「こういうの好きでしょ?」と、仕事仲間から送られてきたSNSのリンク先には、新生児がギャン泣きしている写真。顔を真っ赤にして泣いている赤ちゃんは、手を白い液体へ突っ込まされている。なんだ、こりゃ~!? その投稿を読んでみると……はあ? 〈赤子ヨーグルト〉!? そこには、こんなコメントがついていました。
「どういうことですか? 豆乳を赤ちゃんが混ぜれば、固まるんですか?」
「はい。ヨーグルトになりましたよ。赤ちゃんの持っている乳酸菌のチカラです」
「赤ちゃんは乳酸菌の固まり!? という説は本当なのですね」
「すごい! すごい! 赤ちゃんって本当に乳酸菌の固まりなんですね」
「赤ちゃんの手の乳酸菌で、豆乳ヨーグルトができるんですね。びっくりです!」
赤ちゃんは乳酸菌の固まり!? 手の乳酸菌!? 私の中の常識が、発酵爆弾(シュースト缶のアレ)のごとくチュドーンと吹っ飛びそうなんですけど。菌についてのツッコみは後まわしにして、「ほかにもこんなことをやる人がいるのか?」を検索してみました。……はい、そこそこ存在するようですね。
天然酵母パンのお店を営んでいる女性のブログでは、「イベントで教えてもらった新しいヨーグルト」なる記事を発見。
「乳酸菌でいっぱいの赤ちゃんの手をチャプチャプ
乳酸菌の発酵を促す母乳も少し
ヨーグルトになるかな…
約24時間でこんな感じで固まった!!」
発酵ライフ研究家を名乗る男性のブログでも「乳酸菌の自給についての日記」というタイトルにて、「子供の手の常在菌でのヨーグルト作り」が紹介されています。
「瓶すりきり一杯に豆乳を入れ、子供の指をつけてグルグル」
「自分の乳酸菌を自分で培養して食べるコトが出来る。菌の自給!笑っ」
一時期流行った〈玄米豆乳ヨーグルト=玄米を常温の豆乳に入れ、玄米についている乳酸菌でヨーグルト状にするというもの〉は、「それって本当に乳酸菌なのか」「雑菌の温床」「醗酵じゃなくて腐敗」なんてツッコミが飛び交っていたなあ。
赤子ヨーグルトは可能なの?
そもそも。冒頭で紹介した〈赤ちゃんは乳酸菌の固まり〉って表現、なんでしょう。確かに生後3カ月頃になると、赤ちゃんの腸管はビフィズス菌が多くなると言われています。ビフィズス菌は乳酸菌と似たような働きをするため、〈だいたい同じようなもの〉と大変ざっくりひとくくりにする人もいるようですが、大きな違いのひとつに〈嫌気性=酸素があると生育できない〉という特徴が。ビフィズス菌は空気があると生きられない、のです。
つまりいくら赤ちゃんの腸管がビフィズス菌でいっぱいになっていても、体表についているワケではないのでは。まず、ココが「ないわ~」という点。お次は、酸素があっても活動できる、人体にも存在する乳酸菌はどうなのか? という点について。
ここで少し(?)悪ノリして、〈乳酸菌のプロ〉と言われる超大手メーカーへ突撃してみることに。もちろんこの物件メインで取材するのは申し訳なさすぎるため(そもそも相手にしてもらえないよな)、同業者の〈真っ当なテーマの取材〉に便乗した次第です。
さて質問はズバリ、「赤ちゃんの手を豆乳、もしくは牛乳にチャプチャプさせるとヨーグルトができるというウワサがあるんですけど、どう思われますか?」。
菌の専門家に聞いてみた!
超大手メーカーの学術ご担当及び広報様、予想通り思いっきり苦笑。でも「あくまで雑談の範疇ですが……」という、大人のご対応にてお付き合いくださいました。
広報「ご質問の〈赤ちゃんヨーグルト〉からは少々話がそれるかもしれませんが、当社の製品を使って自家製ヨーグルトができるかと聞かれることはあるんですよね。でも、作る過程で自然にいる菌も混入しますし、管理されていない環境下で作ることは、メーカーとしてオススメできないとしか言いようがないんです」
そりゃそうですよね~。
学術担当「調べたことがないので正確にはわかりませんが、そもそも〈手に乳酸菌はほぼいない〉といっていいでしょう。もしわずかな数がいたとしても、エサになるものがありませんし、生息しにくい環境です。それほど数もいない乳酸菌をそこから増やすには、よっぽど条件を整えていかないといけません」
では、〈乳酸菌以外の、皮膚に住む常在菌で固まることもある〉という前提で作るのはどうでしょう。素手でにぎったりかきまぜたりして作る食品を、〈自分の常在菌で作るオンリーワン食品!〉なんて表現で盛り上げる界隈もあるようです。