そこには、精神疾患による経済困窮という切実な問題がありました。彼女は国際基督教大学(ICU)でジェンダーを学び、卒業後はベンチャー企業に就職。しかし精神疾患を患ってしまい解雇され、そこから安定するまでに時間がかかりました。その間の仕事として彼女は銀座でホステスとして働くのですが、お客であるおじさんたちからのセクハラがひどく、「自分の給料に何が含まれているのかがわからない」と感じたそうです。どこまでが仕事の範囲内なのかわからない、グレーな部分の多さに納得できなかったのです。
「人として見られる仕事がしたい」そう考えて、女性相手のレズ風俗で働くという選択をしたとのことでした。女性相手の仕事は対等に尊重されている感覚があると彼女はいいます。そうした彼女の感覚とお客さんが感じる悩みの問題の根本とが、つながっているように私は感じました。
同会では「レズ風俗はいったいどんなところなのか」や「利用客の傾向」について紹介がありました。
お客さんはレズビアンとは限らないどころか、レズビアンは少数だそうです。だいたい1、2割は彼氏がいたそうです。
レズ風俗から見えてくる女性の悩み
そのなかで彼女が思ったのは「お客さんたちは、本当にセックスしたいの?」ということでした。なぜならお客さんの8、9割が下記のような悩みを抱えてレズ風俗を利用していたからです。
・自分はレズビアンなんじゃないか、バイセクシャル・パンセクシャルなんじゃないかというセクシャリティの悩み
・「自分の身体は変なんじゃないか」など身体のコンプレックス
・「イッたことがない」などセックスの悩み
・恋愛経験がない、セックス経験がないことへの焦りやコンプレックス
ほかにも、何に悩んでいるかすらもわからないと思いながら「何か変わるのではないか」とやってきた人もいたようです。
女性がこうした悩みを抱えるのは、個人の問題だけではない、と感じます。「合意がないのに体を触られる」「体を評価される」など、性に関わる場面では特に、女性が尊重されないことが多くあります。LGBTの活動が盛んになり認知されてきたとはいえ、いまもセクシャルマイノリティへの偏見はありますし、社会的に困難を抱える場面は少なくありません。また娯楽コンテンツ以外に“学ぶ”場が少ないことで、性についての知識が偏り、多くの人が性についてなかなか人に相談できず悩みが閉じてしまっています。これは、もはや社会問題といえます。
女性が性を語りにくい社会
もちろんカビさんのようにレズ風俗でセックスをして初めて生きづらさの正体が見えてくることもあります。しかし、それはあくまできっかけに過ぎません。みつさんは「必要なのは話を受け止めて聞いてもらうことや、対話をすることなのではないか」と思い、この会を開催しました。
参加者を交えたトークタイムもあり、女性同士の交際やセックスについての悩み、「二次元育ちで実際のセックスのときにぜんぜんイメージと違い困惑した」という話が出てきました。参加者同士で「中で感じるにはどうしたらいい?」など膣内の開発の仕方などの情報交換などもされていました。
「本当は気になっているけれど、ほかでは話せない」という感想が多く、普段は性についてなかなか語れないと感じている人が多いのだと感じました。
会の最後に、みつさんがこれからやっていきたいことを提案しました。
彼女はみんなが性について安心して相談したり、話したりできる、情報の集まる場を作りたいそうです。ゲイ向け、ビアン向け、LGBT向け、はそれぞれあるものの、横のつながりがないと感じていて、いろんな情報に繋がれる場が必要だといいます。自身の経験から、さまざまな生きづらさに陥る“マルチマイノリティ”もあると感じているからです。
レズ風俗という場でしか悩みを話せないくらい、女性の悩みが閉じている状況はやはり望ましくなく、悩みをもっと気軽にオープンにできる場が必要だという彼女の意見は、私が運営する、性を語れる文化をつくるプロジェクト「SEX and the LIVE!!」の趣旨と共通していました。そこで改めて女性がセックスについて語れる場を設けることになりました。
次回は、5月の東京レインボープライドで開催した女性がセックスや性について語るイベントを通じ、「女性が性を語る」ことについてお話します。