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ファンタジックな世界観で謳う「親子の絆」が暴力になるとき。胎内記憶の罪を医師が解き明かす

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 胎内記憶はほかにも、妊活講座、セラピー、ヨガ、マッサージ、育児コミュニティ、被災話、各種ママ向けイベントetc……今やあらゆるところで見かけることのできるコンテンツになっており、そこそこ人気を集めていることがわかります。

 胎内記憶の話を、「単なる親子コミュニケーションのひとつなのでは?」と思う人もいそうです。しかしこれは、「ニセ科学」と解釈していい物件です。ニセ科学とは、それらしい説明で一見科学のように見せかけているが、実は科学と呼べないものの総称で、別名・疑似科学、エセ科学。このジャンルに分類される有名どころは、ホメオパシーやマイナスイオン、EM菌、経皮毒、水素水、脳トレなど多岐にわたります。

 一応、池川医師は「胎内記憶が正しいかどうか科学的に解明するつもりはない」「子育てに役立てるためのもの」と語っています。しかし著作では「胎芽が母親のホルモンに影響を受ける」だの「脳が形づくられる前から個々の細胞に体験が蓄積される」など、科学的な表現を多用しているので、そこから胎内記憶をエビデンスのあるものと勘違いする人も少なくないでしょう。

精神科医と産婦人科医はどう見る?

 そこで、まずは〈胎内記憶が科学的にありえるのか?〉という点について、精神科と産婦人科の医師2名からお話をうかがいつつ、マジにつっこんでみたいと思います。

 胎内記憶の主な調査法は、母親にアンケートを配布し、子どもが胎内記憶や誕生記憶を話したことがあるかどうかを回答してもらうという方法が主流。この点を、精神科医の松本俊彦医師は「科学的かどうかを評価するには、池川氏とまったく関わりのないほかの研究者が同じ調査をして、同じような結果を確認できるということが必要である」と説明。しかし日本では、池川医師以外の研究者は存在しないよう。

松本「しかも子どもは大人の求める答えを忖度しながら答えるだろうし、かなり空想的であると言えます。つまり供述された内容の妥当性を確認しようがないと思われるので、どちらにしても科学的な証明は難しいでしょう」

 池川氏と同じ産婦人科医である太田寛医師は「子どもが話す状況で、大人が誘導をかけていないかどうかという点に、疑問を覚えます」と指摘。

太田「そもそも記憶というのは今のところ、脳の神経細胞の中に保存されることになっているんですが、精子や卵子に記憶があると言われてしまうと、まだ神経細胞でもない細胞なのにどうやってその記憶をキープしていたのか、しくみがわかりません」

ないとは言い切れない、けれど。

太田「あり得るとすれば、親が子どもに『あなたがお腹にいたときはこうだったんだよ』と言い続けていれば、子どもはそれが自分の記憶と勘違いすることです。親の話を、子どもが単に反芻しているということはあるでしょう。しかし〈胎内記憶はない〉とは、言い切れません。でもそれは、ないことを証明するのは難しい、いわゆる〈悪魔の証明〉を求めているのに等しい。あると言い続ければ本当にあるように思えてしまう点が、すごくずるいですよね。科学的に解明するための問題提起、いわゆるきっかけとしてであれば、子どもに聞き取りをするという調査もありかもしれませんが」

 いくら池川医師がそれっぽく語っても、胎内記憶がスピリチュアルの域を出ないことは確かなようですね。

 さて先生方のお話がはじまったばかりですが、続きは後篇にて! 後篇では、胎内記憶最大の問題点〈自己責任論〉や、胎内記憶研究の正当性を謳う〈ナラティブ〉という概念について、話を進めていくことにしましょう。

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