エンタメ

男たちよ、幸せになって書を捨てよ! 『モテたいわけではないのだが』刊行記念トイアンナ×二村ヒトシ/トークイベントレポート

【この記事のキーワード】
トイアンナさん、二村ヒトシさん

トイアンナさん、二村ヒトシさん

 20184月、恋愛記事を多く執筆するライターのトイアンナさん・著『モテたいわけではないのだが ガツガツしない男子のための恋愛入門』(イースト・プレス)が刊行され、好調な売れ行きを見せている。20代男性の4割が童貞だと言われているこの時代、男性たちの恋愛観はどう変化し、どこに向かっているのか。5月、『すべてはモテるためである』(イースト・プレス)の著者でAV監督の二村ヒトシさんを迎え、トークイベントがおこなわれた(司会はライターのアオヤギミホコさん)。男の「モテ」とは何か? 男の「恋愛」とは何か? そこにヒントが散りばめられていた。

モテる同性はダサい? 変化した20代男性の恋愛観

二村ヒトシ(以下、二村) 僕が書いた『すべてはモテるためである』という本を読んで、今日の司会をしてくれているアオヤギミホコさんの知人の男性が怒り狂われたと聞きました。なぜ怒ったかというと、この本の最初のページに「なぜモテないかというと、それは、あなたがキモチワルいからでしょう。」と書いてあったからだそうで……。

アオヤギミホコ(以下、アオヤギ) そのフレーズを見た瞬間、「そんなのわかってるんだよ!」って、すごい勢いで本を投げ捨てていました。

トイアンナ(以下、トイ) 「自分の気持ち悪さと向き合え」と言われて、傷つき怒る方もいるでしょうね。私もたいがい気持ち悪い人間ですから、発売当時読んで「うっ」と刺さった思い出があります。私が今回書いた『モテたいわけではないのだが』は、その『すべモテ』と同じ文庫のレーベルで出版いたしました。ケンカを売っているわけではありません(笑)。二村さんの本がモテない男性の精神論というか、「こうしたらモテる男の心になれる」という啓発書だとしたら、私の本はモテない男性に向けて具体的な服装や話し方などのノウハウ的な話をさせていただいております。

アオヤギ 二村さんは、トイアンナさんの本を読んでいかがでしたか。

二村 読ませてもらう前から「すごく売れてるらしい」と聞いていたし、売れるだろうなとも思っていました。今の男性のニーズに合っていて、読者は精神論よりもノウハウを求めているのだろうな、と。

『すべてはモテるためである』の最初の版は1998年刊行ですから、もう20年前になるんですが、とくに話題にはならなかった。それが2012年の2回目の文庫化の時、めちゃめちゃ売れたわけです。社会での男性のありかた、恋愛や承認欲求についての考えかたが変化したからだろうと思うんですが、それがこの5〜6年で、また変わってきたんだなあと感じています。

トイ 私はライターを始めた頃、消臭芳香剤のマーケティングをしていました。そのとき消費者調査として購買層のアラサー女性からも話をうかがっていたんですね。それを契機にさまざまなヒアリングを始め、男性からも話を聞くようになりました。

それであるとき、20代前半の男性たちに話を聞いていたんです。そこに非常に面白い気付きがあって。40代の男性って「モテる同性」に嫉妬するんですよね。二村さんも、モテる男性としてうらやましがられたことがあるんじゃないですか。

二村 僕は、僕を好きな女性からは好かれるけれど、僕を嫌いな女性からは嫌われるというか相手にされないんですけどね。でも僕のモテてる側面だけを見ている同年輩の男性から、たしかに嫉妬されることはあります。

トイ そうやって40代男性がモテる同性に嫉妬する一方、20代前半の男性はモテる同性をうらやみません。なんなら、ちょっと軽蔑して「あいつ、女にがっついてダセェな」と感じる。そして、自分と同じくらいの顔や肩書きの同性に恋人ができると「なんで俺だけ不幸なんだ」と悲観してしまうそうです。

アオヤギ この「モテる」というのは、不特定多数の異性に求愛されているという状態ですね。

二村 そうだね。男の欲望の質というよりは、嫉妬のメカニズムが変わってきたのかな。男がモテたいと思うのって、女性を獲得したいというよりも「男性社会で認められたい」という欲望があるからだと思います。

トイ それは変わっていないけれど、ヒエラルキーのトップにいる男性像が変化している。

二村 女を多数はべらせているのではなく、1人の女性を大切にできて幸せそうにしてる、炎上とかしないソフトな男性のほうをうらやましく思うのかな。

トイ Twitterのフォロワー100人くらいの。SNSで特に何も発信しなくても、幸せなのが伝わってくるくらいの。

二村 ようするに最近の若い人は、人生をいい感じで穏やかに乗り切っていける同性が、うらやましいんですね。

男性が女性を憎まなくても良くなる

トイアンナさん

トイアンナさん

トイ ちょっと数字をご紹介すると、いま20代男性の4割が童貞なんですよ。

二村 だから、美女にモテまくる以前に「普通の彼女が一人いる」っていう立場が、もう嫉妬の対象になり得る。モテているという状況の「めんどくささ」や「非人間的な感じ」も、知られてきたのかもしれませんね。

トイ 「モテ」に憧れないかというとそうではないと思いますが、マンガやドラマなどのフィクションで見かけるレアなものという認識はあるのではないかと。モテの価値でいうと、昔は同性への評価として「でも、あいつモテないしな」っていう表現があり得ましたよね。

二村 「あいつは、ちゃんとした会社で働いてる、仕事できる、才能ある、でもモテてないから俺の勝ち!」ってやつね。確かに、昔はありましたね。いまでは「言うても、あいつ童貞だし」みたいなことでは、同性を引きずりおろせなくなった?

トイ 男性同士でも、そういうこと言うヤツのほうがダサいな、という空気が広がってきていると思います。

アオヤギ いまのようなお話を聞いていると、男性にとってモテも恋愛も「要らないもの」になってきているように感じられます。モテたって、恋愛したって、同性間でのヒエラルキーが上がるわけじゃないし。そんな中で、トイアンナさんがこの本を書いたのはなぜですか。

トイ この本を手に取ろうと思う人は、タイトルのとおり「モテたいわけではないけれど」彼女はほしいと思っている人だと思います。モテるためや、ナンパを上手くやるためのガイドブックはあるし、女と遊んでいる友達に話を聞いたりすることはできる。でも、それは彼女がほしい男性の求めている情報とはズレてしまいます。とはいえ、彼女がいる友だちに教えを請うのもなんか違う。

そういうロールモデルが見つけられない男性に、最低限の基礎情報をお伝えできればと思って書いたのがこの本です。筋トレでいうと最初のストレッチ、バレエで習う最初の足の形、野球の素振りのやり方みたいな。

二村 古典芸能やスポーツじゃないけど、形を100回やれば魂が入ってくるから、とにかくまず体を動かせと、トイさんの本はそういう本ですね。僕の『すべモテ』のように、先に精神論をぶちかまされても困るっていう(笑)。

去年、宮台真司さんと共著で『どうすれば愛しあえるの: 幸せな性愛のヒント』KKベストセラーズ)という本を出しました。この本で宮台さんは「やっぱりセックスをしないといけない。エロいセックスをしないと見えない大切なものがあるんだよ!」って、どっちかというとAV監督である僕のほうが言うべきというか言いそうなことを、ずっと仰っています。

でも僕は、すべての人にとって「本当にセックスって必要なのかな?」とも思ってるんです。僕はエロいセックスの映像が大好きだし、自分がするのも好きです。個人的にはセックスからしか得られない重要なものは、あると思っている。だけど別に、それはあらゆる人に当てはまることじゃないんじゃないだろうか。

ただし、僕自身がセックスに感じているような「自分というものを壊される」体験、それから「誰かを愛する(無条件に肯定する)」という体験、この二つは人間にとって必要です。セックスや恋愛によるものでなくていいけれど、これは味わったほうが生きていきやすくなる。タイトルと意地悪な冒頭で誤解されちゃうこともあるんですが『すべてはモテるためである』には逆説的に、そういうことを書いたつもりなんです。

モテる必要がない人は全然モテようとしなくていいし、無理して恋愛もしなくていい。でもね、その一方で「女になんか興味ないよ」って言いながら、すごく女性を憎んでいる人ってインターネット上に散見されるじゃないですか。そこに男性の暴力性みたいなものが乗っかってしまうと、秋葉原の連続通り魔事件やアメリカの銃乱射事件のような悲しい暴力が起こる。そういう人は、確かにモテる必要はないのだけれど、女性をはじめとした他者から柔らかい承認を得て自分を再構築する必要はあるんだろうなと思うんです。

異性を相手に、人と人としてちゃんと話をする。関わり合う。それによって、自分はダメだと思わなくてよくなったり、他者を憎悪する必然がなくなったりする。だから、そういう教育をまったく受ける機会がなかった人が、トイさんの本を手に取ってノウハウを1つでも実践してみることには価値がある。まずは奇抜ではない清潔な服を着るところから、とかね。

アオヤギ 写真付きでファッションガイドが載っていますからね。トイさんと二村さんの本で共通しているのが「愛されたい、愛し合いたい」もっと言えば「愛の承認を得たい」と思う男性に向けて書かれていること。

その上で、『モテたいわけではないのだが』は、まず愛される対象になるための基本の型を身につけることを伝えています。そして、『すべてはモテるためである』は、とことん自分を分析せよと教えてくれているんですね。

二村 トイアンナさんも僕も、これらの著書を通じて読者が、承認を得られないことで「他者に意識的に害をなす悲しい存在」になってしまわないように啓蒙したいんだと思います。

恋愛工学は「俺がモテないのは俺ではなく女が悪い」から「女を倒す」メソッド

二村ヒトシさん

二村ヒトシさん

二村 今日のトークイベントについて、アオヤギさんのツイートを見たら「恐ろしいイベントになりそう」と書かれていました。バトルが起きるのではないかと(笑)。その期待に応えて1つ批判させていただくと、トイさんの本は確かに今の若い男性のニーズに応えているのかもしれないけど、僕にはそんなに面白いとは思えなかったんです。それはなぜか考えてみて、結局はこれがコーチング的な本だからなのではないかと思いました。

哲学者の國分功一郎さんや、依存やケアの問題と取り組んでおられる医師で東大准教授の熊谷晋一郎さんから伺ったんですが、いま精神医療の世界では精神分析がまったく流行っていない。臨床の場では認知行動療法が主である。なぜなら精神分析的な治療で結果を出すには、コストも時間も非常にかかるからだと。

トイ 認知行動療法っていうのは、いまあなたに起きている問題っていうのは、あなたの心の中の何らかの勘違いですよ、だからこう考えたほうがいいですよ、というやつですね。

二村 そう、心の中に深く深く入り込むのではなくて、具体的な「自分を苦しめている思い込み」を発見して論理的に正していく。これは確かに即効性はあるんですね。ビジネスや自己啓発で使われるコーチングの手法も、目指すところは同じでしょう。でも僕は、そういう効能というか結論が決まっているっぽいスタイルに、あんまり興味がないんです。

さっきの「奇抜じゃない清潔な服を着ましょう」って、僕もトイさんも同じことを言っているんです。でもアプローチが違っていて、トイさんは「こういう服を着れば、女の子に避けられなくなるよ」と教えてくれる。僕は「きみは、なぜそんな〈女の子に避けられてしまうような服〉を着ることを選んでしまうんだろう? その原因はどこにあるんだろう? それで、きみは何がしたいんだろう? 〈モテないきみ〉は、どうして形成されてしまったんだろう?」と考えてほしいんですよ。

トイさんの本は「そういうことを考えよう」って本じゃないんだから、無いものねだりなのはわかってるんですけどね。まあ、素振りを100回、1000回やればそこに魂が宿るという話なんだから、行きつくところは同じかもしれないけど……。

トイ 私は10代の頃にメンヘラをやっていて、その病んでいるときに二村さんの本を読んですごく刺さりまくりました。そのあと1年間がっつり精神療法を受けて、メンヘラは治った。でも、そうやって自分の精神にダイブした結果、精神的に回復しても、技術がないと欲望を叶えられないんじゃないかと思ったんですね。

男性も、自分の精神や欲望を見つめた結果「モテたい」とか「愛されたい」「承認されたい」という気持ちを見つける。そのときに技術やテクニックを探そうとすると、恋愛工学のようなヤバいノウハウしか世間に落ちていないんですよ。精神論か恋愛工学しかない、普通の教科書がない。

二村 恋愛工学でモテても幸せにはならないからね。ナンパ・メソッドの本質って「俺がモテないのは俺ではなく女が悪い。だから必殺技で女を倒してやるぜ!」っていうスタイルの、自分自身を解体して再構築することとは程遠いものだから。それなのにナンパできる男になれて、自分が変われたように感じられちゃうからタチが悪い。

トイ なので、二村さんのような「考えさせる」本も非常に価値があり大切だとは思いつつも、普通の教科書がほしい! 赤本がほしい! という気持ちがあり、『モテたいわけではないのだが』を書きました。参考書でいうと「色々あるけど、最初はフォレスト買っとけ!」的な一冊を作りたかったんです。

二村 なるほどね。僕は、これからインターネットでもリアルの世界でも、男女の意識や生きかたのズレがもっともっと可視化されてくると思う。そうすると、異性への恨みという〈心の穴〉や〈インチキ自己肯定〉によって、くだらないことをしでかす人がますます出てくる。女性専用車両に乗り込む男とか、わざと人にぶつかって歩く人とか。男性のオタクをみんな敵だと思ってる人も、韓国人や中国人を敵だと思ってる人も同じ。そういう悲惨な暴力や差別が少しでも減るように、トイさんの本や僕の本を読んでもらって、異性や他者とコミュニケーションできるようになってほしい。そう願っています。

トイ 私も、この本を書く中でかなり意図的に「あなたは悪くないよ」と繰り返して伝えています。何かを踏み外したら他人に害を与えてしまうかもしれない人に、頼ってもらえたら嬉しいと思って。

二村 愛の効用っていうのは、目の前の相手や、一緒に幸せになりたい人と、同じ空気をつくるみたいなこと。協力したり支え合ったり、ときには女性の意見に従うのって、別に男性として去勢されたり牙を抜かれたりしたと感じるようなことではないんです。すべては幸せを感じるためだから。

逆に、昭和の女の人のように、男性の言うことにハイハイと従って男を立てるみたいな女性も「2人で同じ空気をつくっている」とは言えない。もっと、お互いが幸せになろうよ。

トイ 私や二村さんの書いたような本って、その人にとって不要になること、手放しても大丈夫な日が来ることが一番良い。なので、ぜひ実践していただいて、同じ空気をつくることができる相手に出会って、本を手放してほしい。また必要になったら買っていただいて(笑)。いつかこの本を使いこなして「もう俺は全部知っているぜ」っていう形で、幸せになってほしいなと思います。

 

トイアンナ(とい・あんな)
ライター。慶應義塾大学法学部を卒業後、外資系企業にてマーケティングを約4年担当。業務や自身の活動からヒアリングを重ね、現在は独立。800名を超える相談実績から独自の恋愛・婚活分析論を展開。男女のキャリア・生き方を考えるブログ「トイアンナのぐだぐだ」は月間最高50PVを記録。著書に『モテたいわけではないのだが ガツガツしない男子のための恋愛入門』(イースト・プレス)、『恋愛障害 どうして「普通」に愛されないのか?(光文社新書)http://toianna.hatenablog.com

二村ヒトシ(にむら・ひとし)
アダルトビデオ監督。1964年生まれ、慶應大学文学部中退。女性と男性の立場を逆転させる「痴女」ジャンルや、男優がまったく登場しない「レズ」ジャンルの演出手法を確立。現在はソフト・オン・デマンドで社外顧問を務める。いっぽうで自身の恋愛観を説いた著書『すべてはモテるためである』『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(共にイースト・プレス)が合計約20万部のベストセラーとなり、ジェンダー問題と親子関係、草食男子問題に言及する恋愛本ブームの草分けとなる。金田淳子氏・岡田育氏との共著『オトコのカラダはキモチいい』(角川文庫)ほか、恋愛やカルチャーに関する著書多数。
http://nimurahitoshi.net/

司会:アオヤギミホコ(あおやぎ・みほこ)
編集・ライター。1990年、東京生まれ。オタク・ネットカルチャーとインタビューを中心に活動している。
http://www.aoyagi-mihoko.com

 

(構成・むらたえりか)

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。