「生活保護世帯」の子どもたちに降りかかる理不尽

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「生活保護世帯」という理由だけで苦しい思いをする子どもたち アルバイトと奨学金で補う大学生の画像1

『健康で文化的な最低限度の生活』(小学館)

 厚生労働省は今月25日、生活保護世帯出身の大学生などの生活実態に関する調査結果を発表した。生活保護世帯出身の学生が、家庭から年間55000円の給付を得ているのに対し、全世帯は1181000円。奨学金は、それぞれ1077000円と385000円。アルバイトは、637000円と256000円と、生活保護世帯出身の学生の苦しい実情が明らかになっている。

 生活保護世帯出身の子どもの大学等の進学率は平成25年時点で32.9%。これは全世帯の進学率73%の2倍以下だ。大学などに進学した生活保護世帯出身者の86.5%が奨学金を利用しており、そのほとんどが卒業後に返済しなければならない貸与型を利用している。なお全世帯の大学等進学者の奨学金利用率は48.9%。

 生活保護世帯の子どもは、大学進学が認められていない。「世帯分離」によって子どもを生活保護世帯から外すことによって大学などへの進学は可能になるが、世帯から子どもが外れた分、生活保護の支給額が減ってしまう。生活保護世帯の子どもの低い大学進学率や、奨学金利用率の高さ、アルバイトで生計を立てていることなどの背景だ。

 調査によれば、高校などに通っている頃のアルバイト収入を「進学のための費用」に用いた生活保護世帯の子どもの割合は48.3%となっている。しかし生活保護では、収入があった場合は、生活保護費が差し引かれることになる。

 7月17日から始まるドラマ『健康で文化的な最低限度の生活』(フジテレビ系)の原作漫画でもこうした実情が描かれていた。子どもが親に黙ってアルバイトをしていたことが発覚。収入の申告をしていなかったために不正受給とみなされ、アルバイト代と同額分を返還するように求められる、というシーンだ。

 つまり現状の制度では、生活保護世帯の子どもは、そもそも大学などへの進学が認められておらず、進学のための費用をアルバイトで稼いだ場合、給付される生活保護費が減額され、進学のために世帯分離したことで生活が苦しくなり、奨学金と自身のアルバイト収入で学生生活を送らなければならない、という仕組みになっているわけだ。

 今月1日、生活保護法などが改正され、生活保護世帯の子どもが大学などへの進学する際に、最大30万円の給付金を支給する「進学準備給付金」が創設された。しかし大学進学のために「世帯分離」をしなければならないような制度に変わりはなく、生活保護世帯の子どもが大学進学をするハードルはまだ高いままだ。

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