
向き合います。更年期世代の生と性
2016年12月にこの連載をスタートしてから約1年半。その間に更年期について学びメノポーズカウンセラーの資格を取得、更年期や女性の生き方や健康に関する様々な会合にも出席するようになったことで多くの情報も入ってくるようになった。
そんな私が昨年秋から気になって仕方がないもの、それは<モナリザタッチ>だ。とある学会に出席した際に<モナリザタッチ>について説明された資料をもらい、どのように使われるものなのかを解説したVTRも見せてもらったのだ。<モナリザタッチ>とは膣周りのアンチエイジングを可能にする治療器。VTRを見た瞬間「おぉ、これは! なんだか新しいぞ!」とものすごくわくわくした。
2018年5月現在、この機械を日本国内で導入しているクリニックはまだそう多くはない。今回は日本で初めて<モナリザタッチ>を導入した都内・六本木の女性スタッフのみの婦人科クリニック<アヴェニューウィメンズクリニック>にお邪魔して、院長の福山千代子先生にお話しをうかがった。
モナリザタッチとはどんなもの?

<アヴェニューウィメンズクリニック>院長の福山千代子先生
――モナリザタッチ。名前が神秘的でとても印象に残りますが、この治療にはどういう効果があるのでしょう?
「顔のたるみやしわなどの若返り治療に用いる炭酸ガスフラクショナルレーザーを膣用に応用し開発したアンチエイジング治療器、それがモナリザタッチです。加齢に伴って、膣も乾燥や性交痛、においやかゆみ、尿漏れなどの様々な不快な症状が出るようになりますが、モナリザタッチで治療することで症状が改善されるんですよ」
――レーザーと聞くと、なんだか少し怖いような気も……。
「わかります、私も最初にレーザーと聞いたときは少し驚きましたから、膣にレーザー!?って(笑)。婦人科でレーザーというと、手術としてのレーザーしか使用したことがなかったですし。ところが実際に導入してみると、その効果に驚きました」
――どのような仕組みになっているんでしょう?
「簡単に説明すると……患部にレーザーを当て、軽い火傷を起こします。すると、その部分を治そうとして血流がよくなり、コラーゲンなどが集まってきます。お顔の場合ですと、これによって顔のたるみやシワが改善されるわけです」
――軽い火傷ということですが、施術の際や術後に痛みはありますか?
「火傷、ときくとそこで恐怖心が出てしまう方もいらっしゃるのですが、痛みはありませんし照射時間も短い。実際にやってみると、わかっていただけると思います」
――後ほどモナリザタッチを体験できるということなので、できるだけ詳しく照射後の感想を書いてみたいと思います。ちょっと今からドキドキなんですけど(笑)。
「一度体験してもらうと、ドキドキはまったく杞憂だってわかってもらえると思います(笑)。更年期世代になると、誰もがエストロゲンが減少します。それによって膣も血流が悪くなり、栄養が十分に行き渡らなくなるんですね。レーザーで膣に熱を加えて血流を活発にさせることで、保水レベルも上昇し分泌物も増加します」
――エストロゲンの減少が膣内も変化させてしまうんですね。
「エストロゲンが減少すると、それまで繰り返されていた膣の粘膜のターンオーバーが行われなくなります。ターンオーバーにより膣内の上皮がぽろぽろとこぼれ落ちる際にグリコーゲンという物質が膣内に落ちるとそれを餌とする乳酸桿菌が増えていきます。乳酸桿菌がいることにより、膣内は酸性に保たれ、外部から入ったばい菌が増えることを防いでいます。ところが更年期になり、エストロゲンが減少することでターンオーバーしなくなると、餌がなくなった乳酸桿菌はどんどん減ってしまうことに。そうなると、ばい菌が入りやすくなり、細菌性膣炎や膀胱炎にかかりやすくなったり、膣のにおいや乾燥、かゆみが気になるという変化が現れます」
――エストロゲンの減少によって膣壁が薄くなったり、膣が萎縮してしまったりしますが……これらは性交痛の原因にもなりますよね。モナリザタッチを試す患者さんの中には、性交痛の改善を目的とされる方も多いのでしょうか?
「多くいらっしゃいます。これまで『性交痛の相談は恥ずかしい』という風潮が日本にはあったように思いますが、夫婦やパートナー間でのセックスレスが社会問題としてメディアで多く取り上げられたことも影響してか、最近は意識にも徐々に変化が生じているようです。性交痛で来院される患者様が増えました」
――性交痛の治療というと、膣に入れる坐剤もありますが。
「うちでも膣坐剤はお出ししていましたが、なかなかスパっとよくならない方が多いんですね。患者様に満足していただけないようではダメだ、どうしたものかと思案していたんです。治療結果が思わしくないと、患者様も年齢的に『もう仕方ないことなんだ』と諦めてしまわれますし……そこをなんとか改善したいという思いがありました」
変化する50代、60代の性に関する意識
――ひと昔前と比較すると、女性の生き方は大きな変化を遂げました。いまは50代、60代でも恋愛や性交渉を楽しむ人も多くいらっしゃいますものね。
「そうなんです。うちのクリニックにいらっしゃる50代の女性はまだまだ現役という感じがあってお美しいですし、熟年のご夫婦がおふたり揃ってモナリザタッチの説明を聞きにくることも。人生100年といわれる時代がきてますから。昔のように20代前半で結婚して、子どもを産み、女性は40代後半でおばあちゃんと呼ばれるようになって性交渉とも無縁になる、というのとは違う。ライフステージが変わってきています」
――そうですよね。50代、60代で再婚される方もいらっしゃるでしょうし。
「実際うちのクリニックにも、60代の女性で近々再婚するからモナリザタッチを受けたいと言って来院された患者様がいらっしゃいました。ご主人とは死別で10年以上性交渉がないし、たぶんもうできなくなっているだろう、と。でも再婚するとなると、一応自分も新婚になるわけだし、夫となる人から求められたなら応えられるように準備しておきたい。なにもあと10年性交渉したいわけではないけれど、新婚の最初の1、2年は応えたいから膣周りをいい状態にしておきたいんです、とおっしゃって」
――とてもよくわかります、その方のお気持ち。
「ただ未だに『性交渉=子作りのためだけ』という考え方も根強いのが事実。残念なことですが医師の中にもそういう考えをする人がいて、患者さんを不用意なひとことで傷つけてしまうこともあるようで……」
――それはたとえばどういうことでしょう?
「更年期世代の患者様ですが、性交痛があり、医師に定期的に膣坐剤を出してもらうために通院していた。ところがあるとき医師から言われたそうです、『まだそんなに(性交渉を)したいの?』って」
――えっ! それは傷つきますよね。夫やパートナーと性交渉をすることが、なんだか悪いことをしてるみたいな後ろめたい気持ちになってしまう。
「そうですよね。医師からしたら『自分の母親世代なんだから、いつまでもそんなことをしているわけがない』みたいな思い込みがあって、悪気なく言ってしまったのかもしれませんが……。とにかく女性のライフステージや生活が大きく変化していること、性交渉に対する意識も変わっていること。そこを我々医師もしっかりと認識しなければいけません。更年期世代やそれよりもっと上の患者さんが性交痛で悩んでいるなら、いま自分たちはなにができるかを積極的に考えるべきだと思うんです」
――それでモナリザタッチの導入に踏み切られたというわけなんですね。
「はい。膣錠では対応しきれなくなっていると感じていましたし、もっとまったく違うアプローチができるものはないかと考えて。たとえば、ほかの更年期症状が強く出ている方には、全身性のホルモン補充療法(貼り薬や飲み薬)が効果的だと思うんです。ホットフラッシュなどほかの症状と膣の症状が一緒に改善されますから。性交痛も改善された、との報告も多い。ただHRT(ホルモン補充療法)は子宮体がんや乳がんの既往歴のある人はできません。モナリザタッチは、それらのがんの既往歴があっても治療できます」
更年期外来では「ミレーナ+ジェル」という新しいスタイルでホルモンを補充
――アヴェニューウィメンズクリニックには更年期外来があります。HRTも行われていますよね。
「ええ。今年の2月からスタートしました。HRTは、かつて新聞に『ホルモン補充療法はガンになる』というニュアンスの記事で大々的に書かれたこともあり、日本ではまだまだ誤解も多く、広がっていない治療方法ではあります。たしかにガンのリスクはわずかですがある。けれどHRTによってガンになったのか、もともとガンになる素因があったのか……そこは正直わからないところなんですけどね。ただ、日本人はそのわずかなリスクを嫌う人がすごく多い。それなら、乳がんや子宮体がんなどのリスクを最小限に抑えるホルモン治療を考えようと思い、ミレーナ+エストロゲンジェルという新しいホルモン補充療法を作ったんです」
――ミレーナは子宮内に装着する器具ですよね。避妊のために用いるもの、という認識だったのですが、それをホルモン補充に用いるわけなんですね。
「HRTでは、黄体ホルモンの投与が乳がんのリスク上昇に影響するといわれてきました。となると、なるべく黄体ホルモンを血中に入れないようにしたい。けれど、従来のHRTのように飲み薬だとどうしても血中に入ってしまう。ほかになにかないか……と思案していたときに『ミレーナがある!』と気がついたんですね。ミレーナは子宮内に黄体ホルモンを放出する器具ですから、これにより乳がんの原因とされている黄体ホルモンの血中濃度はあげずに、子宮内膜の増殖を抑えることができ、子宮体がんのリスクも減らすことができます。卵胞ホルモンはジェル製剤で補充します」
――HRTといえば、卵胞ホルモン配合のパッチ(張り薬)+黄体ホルモンの錠剤を飲む、というスタイルを用いるクリニックが多い中、ミレーナを使ったHRTは画期的ですよね。先生も更年期症状が出た際には、この方法でご自身を治療されますか?
「もちろんです。いまの段階で私が『更年期症状の治療方法としていいものがあります』と自信を持って勧められるのは、この治療法ですから。私も症状が出ればこの方法で自らを治療するつもりです。ただ、医学は日進月歩。もっとよいものが出れば、研究して取り入れていくつもりではいます」
――更年期症状全般が出ている方はミレーナ+ジェルで治療を。性交痛、かゆみ、乾燥、においや尿漏れなど膣の不快感がある方はモナリザタッチを、というわけですね。ではいよいよモナリザタッチを体験してみたいと思います。よろしくお願いします!
初めてのモナリザタッチ体験

モナリザタッチ
取材ののち、先生から渡された問診票に記入して待つこと約5分。診察室に呼ばれ下着を脱いで内診台に上がって、先生の登場を待った。実は私、痛みにからきし弱いタイプである。過去に何度か子宮体がんの検査を経験しているが、出産経験がないせいだろうか、この検査には辛い思い出しかない。とにかく痛いのだ。検査中は体中に力が入ってしまい、そのせいで余計に器具が入らない。恐怖のせいで「はぁはぁ」と息が荒くなっている私の様子を見て「もう止めますか?」と言ったお医者さんもいるほどだ。
そんな検査経験があるゆえ、今回も心配だったのは照射前に挿入するという専用プローブ(器具)がスムーズに入るかどうかということだったのだが……。福山先生の手際がよいのか、プローブはいつの間にかすんなり入り、お腹を圧迫されている感覚はあるものの痛みはなかった。
そして、いよいよ炭酸ガスフラクショナルレーザーの照射がスタート。「もしも違和感を覚えたなら気を紛らわせるために、先生と他愛ない世間話とかしよう」と照射前には密かに心に決めていたのだが……ない、嘘でもなんでもなく痛みはまったくないのだ。
もちろん、ほのかな温かさがあるので「あぁいまレーザーが照射されているんだな」という感覚はある。だが、照射中に感じるのはそれだけだった。そして、世間話などする暇もなく照射は終了。計っていたわけではないが約2~3分といったところだろうか。「いまレーザーを当てていますよ」「痛みはありますか」などの先生の問いに答えているうちに終わってしまっていた。最初から最後まで、レーザー照射の違和感や痛みはまったくなかったのである。照射中に感じるほのかな温かさは、冬ならむしろ心地よく感じるのではないかと思えるものだった。
更年期世代ど真ん中の私だけれども、まだ膣周りにそんなに大きな不快感も悩みも感じていない……ただにおいについては、若かりし頃に比べると少し気になるかな、という思いはあった。モナリザタッチ照射後、そこには変化が生じたように思える。これはもう自分にしかわからない微妙な変化なのだが……。
性交痛に関しては2、3回の照射が必要なようではあるが、これも人によるそうで、1度の照射で大きな効果があったという患者さんもいるそうだ。なお、アヴェニューウィメンズクリニックではモナリザタッチは1回54000円(自費治療)となっている。
性交痛だけでなく、膣のかゆみや乾燥、尿漏れなどはたとえ親しい友人であれど、なかなか話しにくいもの。そんなときこそ、信頼できるお医者様に相談したい。個人的な感想としては、もしも今後膣周りの不快感が顕著に表れ、それがHRTだけで改善しないという事態になったなら、私はモナリザタッチでの治療を選択したいと思う。痛みもなく治療時間も短い。副作用はない。1回5万円超えの治療費はもちろん安くはないけれど、下半身の不快感は日常生活の苦痛に直結する深刻な問題だ。その悩みが改善されるのならば、決して高すぎる金額ではないと思えるからだ。