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児童虐待情報の共有へ、凄惨を極めた目黒女児虐待事件を機に動く社会

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Thinstock/Photo by Evgen_Prozhyrko

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 今年3月、東京都目黒区で船戸結愛(ゆあ)ちゃん(5=当時)が父親から殴られた後に死亡した事件で、警視庁捜査1課は66日、父親で無職の船戸雄大被告(33)と母親の優里容疑者(25)を保護責任者遺棄致死容疑で逮捕した。結愛ちゃんは、両目付近に打撲の痕や、体に複数のあざがあったほか、足の裏にはしもやけができており、雄大容疑者から日常的に暴行を受けていたとみられている。また結愛ちゃんは12キロまで痩せており、5歳児の標準体重が20キロであることから、食事の量も制限されていた疑いがある。さらに、結愛ちゃんが生前に書かされていた反省文の存在も明らかになった。家族が眠る中早朝に一人で起きて、ひらがなの練習をするように命じられていたのである。

「きょうよりかあしたはできるようにするから ゆるしてください」

 5歳の女児が朝4時に起きてこうした「反省文」を書かされていたことは驚きをもって受け止められ、行政をも動かした。

 東京都では小池百合子都知事が68日の定例会見で、虐待を疑われる児童の情報について、児童相談所と警察との情報共有を広げる考えを表明した。

 また、立憲民主党は6月14日に開かれた政調会合で、この事件を受けて児童虐待への対策を強化する児童福祉法および児童虐待防止法改正案の素案をまとめた。厚生労働省が2019年度までに目指すとしている児童福祉司の増員(約550人)について、時期を前倒しにすることと、増員数を約1000人にすることを肝に、自治体ごとの児童相談所間での情報共有を促進する方策なども盛り込まれている。改正案は現在開催中の国会への提出を目指しているという。

児童相談所と警察の連携強化

 雄大被告は結愛ちゃんとは血が繋がっておらず、結愛ちゃんは優里容疑者と前夫との間に生まれた子供だ。一家は今年1月まで香川県善通寺市に住んでいたが、ここですでに、結愛ちゃんは二度、児童相談所に保護されていた。すでに香川県にいるときから虐待があったという情報を香川の児相から引き継いだ品川児相は今年2月、船戸家を訪問したが、結愛ちゃんに会えなかったという。結愛ちゃんは、保育園や幼稚園にも通っていなかった。

 1月まで住んでいた香川県でも、夫婦が逮捕された翌日の7日に、当時の児童相談所の連携が適切だったかを検証することを決定。さらに、事件後は警察と児童相談所との連携強化が重要視され、埼玉県では知事が11日の定例会見で、児童相談所が把握した虐待情報をすべて同県警と共有する方針を明らかにした。

 警察と児相との連携を行なっている自治体はすでにある。夫婦が逮捕される前日の朝日新聞には、三重県の児童相談所に寄せられた児童虐待相談数が3年連続過去最多を更新したことが報じられているが、これは昨年3月から、県警と児童相談所の間で児童虐待事案の情報共有が行われたためだ。特に今年は前年度より約2.6倍の伸びを見せており、情報共有が進んでいることを示している。実際に南勢志摩地区は、警察からの相談が46件で、前年度から36件増えている。

 こうした警察と児童相談所との間の虐待事案の情報共有は他の自治体でも行われており、すでに、愛知県や茨城県、高知県など他の自治体では、埼玉県が目指すように情報の『全件共有』が始まっている。東京都は今回の事件を受け、情報共有を広げる考えを表明はしたが『全件共有』には壁がある。

 67日放送の『FNNプライムニュースデイズ』(フジテレビ系)で「通報の2割は実際の虐待ではなく、個人情報の保護が必要。相談しやすい環境をつくるため警察との全件共有は、今のところ考えていない」とのコメントも流れたが、つまり虐待を自覚し児童相談所にSOSを出す保護者が、相談した内容を警察と共有されることに恐怖を覚え、相談しづらくなることを懸念しているのである。相談しづらくなった結果、その家庭で虐待が続くことになるリスクも確かに存在する。難しい問題だ。自分が自分の育てている子に対して虐待をしてしまうという申告的な意味合いを持った相談のみ別扱いにするという柔軟な運用が望ましいが、児童相談所は慢性的に人手不足であるため、まずは人員確保が先決であろう。

 東京都と警視庁はすでに201610月、児童虐待の情報共有について協定書を交わしている。現在は適用範囲が一時保護の子どもと定められているが、今後は在宅で指導措置を受けている家庭の子どもなど、その共有の範囲を広げていくとみられる。

(鼻咲ゆうみ)

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