかし最近、『The Cost of Being a Girl (少女であることのコスト)』という本を読んで、これらの問題を「教育」と「労働」で切り離すことは誤りだと気が付きました。この本では、働く10代の女子に焦点を当てて、男女間の賃金格差の起源に迫っています。

 確かに日本でも、高校生年齢に相当する15歳から19歳の人口の8.7%は学校に行く傍らで仕事をしていますし(総務省「平成24年度就業構造基本調査」)、大学生を見ても、全くアルバイトをしていない学生の割合は20%にも満たず(国立教育政策研究所「学生の成長を支える教育学習環境に関する調査研究」)、大半の若者が、教育期間を終えて就職する前に数年程度の労働経験を持っていることになります。そして、往々にしてこの学生時代の労働経験は、その人の労働観を形成し、就職や就労パターンなどに作用して、一生涯影響を与えたりします。

 そこで今回は、この本の内容を通じて、日本と同程度に女性の労働参加率が低く、ジェンダーステレオタイプが根強く残る、米国の少女達の事例を紹介しつつ、日本の状況についても少し触れてみたいと思います。

10代女子の主な働き口―ベビーシッターと小売店の店員

 米国では、共働きの富裕層が学生にベビーシッターを頼むことがあります。しかし女子学生に依頼することは比較的よく見られても、男子学生に依頼することはほとんどありません(データ的にもほとんど存在しないことが分かっています)。日本ではあまり見られない形態の女子労働なので、概要だけかいつまむと、こうした傾向には3つの問題を指摘することが出来ます

①女性が育児をするものだというジェンダーステレオタイプが刷り込まれる

②ケア労働であるため金銭的な交渉がしづらい

③仕事と非仕事の境界があいまいになりサービス残業が当たり前になる

 この3つの問題が当然のものとして女子に刷り込まれてしまって、彼女たちのその後の職業選択や労働観に悪影響を及ぼしてしまいます。

 もう一つ少女たちが従事する典型的な労働は、小売店の店員(ショップガール)です。この業種の一つの特徴として、外見的な美しさが重視される職である点が挙げられます。外見的な美しさが、本人の賃金や周りの人たちの生産性に与える影響については、近年経済学の分野で分析が進んでいるので詳細はその分野の本(例えば『美貌格差: 生まれつき不平等の経済学』(東洋経済新報社)など)に譲りますが、小売業界の場合、そこでの議論とは少し異なる特徴を持ちます。

 今日の小売業界で特徴的なのは、女子店員に自社ブランドを体現することを求めている点です。明るく美しいことは必須前提条件とされますが、さらに自社ブランドの商品を自費で購入することが求められています。例えば、アパレルであれば自社ブランドの商品を身にまとって接客することが必要とされます。その他の小売業界でも、制服がある所を除けば、やはりそのブランドを体現するような服装であることや、商品に精通するためにブランドの商品を購入することを求められます。

 自社ブランド商品の購入を女子店員に求めることは、実質的な給与の減少につながります。また問題はそれだけに留まりません。一般的に女性の方が男性よりも給与交 渉が苦手であるのは広く知られるようになってきましたが、マネージャーには「女子店員は自社ブランド商品が直接購入できるから働いている」と考える傾向があるため、給与交渉に真剣に取り合ってくれず、交渉を更に難しいものにしてしまうのです。

 『The Cost of Being a Girl』には他にも女子店員を取り巻く問題がいくつか指摘されています。代表的なものとして、①セクハラにさらされやすい、②他の業種と比較したときに、アパレルや飲食店の店員は給与が上がりにくい、③女子店員は男子店員と比較して、急なお願いや残業を頼まれやすい、④男子店員が一般的な求人で入ってくることが多いのに対し、女子店員は友達繋がりから入ってくることが多く、マネージャーは女子店員が真剣に働いているとは捉えないし、女子店員たちもこれが自分の「本当の」仕事だとは思わなくなる、という4点が挙げられます。

 これらの10代女子の労働経験は、ジェンダーバイアスのかかった労働観を植え付け、その後のキャリア選択や労働観に影響を与えます。それは例えば、子育ては女性がするのが当たり前、給与の交渉はしないのが当たり前、外見的な美しさが何よりも重要、多少のセクハラは許容して当たり前、といったものです。言うまでもなく、こういった労働観は男女間の賃金格差や女性の労働参加に負の影響を及ぼすでしょう。男女の労働問題を解決するためには、この問題の起源である10代女子の労働環境の問題に取り組むことも必要です。

日本の女子労働の状況

 では日本の場合はどうでしょうか?

 冒頭でも言及した、国立教育政策研究所・学生の成長を支える教育学習環境に関する調査研究によると、日本の大学生の8割以上はアルバイトに従事しています。このことから、やはり日本でも学校を卒業する前の数年間の労働経験が、若者の労働観に大きく影響している可能性があります。

 残念なことに男女別のデータが公開されていなかったので、全体的ないくつかの特徴について言及したいと思います。まず、日本の大学生でアルバイトをしている者のうち、2/3程度は今回言及した飲食・販売業に従事している点です。つまり、女子大生の約半数以上が小売店の店員ということになるでしょう。おそらく日本の女子店員も、美しさの維持やセクハラ被害など、今回紹介した本で指摘されているような状況に多かれ少なかれ置かれているのではないかと思います。そうであれば、やはりここの問題に切り込んでいかないと、男女間の賃金格差の起源を断つことはできないでしょう。

 女子の問題からは離れますが、日本のケースでもう一つ気になるのは、長時間労働の多さです。大学生の労働経験が大学での学習に活きるのか、それとも阻害してしまうのか、決定的な結論が出ていないのが現状です。しかし、一点だけ一貫した結論が出ているのは、週に20時間を超える労働は大学生の学習を阻害するというものです。そして、日本の大学生の9人に1人以上はこのような長時間労働に従事しています。これだけ長い労働時間になると、就労体験から得られる良い効果よりも悪影響の方が確実に大きくなってしまうので、対策を講じる必要があるでしょう。

まとめ

 私の最初の労働経験は小学生の時の数年間の新聞配達でした。朝早起きする大変さもそうですが、天気の悪い時や正月の配達の大変さを身に染みて覚えています。この最初の労働体験が影響してか、私は同じような学歴や経歴の人達と比較して、お金は額に汗水たらして稼ぐものだという労働観が強いように思います。

 このように、最初の労働体験はその後の労働観に強く影響を与えます。日本の少女達の多くも米国と同様に、学校を卒業する前から労働体験が始まっています。学校や企業に働きかけるだけでなく、この女子労働におけるジェンダー問題に切り込んでいかないと、この最初の労働体験が女性のキャリア選択や労働観を歪ませ、女性の労働参加に悪影響を与え続けることになるでしょう。

畠山勝太

ミシガン州立大学博士課程在籍、専攻は教育政策・教育経済学。ネパールの教育支援をするNPO法人サルタックの理事も務める。2008年に世界銀行へ入行し、人的資本分野のデータ整備とジェンダー制度政策分析に従事。2011年に国連児童基金へ転職、ジンバブエ事務所・本部(NY)・マラウイ事務所で勤務し、教育政策・計画・調査・統計分野の支援に携わった。東京大学教育学部・神戸大学国際協力研究科(経済学修士)卒、1985年岐阜県生まれ。

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