「働き方改革」と「夫婦別姓」訴訟から考える、ジェンダー意識の変化

連載 2018.05.21 18:15

生き延びるためのマネー/川部紀子

 こんにちは! ファイナンシャルプランナーで社会保険労務士の川部紀子です。

 国が推し進める「働き方改革」に関連しそうな事柄の動向は、社会保険労務士として注目しています。今回はその中から、「夫婦別姓」を中心にお伝えしたいと思います。というのも「夫婦別姓」によって、職場や社会全体の考え方が変わっていくかもしれないのです。

今回お伝えする内容は、wezzy読者にも、今後関わってくる可能性があるので、現状を知って、今後の動きに注目してほしいと思います。

「働き方改革」「女性の社会進出」「多様性の尊重」の風潮下で行われる「夫婦別姓」訴訟

 現在、入籍の際に約95%の妻が夫の姓に改姓しています。2015年に最高裁は、夫婦別姓を認めない民法は違憲だという訴訟に対し、「現在の民法は合憲」としました。そのため日本には夫婦別姓の法制度はなく、日本人同士が結婚すると、夫婦のどちらかが改姓しなければならないのが現状です(国際結婚の場合は夫婦別姓も可能です)。

 しかし、この「夫婦別姓」を巡っては、サイボウズ株式会社の青野慶久社長らが再び「夫婦別姓」を選べる法律上の制度がないのは憲法に違反しているとして訴訟を起こしました。2015年の裁判は、完全なる夫婦別姓を目指すため、「民法」改正を求めたものですが、今回は、法的に旧姓を名乗れることを目指す「戸籍法」改正を求めるものです。青野氏は「戸籍法を第一歩に、民法の議論に進んでいけばいいと思う」と述べているそうです。2018416日には、この訴訟の第1回口頭弁論が開かれています。

 サイボウズ株式会社は、企業向けクラウドサービスが有名なソフトウェア開発会社で東証一部上場企業です。青野氏は、入籍の際に妻の姓に改姓しており、その際、銀行口座やパスポートや、所有していた株式の名義を書き換えなければならなかったなどの不便さを覚えたと話しています。株式の名義変更では、約81万円の費用も発生したそうです。

 訴訟を起こしたのが大手企業の社長で「男性」ということ、「働き方改革」「女性の社会進出」「多様性の尊重」という社会的風潮の下で行われているということもあり、この裁判は非常に注目されています。また、20179月から判決などで裁判官や判事の旧姓使用が可能となり、最高裁判所の判事に今年就任した女性は最高裁でも旧姓を使うそうです。

「夫婦別姓」問題から社会人が学ぶべきこと

 まずお伝えしたいのは、意外に「夫婦別姓」という法律上の制度がないことを知らない人が多いことです。

 筆者自身、別姓問題で悩んでいたとき、「別姓にすれば!?」とあちこちから言われ、その度に「夫婦別姓ってないから!」と説明したものです。それでも、「いや、夫婦別姓あるよ! だって知り合いにいるし」などとしつこく食い下がってくる社会人も何人もいました。

 日常生活の中でも印象的な発言は飛び交っています。

 例えば、女性に対して「あれ、まだ名字変わってないんだね」という結婚したら男性の姓になることを前提とした言葉。また、夫婦別姓を望む女性を軽蔑するような「俺はそういうことをいう女は嫌だ。そういうヤツとは結婚したくない」という発言です。また、彼氏がいないという女性タレントが「早く名字変わりたい!」とテレビで発言したのを見たこともあります。これらの発言は、性別を問わず、結婚すると「どちらかの姓」ではなくて「男性の姓」になること当たり前という風潮が広く浸透している現状を表しています。

 今回の裁判は、こうした風潮を変える可能性を秘めているでしょう。また裁判の結果とは無関係に、希望する夫婦は別姓を選べるようになる改正には賛同する人は非常に多いので、これからの社会人は、結婚や姓に対しての自分の「当たり前」を軽く口走らないように注意しなくてはなりません。

 例えば、「妻は夫姓に改姓するのが当然」という考え方が、ジェンダー・ハラスメントであるという理解は今後より広がっていくでしょう。夫婦別姓問題は「早く結婚しろ」などのマリッジハラスメントにも隣接しています。不用意な発言で、ハラスメントをしないように気をつけなければなりません。

 そもそも、結婚しなければならないわけではありませんし、「男性の姓に改姓をするのが当たり前」といった発言は、完全にNGですね。

変わりゆく時代とジェンダー意識

 働き方改革を推し進める上で、「女性の社会進出」「多様性の尊重」は外すことのできない重要事項です。

 当然、「性別」に関する意識と言動も変えていかなくてはなりません。身体的な意味の性別ということだけでなく、社会的、文化的に後付けされた「男はこうあるべき」「女はこうであれ」など、いわゆる「ジェンダー」に対しての意識と言動です。

 そういった意味では、夫婦別姓問題と共に注目したいテーマは「男性の育児休業」です。

 2016年度の厚労省の調査によると、女性の育児休業取得率は、81.8%に対し、男性の育児休業取得率は、3.16%とのこと。

 この現状を、国を挙げて打破しようという動きもあり、2020年度までに男性の取得率を13%にしたいという目標を掲げています。また、「イクメン企業アワード」「イクボスアワード」を実施して、男性の育休取得の促進をしている企業を表彰する取り組みも策定しています。厚生労働省では「イクメンプロジェクト」というサイトも立ち上げています。

 文化も慣習も常識も大きく変わる時期を迎えたのかもしれません。

 新しい時代を受け入れながら社会生活を送るため、今回紹介した「夫婦別姓」「男性の育児休業」のニュースは今年特に注目していきたいテーマだと思います。そして、一人ひとりが頭を柔らかくして、変わるべきところでは変わる努力をして対応していかなくてはいけないのではないでしょうか。

川部紀子

2018.5.21 18:15

ファイナンシャルプランナー(CFP® 1級FP技能士)。社会保険労務士。1973年北海道生まれ。大手生命保険会社に8年間勤務し、営業の現場で約1000人の相談・ライフプランニングに携わる。その間、父ががんに罹り障害者の母を残し他界。自身もがんの疑いで入院する。母の介護認定を機に27歳にしてバリアフリーマンションを購入。生死とお金に翻弄される20代を過ごし、生きるためのお金と知識の必要性を痛感する。保険以外の知識も広めるべく30歳でFP事務所起業。後に社労士資格も取得し、現在「FP・社労士事務所川部商店」代表。お金に関するキャリアは20年超。個人レクチャー、講演の受講者は3万人を超えた。テレビ、ラジオ等のメディア出演も多数。新刊『得する会社員 損する会社員~手取りを活かすお金の超基本~』(中公新書ラクレ)が発売中。

twitter:@kawabenoriko

サイト:FP・社労士事務所 川部商店 川部紀子】

関連記事

INFORMATION
HOT WORD
RANKING

人気記事ランキングをもっと見る