同性愛ゆえタブー視されたミュージカル作品が、普遍的な家族愛を描く名作に変容した時代の変化

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Thinkstock/Photo by Cineberg/Photodisc

 劇場へ足を運んだ観客と演じ手だけが共有することができる、その場限りのエンタテインメント、舞台。まったく同じものは二度とはないからこそ、時に舞台では、ドラマや映画などの映像の世界では踏み込めない大胆できわどい表現が可能です。

 先月末、著名な経済評論家が同性のパートナーと交際、同居していることを発表し、大きな話題になりました。

 2度の婚姻歴で3人の子どもがいるうえでの公表には賛否両論がありましたが、否定意見の多くは「子どもの気持ちを考えろ」というもの。血縁関係でない相手がひとつ屋根の下にいるストレスはともかく、性別については、家族を含む当事者たちが納得しているのならばそれでいいように思えます。

 しかし子どもたちがいざ結婚とでもなったとき、相手やその家族が戸惑うであろうことや、そのために縁が壊れることを危惧して自身の家族関係もギクシャクする可能性は、否定はできないでしょう。

 子どもの結婚話がきっかけで、長年の夫婦関係と家族の絆を試されるのは、どんな家庭でも起きうること。家庭のあり方が多様化しているとはいえ、適齢期の子どもを持つ親が同性愛カップルという家はまだまだ少なく、ハードルもより高いのが現実です。

 ブロードウェイミュージカル「ラ・カージュ・オ・フォール」は今から30年以上も前に、そんな話を描いた作品。軽妙なコメディでありながら、自身のアイデンティティを認めてありのままに生きることと、性別を超えた普遍的な家族の愛を描いています。

 南フランス・サントロペのナイトクラブ「ラ・カージュ・オ・フォール」のオーナー・ジョルジュと、クラブの女装ショーの歌姫・ザザことアルバンは、20年間事実上の「夫婦」として過ごしてきたゲイカップル。ジョルジュには過去の「一夜のあやまち」でできてしまった息子のジャン・ミッシェルがいて、アルバンが母親がわりとなり、ふたりは彼を大切に育ててきました。

「普通の家族」ってなんだろう。

 そのジャン・ミッシェルが、結婚したいと恋人アンヌを連れてきますが、彼女の父親は、街の風紀を乱すとしてナイトクラブの廃絶を訴える保守的な政治家のダンドン議員。ジャン・ミッシェルは、ダンドン議員夫妻と顔合わせをする一晩だけ、普通の家族を装ってくれるようジョルジュに懇願し、実母を呼んで、アルバンは叔父を装うことに。しかしずっと会ってすらいなかった実母にドタキャンされ、女装したアルバンが母親の振りをすることになります。

 同作は、1983年にニューヨークで初演され、その年のトニー賞6部門を受賞。原作は、俳優としても活躍したジャン・ポワレが1973年に書き下ろした、荒唐無稽な登場人物や性的なギャグを盛り込んだ舞台劇で、『Mr.レディ&Mr.マダム』の邦題で映画化もされています(余談ですが、日本でも美輪明宏の演出で81年に上演されています)。

 脚本は自身もゲイであることを公にしているハーベイ・ファイアスティンで、日本では1985年に帝国劇場で初演。オネエキャラで人気を博したダンサーの真島茂樹が初演からクラブの女装ダンサー役で出演しており、日本版オリジナルの振付も手掛けています。

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