『万引き家族』是枝監督への批判に覚える危機感 私たちは日本に感謝して生きなければいけないのか

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『万引き家族』公式サイトより

 第71回カンヌ国際映画祭でパルムドール賞を受賞した映画『万引き家族』。日本映画として21年ぶりの快挙で、是枝裕和監督がはにかみながら記念の盾を持つ姿が記憶に新しいでしょう。68日には上映が開始されました。

 『万引き家族』は日本の最貧困層の家族を描いた映画です。貧困などの社会問題に触れているものの、政治色の強い作品ではありません。しかし、この映画は受賞直後から政治的な争いの中に置かれました。

 例えば、アメリカの週刊誌『ハリウッド・リポーター』は日系イギリス人のカズオ・イシグロさんがノーベル文学賞を受賞したときには安倍首相が祝辞を出したのに、是枝監督には電話もメッセージも無かったと指摘。対応に差があるのは、映画の内容が保守派の安倍首相を怒らせたからではないかと憶測しました。また、フランスの『フィガロ紙』も、同様の言及がありました。

 この件は国会でも、立憲民主党の神本美恵子議員が「政府は是枝監督を祝福しないのか」と林芳正文部科学大臣に質問しました。それに対し林大臣は「『万引き家族』がパルムドールを受賞したことは誠に喜ばしく、世界的にも高い評価を受けたことは誇らしい。来てもらえるかわからないが、是枝監督への呼びかけを私からしたい」と、回答。この政府が表明した「祝意」について、是枝監督はブログで下記を表明しています。

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実は受賞直後からいくつかの団体や自治体から今回の受賞を顕彰したいのだが、という問い合わせを頂きました。有り難いのですが現在まで全てお断りさせて頂いております。
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映画がかつて、「国益」や「国策」と一体化し、大きな不幸を招いた過去の反省に立つならば、大げさなようですがこのような「平時」においても公権力(それが保守でもリベラルでも)とは潔く距離を保つというのが正しい振る舞いなのではないかと考えています。
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今回の『万引き家族』は文化庁の助成金を頂いております。ありがとうございます。助かりました。しかし、日本の映画産業の規模を考えるとまだまだ映画文化振興の為の予算は少ないです。映画製作の「現場を鼓舞する」方法はこのような「祝意」以外の形で野党のみなさんも一緒にご検討頂ければ幸いです。
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 この是枝監督の文章に、保守派と思われる人がSNSにて「公権力とは距離を保つと言いながら助成金はもらうのか」と一斉に批判。そこに著名人や政治家まで加わり出しました。

 群馬県伊勢崎市議会議員の伊藤純子氏は「作品の寸評はさておき、是枝監督の『公権力から潔く距離を保つ』発言には呆れた。映画製作のために、文科省から補助金を受けておきながら、それはないだろう。まるで、原発反対の意向を示しながら、国から迷惑施設との名目で補助金を受けている自治体と同じ響きがして、ダサい」とツイート。また、兵庫県神戸市会議員の上畠寛弘氏もツイッターで「是枝監督の『公権力とは距離を置かなくてはならない』という考えもあると思いましたが、国から助成金をもらっていた。 マイケルムーアもびっくり」と是枝監督の姿勢を批判しています。

 何人かの著名人もこの流れに乗っかっています。「ZOZOTOWN」を展開する株式会社スタートトゥデイのコミュニケーションデザイン室長の田端信太郎氏も「『金を出すなら、口も出す』というのが、古今東西、普遍の真理。国民から預かった「血税」のわけですからね」とツイート。また、経済評論家の渡邉哲也氏も「フランス政府が始めたカンヌ映画祭のパルムドールと文化庁からの助成金を返納しないと理屈が合わない」とツイートしました。

 私はこういった批判に危機感を覚えます。なぜなら、日本が国民主権の国であることが置き去りにされているように感じるからです。

 そもそも、助成金制度は、誰が、誰のために設立したのでしょう。政府が国民のために設立してあげたものだから、国民がそれを利用するなら、政府に感謝し礼儀を見せるべき、というのが一部の保守派の理屈なのだと思います。

 しかしこの理屈は、まるで政府と国民が対等か、もしくは政府の方が上の立場のように捉えられています。しかし間違っていけないのは、あくまで国民に主権がある、ということです。政府は国民が支払う税金の一部を給料として雇われ、国民から信任を受けて執政する人々に過ぎません。つまり、助成金制度は国民が政府という機関を通して作った、国民のためのサービスです。是枝監督は一国民としてその制度を利用したまでです。

 それに、一部の保守派がいうような理屈では、公共施設や社会保障を利用している私たちは、日々国に感謝し、礼儀を尽くさなければいけないということになるでしょう。

 ほとんどの人々は是枝監督を批判する人たちに呆れ、くださなさを感じていると思います。しかし、伊藤純子氏と上畠寛弘氏のように、国民主権を厳守しなければならない立場なのにも関わらず、それを無下にする発言をする現職の政治家がいることについては、私は重く受け止め、危機を感じています。有権者としてこういった政治家もいることを心に留めておきたいです。
(北川アオニ)

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