『孤狼の血』は、ガラの悪い広島弁が飛び交うなか、ヤクザや警察間で繰り広げられる暴力描写が、いっさいの抑制なしで描かれる。そのため、『仁義なき戦い』シリーズや『県警対組織暴力』との共通点をしばしば指摘される作品でもある。事実、原作者の柚月裕子は、それらの作品のファンであることを公言している。
こういった類の映画はいまの時代ほとんどつくられなくなってしまったものである。『孤狼の血』はそんな状況に一矢報いるべく、満を持してつくられた作品だ。社運をかけた東映ヤクザ映画復活の大事業に関わることができたことに松坂は<今の時代、そういう作品自体が少ないので、僕ら同年代の役者にはなかなか出逢えるチャンスがない。だからこそ今回は“やっと来た!”という感じで、この日岡の役は絶対に渡したくないと思いましたし、かなり慎重に彼の心の組み立て作業をしてから撮影に臨みました>(「キネマ旬報」2018年5月下旬号/キネマ旬報社)と、自信をのぞかせる。しかし、これは偶然舞い込んだ幸運な仕事ではない。前述したような、今後の俳優としてのキャリアを見据えた作品選びがたぐり寄せたものなのである。
ネタバレになるので詳細は伏せるが、『孤狼の血』の終盤は、役所広司演じる大上からの教えを受け継いだ、松坂演じる日岡が孤軍奮闘で活躍する展開となる。現在の日本の俳優でトップを走る役所が、若い世代で台頭する松坂にバトンを渡すメタ的な構造のようにも映るが、それは、あながち深読みのし過ぎといったわけでもないようだ。
「キネマ旬報 featuring 松坂桃李」(キネマ旬報社)のインタビューでその点を指摘された白石監督は、<それはあるかもしれないですね。役所さんは40〜50代と日本の映画界のトップを走り続けてきて、この撮影のときはちょうど60歳だったんですけど、桃李くんが50〜60歳になったときに、今の役所さんと同じぐらいの立ち位置になれるんじゃないか、なっていてほしい、と僕が強く思えたんですよね。日岡はガミさんの血を受け継いでいく役だけど、このタイミングで役所さんと正面からぶつかってもらったことは、俳優としての桃李くんの今後につながってくると思うんです>と、松坂の今後にエールを送った。
白石監督の<今の役所さんと同じぐらいの立ち位置になれるんじゃないか、なっていてほしい>という願いはおそらく現実のものとなるだろう。今後、俳優として円熟していく松坂桃李から目が離せない。
(倉野尾 実)
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