
「モーツァルト!」は帝国劇場で6/28まで!
劇場へ足を運んだ観客と演じ手だけが共有することができる、その場限りのエンタテインメント、舞台。まったく同じものは二度とはないからこそ、時に舞台では、ドラマや映画などの映像の世界では踏み込めない大胆できわどい表現が可能です。
映像作品では見かけたことない新参者なのに、キーとなる重要な役を担い、不思議な存在感と演技力を印象づける――。そういう俳優は得てして、舞台出身の場合が多いものです。それを最も強く印象づけたのは、NHKの連続テレビ小説『花子とアン』で一般層の知名度を一躍あげた吉田鋼太郎ですが、若手でいえば、TBS系ドラマ『あなたのことはそれほど』『下町ロケット』などに出演していた山崎育三郎も、鮮烈な印象を与えたといえるでしょう。
端正な顔立ちにインパクトある演技、バラエティ番組に出演すればトークも如才なくこなす山崎ですが、もともとの出自は舞台。それも、東京音楽大学で声楽を学んだゴリゴリのミュージカル俳優です。
現在は、ミュージカルの聖地ともいえる劇場、帝国劇場で上演されているオーストリア発の人気ミュージカル『モーツァルト!』に主演中。自分らしく生きることへの渇望と神に与えられた才能との板挟みに苦しむ、等身大の青年像の熱演で、山崎の“ホーム”ならではの魅力を存分に披露しています。
ミュージカル作品を生み出す地域というと、アメリカのブロードウェイとイギリスのウエストエンドが定番ですが、20年ほど前から注目されているのが、オーストリア。ミヒャエル・クンツェとシルヴェスター・リーヴァイという作曲家コンビによって生み出されたミュージカル「エリザベート」の版権を日本の宝塚歌劇団が購入したことがきっかけで、各国で上演されるようになり、世界のミュージカルの第三極に躍り出ました。
育三郎が演じるからこその、魅力
「モーツァルト!」は、「エリザベート」の次に上記のコンビが手掛けた作品です。主人公はオーストリアの生んだ音楽家モーツァルトで、1999年にウィーンで初演。日本での初演は2002年で、本公演が6度目の再演です。山崎が主演するのは今回が3度目。上演回数自体は日本がオリジナルのウィーンを越えているほど、日本のファンに愛されています。
物語の舞台は18世紀後半。ザルツブルクの宮廷楽師レオポルト・モーツァルトの息子ヴォルフガングは5歳で作曲をし、「奇跡の子」と呼ばれていました。成長するにつれ、領主であるコロラド大司教の支配下での音楽活動に窮屈さを感じた彼は故郷を飛び出し、マンハイムやパリでの失敗を経て、ウィーンで成功を手にします。そんなヴォルフガングのそばには常に、幼少時の彼の姿をした分身「アマデ」が寄り添っていました。
時代設定や人生のおおまかな歩みこそモーツァルト自身のものをなぞっていますが、同作の特徴は、現代のロック歌手のような、時代の流れや思想に逆らうマインドの持ち主として描いていること。そして、市村正親(レオポルト役)や山口祐一郎(コロレド役)といった、基本的には主役を務める大御所ミュージカル俳優が、若手俳優演じるタイトルロールを支える側に回った配役であることです。
周囲の役が時代がかったドレスや宮廷服のなかで、ヴォルフガングだけが、ダメージジーンズに、タンクトップや普通のシャツ姿。レオポルトが雇用主であるコロレドへの礼儀を説いても意に介さず、音楽の世界では自分は貴族と同等だとうそぶき、「そのままの僕をなぜ愛せないの」と訴えます。
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