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日韓双方に見捨てられた、朝鮮半島に取り残された日本人妻たち

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てがみ座

 劇場へ足を運んだ観客と演じ手だけが共有することができる、その場限りのエンタテインメント、舞台。まったく同じものは二度とはないからこそ、時に舞台では、ドラマや映画などの映像の世界では踏み込めない大胆できわどい表現が可能です。

 現在、世界はサッカーのワールドカップロシア大会の真っ最中。日本代表は惜しくも敗れましたが、こうしたスポーツの国際大会が開催されるたびについてまわるのが、選手たちの国籍の話題です。

 帰化した選手ばかりのチームは国の代表といえるのか、外国籍でも自国の血筋なら我が栄誉とばかりに報道されることの是非、そして、日本にとって近くて遠い国、韓国との確執――。

 侵略と、その後の大国からの蹂躙という不幸な記憶と歴史は、どうしたら乗り越えられるのか。小劇場の劇団ながら、そんなデリケートな題材に真っ向から挑んでいたのが、劇団「てがみ座」が6月に上演した「海越えの花たち」。戦後の日韓双方に見捨てられた、朝鮮半島に取り残された日本人妻たちが、国籍ではなく生き方で自分の居場所や在り方を見出す群像劇です。

※文中の表現は、劇中のセリフに準拠しています。

歴史の動きから取り残された女性たち

 1945年8月15日。朝鮮半島・慶州の村の両班(貴族階級)に嫁いだ日本人・風見千佳は、日本が戦争に負け朝鮮半島の統治が終わったと知っても、日本兵として出征した夫・李志英を慕いその帰りを待つため帰国を拒否。一夜にして態度の変わった村人たちから家財を略奪されそうになるも、嫁ぐ際に父からもらった「婚家に尽くし立派な日本人として、立派な朝鮮人になるように」との教えを胸に、両班の責任を果たそうとします。

 徴用され日本で働いていた朝鮮人男性と結婚し、朝鮮に渡った松尾ユキは、身重にもかかわらず終戦すぐに夫に離婚を言い渡され、駅の構内で死産。朝鮮人との縁組を反対していた父親には結婚のときに縁を切られており帰国できず、千佳に助けられ、韓国でともに暮らすように。

 太平洋戦争終結時、朝鮮半島には100万人を超える日本人が住んでおり、1948年には彼らの国内への引き上げは完了したとされています。しかし、朝鮮人男性と結婚し日本国籍がなかった女性たちは存在を無視され、日本へ戻ることができませんでした。そして同年、大韓民国、朝鮮民主主義人民共和国が建国されました。

 てがみ座は、脚本を手掛ける長田育恵が主宰し規模こそ小さいものの、ひとの心の機微をていねいに描いた作風で、近年、演劇ファンのなかでも“オトナ”の作品を求める層に人気を集めている劇団です。

 好むと好まざるとにかかわらず帰る場所のない日本人妻たちへ侵略の恨みをぶつける朝鮮人の男たちの姿は、日本人にとっては自虐的で露悪的な描写になりそうなもの。しかし長田の脚本は、歴史モノにありがちなセリフが冗長になることもなく、戦争自体の理不尽さを淡々と展開していきます。ユキの「連れて来ておいて、あんたらのせいで親に見捨てられた」という言葉は、国家が引き起こした悲劇よりもむしろ、恋をし結ばれたいと思った心を、自分勝手な男たちに踏みにじられる普遍的な切なさを強く感じさせるものでした。

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フィナンシェ西沢

新聞記者、雑誌編集者を経て、現在はお気楽な腰掛け派遣OL兼フリーライター。映画と舞台のパンフレット収集が唯一の趣味。

twitter:@westzawa1121

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