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今年3月、自民党の古賀俊昭都議会議員が、足立区の区立中学校で行われた性教育に関する授業が中学校の学習指導要領にそぐわないものだと東京都議会文教委員会で指摘したことを受け、東京都教育委員会が足立区立教育委員会に指導した、という騒動があったことを覚えているだろうか。この騒動は各メディアで取り上げられ、その後、日本の性教育の現状や課題を特集する記事やテレビ・ラジオ番組も多く見られた。
さて、今月になって、東京都議会のサイトに発端となった3月16日の東京都文教委員会の速記録が掲載された。以下、事の発端を振り返った後に、速記録の内容をまとめていく。
報道によれば、足立区の区立中学校は3月5日に中学3年生を対象に性教育の授業を実施。事前のアンケートでは「高校生になったらセックスしてもよい」と答えた生徒が44%おり、授業では高校生になると中絶件数が急増することや、コンドームは性感染症を防ぐことはできるが避妊率は9割を切ることなどを伝えたという。
この授業内容で古賀都議が問題視したのは、授業の中で「性交」「避妊」「人工妊娠中絶」といった言葉が使われたことにあった。中学校の「保健体育」の学習指導要領の取り扱い方は、「妊娠や出産が可能となるような成熟が始まるという観点から,受精・妊娠を取り扱うものとし,妊娠の経過は取り扱わないものとする」と定められている。「性交」や「避妊」「人工妊娠中絶」は、「妊娠の経過」であり、取り扱うべきではない、ということだ。
文部科学省の性教育への消極的態度はいまに始まったことではない。各メディアで取り上げられるほど大きな騒動になったのは、区立中学校の授業を問題視した古賀都議が15年前の2003年に、都立七生養護学校(現:都立七生特別支援学校)で行われていた性教育を問題視した都議の一人だった、というのが大きいだろう。
七生養護学校事件は、2003年7月2日に土屋敬之都議が七生養護学校での性教育について東京都議会で質問を行ったことがきっかけで起きた。その2日後には、土屋都議、古賀都議らが同学校を視察し、教員を非難。東京都教育委員会も、授業で使用されていた教材を没収し、校長への懲戒処分や教員への厳重注意処分を下した。
しかし元校長が2008年2月に処分の取り消しを求め東京都教育委員会を提訴。5年後の2013年11月に、「学習指導要領は一言一句に拘束力を有することは困難であり、教育実践者に広い裁量が委ねられている」として、東京都教育委員会と都議3名が敗訴している。古賀都議の東京都文教委員会の発言は、当時のことを思い起こさせるものだったのだ。
今年4月26日、東京都教育委員会の定例会で「中学校における性教育のあり方」が示される。しかし「妊娠の経過は取り扱わない」とし、「学習指導要領を超える内容を指導する場合には、例えば、事前に学習指導案を保護者全員に説明し、保護者の理解・了解を得た生徒を対象に個別指導(複数同時指導も可)を実施することなどが考えられる」とするものだった。つまり東京都教育委員会は従来の姿勢を変えなかった、ということだ。
以上が、古賀都議の質問を発端に起きた騒動の大まかなまとめになる。では古賀都議は一体、東京都文教委員会でどんな発言をしていたのだろうか。
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