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株式会社明治安田生活福祉研究所が2018年3月に実施した「出産・子育てに関する調査」の結果が発表された。調査対象は全国の25~44歳の男女(ただし、質問により対象の年齢層が異なる場合があるとのこと)、調査方法はWEBアンケート調査、調査時期は2018年3月9日~3月12日、回収数は12,221 人だ。
家事・子育ての夫婦間の分担割合の実態からは、思い描く理想と目の前の現実に隔たりがあること、そして夫婦間で認識にギャップがあることがわかった。
たとえば【理想とする夫の分担割合】を夫婦の働き方の組み合わせ別に見ていくと、夫婦ともに正社員の共働き世帯では男女ともに「5割」の回答が最も高い(男性55.1%・女性53.7%)。夫正社員・妻非正社員の共働き世帯では、男性は「5割」が最も高くて36.0%、女性は「4割」が32.6%、「5割」が32.4%。専業主婦世帯では、男性は「5割」が最も高くて 28.9%、女性は「3割」が最も高くて34.2%。平均すると「理想とする夫の分担割合」は、夫婦共働き世帯で男性4.2割・女性4.3割、夫正社員・妻非正社員の共働き世帯で男性3.7割・女性4.0割、専業主婦世帯で男性3.5割・女性3.6割といったところ。
ところが、【現実の夫の分担割合】はというと、“夫の言い分”より“妻の認識”のほうが低いという結果。夫の分担割合について夫婦の働き方の組み合わせ別に見ると、夫婦ともに正社員の共働き世帯では、夫の回答で多いのは「3割(25.5%)」「5割(24.4%)」で平均3.4割となるが、一方妻は夫の分担割合を「1割以下(30.1%)」「2割(28.2%)」と答える人が多くて平均2.5 割。夫側は「3.4 割」分、家事・子育てをしていると認識しているが、妻側は夫は 「2.5 割」分しかやってないとの認識ということか。夫正社員・妻非正社員の共働き世帯でも夫平均2.8割・妻平均2.1割、専業主婦世帯でも夫平均2.7割・妻平均2.1割となっており、多くの家庭において妻は、夫自身が思うほど、夫が家事・子育てを担っているとは感じていないようだ。 ここのギャップは夫婦に溝を作ってしまうだろう。
子どもの年齢別に見る、女性の働き方の理想と現実にも、大きなギャップがあった。子どもがいる25~44歳の既婚女性にたずねた【第1子の妊娠・出産を機に仕事をやめた理由(複数回答)】では、「子育てをしながら仕事を続けるのは大変だったから(52.3%)」、「子育てに専念したかったから(46.1%)」、「自分の体や胎児を大事にしたいと考えたから(41.8%)」、「職場の出産・子育ての支援制度が不十分だったから(27.9%)」と続く。ちなみに「保育所など、子どもの預け先を確保できなかったから」は10.9%となっている。10人に1人が第一子妊娠・出産のときに待機児童問題等で仕事を断念したということになる。
25~44歳の既婚女性および子どもが欲しい気持ちがある未婚女性にたずねた【子どものライフステージに応じて、どのような働き方が理想的だと思うか】では、子どもがいる既婚者・子どもがいない既婚者・未婚者いずれの属性においても、結婚から第1子出産までは「正社員でフルタイム勤務」と答える割合が最も高く(子どもがいる既婚者57.2%、子どもがいない既婚者55.8%、未婚者61.3%)、末子が未就園児の時は「専業主婦」の割合が最も高いという結果(子どもがいる既婚者 55.8%・子どもがいない既婚者 48.1%・未婚者 37.1%)。
しかし「専業主婦」を理想とする割合は、いずれの属性においても末子の成長とともに減少していき、末子が中学生以降となると子どもがいる既婚者11.0%、子どもがいない既婚者4.6%、未婚者6.3%。他方、「正社員でフルタイム勤務」を理想とする割合は末子の成長とともに高まっていき、末子が中学生以降ではいずれの属性でも最も高い割合(子どもがいる既婚者39.8%・子どもがいない既婚者45.4%・未婚者51.5%)。共働き世帯が専業主婦世帯を上回って久しいが、2018年時点でも子どもが小さいうちは専業主婦を理想と考える女性は少なくないようだ。しかも子どもがいる既婚者にその割合が高い。子アリ既婚者は専業主婦希望率が高く、子の成長後正社員フルタイムを望む割合は子なし既婚者や未婚者に比べて少ない。実際に産んで育てていく中で、限界や諦めを感じた人もいるということではないだろうか。つまり、現状は育児と仕事の両立がやりづらい社会だということである。
育休明けの職場復帰での満足度
実際の女性の働き方を見ていくと、こちらもやはり理想と現実にはギャップがあることがわかる。25~44歳の既婚女性に【現在の働き方】をたずねると、末子が未就園児の女性は「専業主婦」が73.4%と最も高く、ここまでは“理想通り”な人もいるかもしれないが、子どもの成長とともに専業主婦ではなく働くことを希望する女性が多いというのに、現実の「専業主婦」の割合は、末子が保育園児・幼稚園児で37.8%、末子が小学生で39.4%、末子が中学生以降で36.0%と、いずれも4割近く。働きたいのに何かしらの理由で働けていない女性が少なくないようだ。
さらに理想では4~5割を占めていた末子が中学生以降での「正社員でフルタイム勤務」は、現実では2割程度の18.4%しかいない。ちなみに「正社員での短時間勤務」は、末子が未就園児で3.7%、末子が保育園児・幼稚園児で7.4%、末子が小学生で2.4%、末子が中学生で5.8%と「正社員でフルタイム勤務」よりも少数派。女性の社会進出が進んだといわれているが、中学生以下の子どもがいる女性にとって正社員のハードルは高いようだ。
では、実際に産休や育休から仕事復帰した女性の満足度はいかがだろうか。第1子の産休後または育休後から仕事復帰した女性の【復帰後のポスト・仕事内容】を見ると、「全く同じだった」が最も多く 64.4%。「悪いほうに変わった」は21.0%、「良いほうに変わった」は14.5%だ。さらに、この女性たちにたずねた【復帰後の仕事に対する満足度】では、「全く同じだった」人のうち約7割が「満足」あるいは「どちらかと言えば満足」と回答していることから、実際に仕事復帰した女性の多くは復帰後のポストや仕事内容に変化がなく、復帰後の仕事に対して概ね満足していることがうかがえる。半面、「悪いほうに変わった」人の約7割は「不満」「どちらかと言えば不満」と答えている。
また、第1子の育休後に仕事復帰した25~44歳の女性の【育休前の年収に対して復帰後の年収】は、「100%(変わらない)」が約40%、「50~75%未満」「75~100%未満」はそれぞれ約25%で、やはり復帰後の年収が「100%(変わらない)」人は【仕事に対する満足度】が高く、約8割の女性が「満足」「どちらかと言えば満足」と回答している。
男性は「手当金」を、女性は「時間」を望む傾向
現在働いている 25~44 歳の既婚者にたずねた【子育てと仕事を両立させていくうえで、勤務先等の制度に充実を望むこと(複数回答)】でも、回答結果には男女差があった。たとえば「扶養手当等の支給」は男性では最も割合が高く、子どもの有無にかかわらず3割以上が希望しているが、女性では子どもの有無にかかわらず約1.5割にとどまる。他方、「子育てのための勤務時間・勤務日数の短縮措置等」では、男性は子どもの有無にかかわらず約3割、女性は子どもの有無にかかわらず約5割と、女性は子育てと仕事の両立がしやすい環境を望む傾向にあるようだが、これも夫婦間の子育て・家事の分担割合を反映してのことなのかもしれない。
さらに、子どもの有無にかかわらず共働きの夫婦のうち夫が正社員である30~39 歳の男 女に絞って、勤務先等の制度に充実を望むことを見てみると、夫婦ともに正社員である男性で最も高いのが「子育てのための勤務時間・勤務日数の短縮措置等」であるのに対して、夫正社員・妻非正社員の男性では「保育料補助等の支給・増額」「扶養手当等の支給」が高い。一方女性は、本人が正社員であろうが非正社員であろうが、いずれの場合も「子育てのための勤務時間・勤務日数の短縮措置等」が最も高くて4~5.5割となっている。
では、職場の人は育児休業や時短勤務についてどのような意識なのだろうか。正社員または非正社員として仕事をしている25~44歳の既婚者・未婚者にたずねた【育児休業中や子育てで時短勤務中の社員の仕事について自分が担当することになった場合の気持ち】に「持ちつ持たれつだから当然」と回答した割合が最も多かったのは、子どもがいる既婚者で男性61.7~65.4%・女性55.5~70.2%。子どもがいない既婚者が男性45.3~58.4%・女性33.1~51.9%、未婚者が男性35.4~45.7%・女性28.6~42.5%だった。「事情はわかるし、協力するが、長期間の負担や過度の負担は避けたい」と回答した割合が最も多かったのは未婚者で男性43.7~53.3%・女性51.2~60.5%となっている。
子どもがいて現在仕事をしている25~44 歳の既婚者にたずねた【家事・子育てのために早く帰宅しようとする際に、職場の上司や同僚の視線が冷たい・気になるか】の回答結果もまた、男女差が生じていた。男性が「どちらかと言えばあてはまる」と答えた割合は、末子の年齢が0~6歳で約3割、末子の年齢が7歳以上で約4割(38.6%)と、子どもが小学生になると早く帰宅しづらいと感じる人が増えている。対して女性が「どちらかと言えばあてはまる」と答えた割合は、末子の年齢が0~3歳で約4割(40.6%)だが、末子の年齢が4~6歳および末子の年齢が7歳以上では3割以下と、子どもの年齢が低いほうが早く帰宅しづらいようだ。これは、父親よりも母親が、時短勤務や子どもの対応(病気や予防接種など)で遅刻・早退・欠勤する傾向が強いことが関係しているのかもしれない。
同じく【仕事に加えてこれ以上の家事・子育ての負担には耐えられないと思うか】には、男性の4~5割、女性の約7割が「どちらかと言えばあてはまる」と回答。女性の割合が多いとはいえ、男性もおよそ半数がもうこれ以上は無理と感じていることがうかがえ、多くの人にとって仕事と家事・子育ての両立が負担となっているようだ。
育児休業は男性も7~8割が「取得希望」
子どもがいない25~44 歳の既婚者・未婚者のうち、子どもが欲しい気持ちがある・あっ た男女にたずねた【今後、子どもが生まれた場合に、育児休業を取得することについての気持ち】には、男性7~8割、女性8~9割が「ぜひ育児休業を取得したい」「できれば育児休業を取得したい」と男女とも育休取得に積極的で、男性に至っては、政府の掲げる「2020年までに男性の育休取得率を13%に」という数値目標を上回る数で育休取得を望んでいるらしい。今年5月の厚生労働省の発表によると、2017年度の育児休業取得率は男性が5.14%(前年度比1.98ポイント上昇)、女性は83.2%(前年度比1.4ポイント上昇)。男性の育休取得が5%を超えたのは初めてのことだが、しかし現実の男性の育休取得はまだまだ浸透していない。それでも、育休は労働者の権利であり、育児は男女関係なくするものだという認識自体は、ようやく少し浸透してきたと言えるかもしれない。
しかし「あまり育児休業は取得したくない」「育児休業は取得したくない」と答えた人の理由はというと、男性は「収入が減り家計が苦しくなるから(子どもがいない既婚者64.4%・未婚者58.1%)、「配偶者が育児休業を取るから(子どもがいない既婚者38.6%・未婚者 17.9%)」、「自分の仕事を代替してくれる人がいないから(子どもがいない既婚者28.8%・未婚者30.4%)」と、収入や職場の心配に加え、配偶者が育休を取るから自分はその必要がないとの考えもある。
一方、女性の理由を見ると「家事や子育てに自信がないから(子どもがいない既婚者28.7%・未婚者24.8%)」と「収入が減り家計が苦しくなるから(子どもがいない既婚者 28.7%・未婚者 23.9%)」がほぼ同水準だ。また、「育児休業を取ることで職場での評価や昇進、配属などで不利な扱いを受けそうだから」と回答した女性の割合は、子どもがいない既婚者4.3%・未婚者11.1%と、未婚女性のほう出産・育児が自身のキャリアに与える影響に不安を強く感じているようだ。
子どもを産み育てるとしたら、当然、世帯収入はUPさせたい。子が複数ならばなおさらだ。しかし出産・育児をすればするほど、減収せずに働き続けることは難しいという企業文化、社会の構造がある。常態化した長時間労働や、残業ありきの給与設定、雇用の調整弁にされる非正規雇用、顧客本位の過剰なサービス……複雑に絡み合ったいくつもの労働問題が、労働者および各家庭に与える影響は大きい。この社会に漂う疲弊した空気は少子化とも密接につながっている。働くことと家庭を営むことに矛盾が生じてしまう現状が変わらなければ、上昇気流には乗れないだろう。