政治・社会

授乳中の母親から赤ん坊を引き剥がす~トランプの「ゼロ寛容」不法移民政策

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歴代ファーストレディ5人が批判

 トランプは「親子隔離は心苦しいが、民主党が作った政策を実践しているまでだ」と、明らかな嘘を堂々と語った。前述したとおり、「ゼロ寛容」政策はトランプ政権によって4月に発表されたものだ。

 国土安全保障省長官のニールセンは、「国境での家族分離政策はありません」と、これも明らかに事実と異なる発表をする。これに対してカリフォルニア州選出のルー下院議員が「あなたは嘘を付いている」とツイートで批判。

 司法長官のセッションズは、聖書からの引用「政府の法に従え」を用いて親子分離を肯定。多くの聖職者が「この解釈は間違っている」と意を唱えている。

 ファーストレディのメラニア・トランプは、「子供たちが親から引き離されるのを見るのは辛く、両サイド(共和党・民主党)が歩み寄ることを期待します」と、民主党を引き合いに出してバランスを取りつつも、夫トランプの政策を批判。ファーストレディによる現役大統領の政策批判は、かつてない事態だ。

 元ファーストレディで、親子引き離しが行われている現地テキサス州在住のローラ・ブッシュは、収容所の様子を「第二次世界大戦時の日系人強制収容所を思い起こさせる」とワシントン・ポストに寄稿。ローラが政治的な発言、かつ自身と同じ共和党を批判することも極めて稀だ。

 ローラの声明に対し、ホワイトハウス報道官サンダースは、「この政策は彼女の夫(ジョージ・ブッシュ)の政権時代に作られたもの。トランプ政権は実践しているだけ」と詭弁。一方、ミシェル・オバマはローラの声明に対し、「時折、真実は党派を越えます」とツイートで支援する。

 ヒラリー・クリントンは「ホワイトハウスの主張に反し、家族の離散は法により強制されたものではない。明らかな嘘であり、我々全員――ジャーナリスト、市民も――がそう言うべき義務がある」とツイート。

 やはり元ファーストレディのロザリンド・カーターも、現役時代にタイでカンボジア難民の親子が引き離されるのを見た経験から、現在アメリカ政府がおこなっていることは「恥ずべきこと」とコメント。

 つまり、健在のファーストレディ5人が全員、親子の引き離しを批判したこととなる。

 CNNなどを観ていても、ほぼすべてのジャーナリストが親子分散を批判しているが、中でも女性ジャーナリストたちの怒りが格段に強いことが声のトーンなどから伝わってくる。

抱っこをしてもらえない2歳児

 著名な小児科医のコリーン・クラフト医師は、12歳以下の子供が収容されている60床ほどの小さな収容所を見学に訪れた際の驚きをワシントン・ポストに語っている。クラフト医師によると、収容所はオモチャや絵本を揃え、環境は良く見えたが、恐ろしいルールが定められていた。

 母親を恋しがる2歳くらいの女児が泣き叫んでいたが、職員は子供を抱っこすることはおろか、触れることすら禁じられていた。なだめるためにオモチャを渡そうとはしたが、女児は泣き続けたと言う。

 この年齢で親と引き離され、スキンシップを与えられることもなく育つことが何を意味するか、専門家でなくとも分かる。子供は精神的に取り返しのつかないダメージを受け、場合によっては身体的な発育不全をも起こしてしまう。精神衛生の専門家たちは危機感を募らせ、トランプと司法長官に対し、「ゼロ寛容」政策を中止するようオンライン署名をおこなっている。6月19日現在、集まった署名は7,600名以上。収容所前での一般市民による抗議デモもおこなわれている。

 アメリカ人は自国を「強く、大きく、豊かで、同時に他者を思いやる国」と考えている。そのアメリカが泣き叫ぶ幼い子供を親から引き離し、子供たちの現状も、親との再会の可能性も明らかにしないまま、嘘を付き、または辻褄の合わない狼狽振りを見せ続けている。

 中米からの亡命希望者たちは「子供に会えない」辛さに加え、母国に送還されると「ギャングに殺される」可能性もあると言う。

 アメリカがすべての移民希望者を受け入れることができないのは先にも書いた。しかし、世界規模でみると「強く、大きく、豊か」な国であることが事実である以上、究極の窮地に陥った他国の人々を救済する人道的義務があると考えるのが正当だ。「他者を思いやる国」を主張するなら、なおさらだ。

 トランプ政権は今すぐ引き離した親子を再会させ、親子の生命の安全、子供の健全な育成が保証できる住環境を与えよ。
(堂本かおる)

追記:数州の知事が親子分離に反対し、「州兵を国境警備に差し向けることを中止」と発表。収容所は他州にも作られており、アメリカン航空など航空会社数社が、「親子分離対象者を収容所に送るための搭乗を拒否」と発表。6月19日夜、ニュース専門局MSNBCの人気キャスター、レイチェル・マドゥが「低年齢児童の収容所」のリポートが涙で読めなくなり、このこと自体が大きく報じられた。20日にはオバマ前大統領、カナダのトルドー首相も「ゼロ寛容」政策による親子の引き離しを批判。 全米はおろか、世界からの批判にトランプ政権は折れ、同日の午後、トランプは「家族を一緒に留める一時的な法」を大統領令として発令。しかし詳細は説明されず、引き離された2,000人の子供の記録が正確に保たれ、全員が親と再会できるのかを訝る声が上がっている。

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