豆乳に新生児の手を入れてぐるぐるかき回す「赤子ヨーグルト」に発酵食品の神秘を感じている人たちへ

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学術担当「そうですね。手に何かしらの菌がいるのは確かですが、乳酸菌以前に黄色ブドウ球菌※<・small>とかもいますよね。いずれにしても、手の菌で食品を作ることに関しては、何とも言えません」食中毒、また肺炎、髄膜炎、敗血症等の原因となる

広報「小さい子どもの生活まわりは除菌されることが多いですから、それを考えると、子どもより大人のほうが菌は豊富かも? ということは、ひとつ言えそうです」

 とにかく、巷で報告されていた手作りヨーグルトと〈赤ちゃんの菌〉は、ほぼ関係ないということだけは、バッチリ確認できました。安全で健康に役立つ菌食品をいかに工業的に作り出すかに尽力する立場の方に、ベクトル真逆な案件についておうかがいしたため、全力で「答えにくい」というオーラが充満。始終「苦笑」というほかないお顔をさせてしまい、大変失礼いたしました。

豆乳が固まった理由とは?

 これらのお話と一般的な常識をつきあわせると、だいたい次のような結論となるでしょう。当連載における〈赤ちゃんヨーグルトまとめ〉です。

・ヨーグルト(的なもの)ができあがったのは、少なくとも〈赤ちゃんや子どもの常在菌〉ではない。そもそも表皮に、乳酸菌はほぼいないらしい。

・豆乳(もしくは牛乳)が固まったのは、その環境に生息していた他の菌がたまたま入っただけ。単なる〈ラッキー〉。

・成功報告者たちは日常的に醗酵食品を扱っているため、一般的な家庭よりも乳酸菌が室内に多い環境であると予想される。だから〈たまたま容器周りに乳酸菌が付着していた〉、もしくは〈空気中から入った〉。

 そしてもう一度、赤ちゃんは〈乳酸菌の固まり〉ではなく、正確には〈ビフィズス菌の固まり〉です(いや、固まりではないんですけどね)。そしてビフィズス菌は空気に触れると死ぬので、手作りヨーグルトと赤ちゃんは「まったく関係ねー」というお話。「でもコレで作れたもん!」という人は、ぶっちゃけ〈何か〉を加えてる可能性もありません?

 手作り醗酵食品を楽しんでいると、確かに「菌すげえ!」とテンションが上がるシーンは、多々あります。例えば我が家の冷蔵庫の奥には、数年前から放置されている「ケフィア(別名・ヨーグルトきのこ)」の種菌が眠っていますが、いつ確認しても腐敗臭はまったく感じられず、常にフレッシュなヨーグルトの爽やかな香り。いつまでも腐らない不思議な物体を確認するたび、「菌の神秘……!」な~んて、軽く感動はします。

有名雑誌がやらかした!

 さらにさまざまな研究によって〈菌〉の働きや重要性が広く知られるようになり、その不思議な力には驚かされるばかり。醗酵食品における菌の働きがより詳しくわかるにつれ、自然食品がお好きな人たちは「やっぱり先人の知恵は、理にかなっているのよ!」とドヤりたくもなるでしょう。

 手でかきまぜる〈味噌〉などは、作り手の皮膚常在菌が混入するため、それぞれの家庭特有の味になるなんてユニークな話もあるようです。ですから、もしかしたら〈奇跡の味に変える常在菌を持つ〉スーパーおばあちゃんもどこかの秘境に存在するかもしれません。

 しかし〈赤ちゃんはやっぱり特別!=子どもの菌は質がいい=自然な環境にいる菌こそ、安全でおいしい〉というような、事実以上の〈美しい物語〉を無理やりつけ加えられると、一気に〈手作り食品信仰の茶番〉という残念な空気が漂います。

 先月発売された雑誌『クロワッサン』(マガジンハウス)でも、エクストリームな醗酵語りが掲載されていました。東京医科歯科大学の名誉教授、藤田絋一郎氏が「おにぎりは発酵食品と同じです」とトンデモ発言をぶちかまし、「おにぎりを素手でにぎる効用は体内に乳酸菌などの常在菌を取り込むことです」という持論を展開しているのです。さらに料理研究家の本田明子氏は「人の手まで不潔だと悪モノにしたら、日本の伝統的発酵文化そのものが成り立ちませんよ」とコメント。

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