パパの家事育児、やってる人はやっている~水谷さるころ『目指せ! 夫婦ツーオペ育児 ふたりで親になるわけで』

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 この国ではほとんどの男女が結婚する際に「婚姻届」を役所へ提出し、夫婦となる。「法律婚」と呼ばれるが、このとき「婚姻後の夫婦の氏」を書く欄があるが、多くのカップルは女性側が男性側の姓を名乗ることになる。一方、法律上の婚姻をしていないが、社会的に夫婦と同一の生活を送っている状態を「事実婚」と呼ぶ。苗字を変える手続きの煩雑さなど法律婚にデメリットを感じているカップルや、現状ほとんど女性が姓を変えることに対する抵抗感などから事実婚を選択する夫婦もいる。

 イラストレーター・漫画家・グラフィックデザイナーの水谷さるころ氏が4月に上梓した『目指せ! 夫婦ツーオペ育児 ふたりで親になるわけで』(新潮社)は、法律婚の初婚から離婚を経験し、その後、ノダD氏と事実婚で再婚したのち、不妊治療を経て妊娠出産に至る自身の体験を記したコミックエッセイである。

 上記の通り、単なる夫婦の妊娠~出産エッセイではない。一般的にどういうものなのかわかりにくい事実婚についての細かなノウハウが記されているだけでなく、フリーランス夫婦の保活事情にも詳しい。タイトルにある通り『夫婦ツーオペ育児』を目指し奮闘する夫婦の記録でもあるため、とかく出産育児では女性の負担が大きくなるのが“常識”としてまかりとおる現代日本において、どのようにワンオペではないツーオペ育児を実践しているか細かく記されている点は、多くの共稼ぎ子育て世帯にとって参考になるだろう。

 事実婚を選択する場合、二人の間に生まれる子はどちらの姓を名乗ることにするかは、また考えなければならない事柄であるが、この夫婦の場合は、夫側の姓を選択することを決め、出産の時だけ婚姻届を出すという方法をとった。こうすることにより、事実婚のまま出産したのちの子の法的な手続きが不要になるほか、自治体が設けている不妊治療の助成金も受け取ることができるなどメリットは多い。本書は結婚〜妊娠〜出産にまつわるあるあるだけでなく事実婚にまつわるへぇ〜も盛りだくさんだ。

 家事育児全般を女(妻・母)が担当している人からしてみれば、水谷氏の夫・ノダD氏の家事育児オペレーション(ツーオペ育児)は驚きだろうが、あとがきで水谷氏は、ノダD氏に対する周囲の評価は「こんなにしてくれるパートナーでいいな」というものと「全然夫婦の分担、フェアじゃないじゃん! もっとノダD頑張れ」という意見に分かれたと記している。本書で最も議論になるのはここだろう。

 ノダD氏は、朝昼晩の食事の支度と後片付け、保育園のお迎え(週23回)、ゴミ回収とゴミ捨てを担う。水谷氏は洗濯と掃除、保育園の送り。子供のお風呂は水谷氏が入浴させ、ノダD氏が拭いて着替えさせる。寝かしつけは子供の指名で主に水谷氏だが、水曜夜は外出するためノダD氏が寝かしつけ担当。これを「確かにツーオペと称して差し支えない」と見るか、「もっと男性側がやること増やすべき」と見るか、はたまた「女性が男性に頼りすぎ」と見るか……そこはそれぞれの価値観だろう。

 ポイントは、夫婦双方がこの生活スタイルに納得しているということ。水谷&ノダD夫婦は<共有財産は持たない><「察してチャン」は禁止>など20項目の「我が家のルール」を取り決めている。なかなか多いような気がしたが、これは夫婦をチームと捉えた時、チームを円滑に回すために必要なルールなのだろう。共稼ぎでありノダD氏の方が収入は多い(が、前妻との子の養育費など出て行くお金も多い)ものの、光熱費などの固定費は水谷氏が支払い、不妊治療の費用も完全折半だったことについて友人女性が「その結婚、パートナーばかり得してない? さるころのメリットは何?」と懸念を示したとき、水谷氏はこう答える。「気が合うのが一番かな! あとはおいしいゴハン」「日常生活でちゃんと頼れるって本当に素晴らしい」。十分なメリットだと思う。

(wezzy編集部)

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