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授乳中の母親から赤ん坊を引き剥がす~トランプの「ゼロ寛容」不法移民政策

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テキサス州にある収容所。写真は米国政府提供

 今、全米が激しい怒りに駆られている。トランプ政権が亡命を希望する移民の親子を引き離す「ゼロ寛容」政策を実施し、現在、2,000人近い子供が親から切り離されて子供のみの収容所に入れられ、さらにはすでに里子に出されてしまっているのだ。この件が報道されるや否や、全米から「親子を引き離すな!」と激しい批判が巻き起こり、以来、メディアはこの件一色となっている。

 ホンジュラス、ガテマラなど中米諸国から凄惨なギャング暴力とDVから逃れるために大量の人々がアメリカにやってくる。中には灼熱の砂漠で息絶えるケースもあり、文字通り、命を賭けてやってくる人々だが、メキシコにたどり着き、次いでアメリカとの国境を越えるや、たちまち米国移民局に拘束され、親子が引き離されて別々に収容されてしまう。子供が幼くとも容赦はなく、政府は否定しているが、「授乳中の母親から赤ん坊を引き剥がした」という報道もなされている。

アメリカの苦悩――不法移民

 ことの起こりは、セッションズ司法長官が4月に発表した「移民の犯罪的不法入国へのゼロ寛容政策」だ。米国に不法入国する移民を受け入れることはせず、徹底的に訴追するというもの。不法入国は本来は移民法違反だが、刑事法違反として扱い、刑罰の対象にするという内容だ。

 アメリカは移民大国だが、世界中からの移民希望者をすべて受け入れることは不可能。そこでアメリカ側が移住希望者のチェックをおこない、自国に有益と判断した人物に対してのみ各種ビザを発行し、入国を許可する。

 だが、実際にはビザ取得が出来ない大量の移民が不法に入国している。とくにメキシコはアメリカと地続きであるため、大量のメキシコ人と、その他の中米諸国人がメキシコ経由でやってくる。ゆえにメキシコとの長い国境線をかかえるテキサス州、アリゾナ州、ニューメキシコ州、カリフォリニア州ではスペイン語話者が爆発的に増え、アンチ移民を唱える州民、政治家もいる。

 不法移民問題はアメリカが長年苦しみ、かつ解決できずにいる大きな問題だ。現在、全米に不法移民は推定1,100万人いるとされている。中南米人と上記4州だけの問題ではない。世界中の国からの不法滞在者が全米各州に暮らしている。ちなみに全体から言えば数は少ないが、日本やヨーロッパなど先進諸国からの不法滞在者も存在する。

 トランプは選挙戦中から「不法滞在者はすべて追い出す」と息巻いてきた。だが、実際には不法移民の労働力はアメリカ経済に組み込まれており、実行すればアメリカ経済が立ちいかなくなるのは火を見るより明らかだ。かつ全米に散らばる1,100万人もの移民を探し出し、いったん収容し、それぞれの国に強制送還させるマンパワーも予算もアメリカにはない。

 そこで妥協策が取られることとなる。米国政府は1986年に不法滞在者に永住権を与える「恩赦」を施行している。人物審査をおこない、犯罪歴がないなどの条件をクリアし、かつ罰金を払った者が晴れて永住権を手にし、多くはのちに市民権を得て「アメリカ人」となった。彼らがアメリカで生み育てた子供たちもすでに成人しており、アメリカを支える世代となっている。

 オバマ前大統領も不法滞在者の合法化に取り組んだ。ブッシュ政権時の2001年に起こった9.11同時多発テロは、実行犯が正規のビザを取得してアメリカに入国した外国人であったため、直後に移民法が厳格化された。新規入国する正規移民のチェックに重点が置かれ、1986年の恩赦後に不法入国した移民たちへの処遇が放置されていたのだ。

 この時も「不法移民は全員、強制送還」は現実的ではなく、オバマ前大統領は永住権の発行を望んだが、共和党が激しく反発。結果的に「子供の時期に親に連れられ(=自分の意志ではなく)、不法移民として入国し、アメリカで育った若者たち(通称ドリーマー)」を一時的に保護するDACAと呼ばれる法律を制定した。アメリカ育ちの若者を出生国に送還する非情さだけでなく、米国の税金で公教育を施した若者たちを手放すことは国益に反するとも訴えた。

親子分離=児童虐待

 アメリカ国内ではよく知られることだが、トランプの政策はその多くが「アンチ・オバマ政策」となっている。オバマ前大統領の政策を覆すことがトランプの個人的命題なのである。したがって就任直後のイスラム7カ国入国禁止令、続く上記DACAの廃止など、前後を考えず、突発的に移民法の厳格化を発表しては内外に大きな混乱を招いている(*)。

(*)トランプ「DACA廃止!」はいかに残酷か~80万人の若者とアメリカの行方

 今回の「ゼロ寛容」政策による親子分離も同様で、これまでの「亡命希望者はとりあえず受け入れる」「収容する際は家族で」の方針をいきなり覆したことにより、大混乱となっている。先にも書いたように中米諸国ではMS-13と呼ばれるギャングによる凄惨な暴力が蔓延し、人々は常に命の危険を感じながら暮らしているという。家庭内暴力も激しい。この2つが合わさり、多くの女性が子供を連れて国を出て、メキシコ経由でアメリカにやってくる。中には「長男は殺され、次男は身体麻痺。末っ子を連れてやってきた」という母親もいる。

 ところが4月の「ゼロ寛容」政策により、亡命希望者であっても逮捕されることとなった。親子分離は「連邦刑務所に未成年者を連れていけない」という理屈からおこなわれており、引き離された子供の数は4月から5月にかけての6週間で約2,000人。6 月に入っても同政策は続いており、分離された子供の数はこれまでに2,400人に上るとの報道もある。

 この数字が発表された途端に、「なんという非情なことを!」「アメリカのやることではない!」と、大きな批判が巻き起こった。国境線で逮捕される親子、泣く幼児の写真がメディアに出回ると批判はますます激しくなる。移民局(国土安全保障省)は、地元政治家やメディアの要請により、収容所にメディアを入れ、取材を許可せざるを得なくなった。

 テキサス州にあるウォルマートという量販店だった巨大な建物が収容施設に改装されており、10~17歳の男子が大量に収容されている。簡易ベッドがあり、やはり簡素な食事も出ている。だが、少年たちが屋外に出られるのは2時間のみで、あとは終日、収容所に閉じ込められている。

 同じくテキサス州にある他の収容所の取材も許可された。こちらは国境での拘束直後に成人と子供が共に送られる場所。ジャーナリストによる撮影は出来ず、政府から配布された写真のみが公開された。倉庫のような建物の中に大きな金網のケージが作られ、床にマットレスを直置き、防寒用のアルミ素材の毛布のみが配られている。法的過程の初期に「3日程度」滞在するだけの施設であると職員は説明したが、ある収容者から「収容7日目」と聞かされたとCNNは伝えている。

 「これでは刑務所だ」「児童虐待だ」「子供たちはいつ親に会える?」「実のところ、再会できるのか?」、さらに「女の子たちはどこにいるの?」といった批判や疑問が相次いでいるが、政府から詳細な情報は出てこない。

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