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大坂なおみの「史上最悪のスピーチ」世界が絶賛した“大人力”とは?

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2018 BNPパリバ・オープン 女子 決勝

写真:AP/アフロ

 521日から始まった全仏オープンテニス。3月のBNPパリバ・オープンでツアー初優勝を果たした大坂なおみ(20)の対戦結果に期待が集まったが、61日女子シングルス3回戦で大坂なおみは、宿敵とも言われる13シードのマディソン・キーズ(アメリカ)にストレートで敗れ、16強を逃した。大坂は第1セットを1-6で落としたあとに、第2セットでは6-7まで挽回。このときのことを「負けたとしても、悔いは残したくない、最後のポイントまで戦い続けようとだけ考えた」と振り返る。結果はストレート負けとなったが、「この試合はたくさんのことを教えてくれた」と前向きに語った。

 今年3月、大坂なおみが世界中から絶賛されることとなる「史上最悪のスピーチ」を行ったことは記憶に新しい。318日(日本時間319日)、大坂なおみはアメリカのカリフォルニア州で開催されたテニスのBNPパリバ・オープンでツアー初優勝を果たした。ウィンブルドンや全米オープンなどの四大大会に次ぐ格付けの大会において、優勝した日本勢女子は大坂が初めてだ。そして、その優勝スピーチが大きく話題となったのだ。

ひたすら感謝の辞を述べるスピーチ

 大坂なおみ本人は自身のスピーチを「史上最悪のスピーチ」だという。しかし、観客はそう捉えなかった。このスピーチがテニスファンだけでなく、世界中の人々を魅了したのだ。

 ここまでいうと、一体どんなスピーチをしたのか…内容が気になるところである。しかし全世界の話題となった史上最悪のスピーチは、はにかんだ笑顔でただ感謝を伝えただけのものだった。

 動画で振り返ってみよう。

 

 

 まずは自己紹介。そして大会関係者、スタッフ、対戦した選手、スポンサー、ボールキッズ。ただ、名前を列挙しただけだ。それもスムーズに出てきた言葉ではない。「何か忘れてないかしら……」と自問自答し、スポンサー4社を無事に言い終えるまで観客もハラハラと見守る事態に。そして最後に大坂なおみが、満面の笑みで「これは、おそらく史上最悪の受賞スピーチになりそうです」と言い放ったとき、スタンドは大爆笑した。

 決して完璧と言えないスピーチであることは確かだろう。しかし、なぜこんなにも世界中で話題を呼び、愛されているのだろうか。

 1つは、大坂なおみの持つギャップだ。身長180センチから繰り出される迫力のあるプレーとは裏腹に、コートの外で見せたはにかんだ笑顔に、思わず口元が緩んでしまったという人も多いのではないだろうか。

 そして、もう1つ。大坂の持つ“大人力”だ。20歳とまだ若い大坂だが、このスピーチはまさに“大人力”というものを考えさせられるきっかけとなった。

 “大人力”というのは、2004年に石原壮一郎氏が出版した書籍『大人力検定』(文春文庫PLUS)がルーツとなっている言葉で、「大人が大人として生きるために欠かせない力であり、智恵やテクニックの集大成」である。生きていると、仕事でもプライベートでも困難や苦しみにぶつかる。その時に、真正面からぶつかるのではなくその脇をどうすり抜けるか、ストレスをかけずにいかに突破するか、決して「逃げ」や「ごまかし」ではなく自分を救い守る力、それが“大人力”だ。

 ツアー初優勝だった大坂は、試合のことで精いっぱいで優勝後のスピーチまで考えていなかったという。何を話していいかもわからなかったので、「みんなへの感謝」を言葉にした。台本も何もない。ただ、今の心情をすがすがしいまでに正直に口にしたのだ。

自分を救い守る“大人力”。

 良い響きの言葉を組み立てて、台本を作り練習したうえで行うスピーチが必要な場面は多くある。むしろ聴衆に訴えかける言葉を練りに練って挑むべき場面のほうが、大人には多いのかもしれない。一方で大坂のスピーチは率直で、何の準備もなかった。必死に闘いぬいた後の言葉には人間味溢れる泥臭さがあり、聴衆を喜ばせたのだろう。

 大坂なおみだけではない。最近、私たちは同じように、誠実で率直な言葉を述べ、心に伝わる“大人力”を発揮した若いスポーツ選手を目にした。毎日のようにワイドショーを賑わせた、日本大学悪質タックル問題だ。日本大学のアメリカンフットボール部に在籍し関西学院大学の選手に悪質なタックルをした選手(20)は、一人でマスコミ記者会見を行った。この記者会見に心を動かされた人が多かったことは、SNSを見れば明らかだ。記者との質疑応答においては、厳しい質問に対しても「逃げ」や「ごまかし」を行うことなく、真正面から回答していた。そしてその翌日に行われた、前監督とコーチの記者会見との差に我々は愕然とした。「逃げ」や「ごまかし」のオンパレードだったからだ。

 これまでの“大人力”とは、洗練されたスマートさであった。しかし、大坂たち若い選手が教えてくれた“大人力”は、泥臭く正面から向かって行く姿勢。自分の心に正直に話す、伝える、この瞬間に感じたことを言葉にする。その心から溢れた言葉は、深く人々の心に残り続けることを若い世代は教えてくれた。

 いよいよウィンブルドンテニス(全英オープン)2018が始まる。予選が625日(月)から、本選は72日(月)からだ。大坂の戦いはまだまだ続いていく。そして、人々を虜にした『史上最悪のスピーチ』をもう一度聞きたいと願ってやまない。

丸山明日可

フリーライター。うどん県在住のアラサー2児の母。着付け師。過疎の進む田舎町で家族4人、のほほんとした生活を送る。趣味は家庭菜園と酒(現在禁酒中)。いつか子どもたちの作った夏野菜を片手にビールが飲みたい。

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