マンガ『やがて君になる』は、女子同士の恋愛を通して「人を好きになるとはどういうことか」を問う

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 仲谷鳰 著『やがて君になる』(以下、やが君)は「月刊コミック電撃大王」(ともにKADOKAWA)で連載中の漫画作品です。「好きを知らない少女が出会う、一筋縄ではいかない恋愛」というキャッチコピーで著者初の連載作品でありながら発売当初から話題になり、現在はコミックスが5巻まで発売中で、201810月よりテレビアニメ化も決定しています。私はコミックスのPVCMに流れていたことでこの作品を知り、世界観に惹きつけられました。とても繊細な空気感のある絵やセリフに引き込まれます。

 女性同士の恋愛が描かれる、いわゆる百合漫画が私は大好きです。かわいい女の子が好きという理由もありますが、女性同士というハードルがあることで、「『好き』とはなんなのか」。女子同士特有の距離の近さから、学校が舞台の作品では、女子同士特有の距離の近さから「学校を卒業しても女性を恋愛として好きなのか」「結婚はどうするのか」などジェンダーも絡んだ葛藤に対する、より繊細で複雑な心理を描く作品が多いからです。

恋愛に憧れるけど、恋愛がわからない。

 やが君も絶妙なセリフ回しや構成が素晴らしい文学的な作品で、女の子同士の恋愛だけを描いた作品ではありません。高校生になったばかりの主人公・小糸侑(こいと・ゆう)は世間にあふれるキラキラとした恋愛に憧れているにもかかわらず、恋愛感情がわかりません。中学の卒業式に男子から告白されて、ちょっとはドキドキするんじゃないかと思ったのに、「特別」がわからない自分にコンプレックスを感じ保留にしています。

 そんななか、生徒会長候補の生徒会役員で、学年主席でもあり才色兼備の七海燈子(ななみ・とうこ)に出会います。ものすごくモテるにもかかわらず、「誰も好きになったことがない」という燈子に、中学卒業時に受けた告白について侑が相談すると「君はそのままでいいんだよ」といわれます。その後、正直に交際を断った侑に、燈子は「私、君のこと好きになりそう」と告げて物語は始まります。

「君はそのままでいいんだよ」ーーこのセリフは何度も意味を変えながら、やが君のメインテーマになっていきます。この作品は同じセリフを使って、登場人物それぞれの感情の変化を描く場面がたびたびあります。

人を好きになることへの強烈な憧れ

「人を特別に(恋愛感情で)好きになれない」ことがこの作品のテーマのひとつであり、恋愛感情がわからないという侑のコンプレックスや不安を見事に描いています。

 仲間だと思った途端、自分に恋愛感情を抱いた燈子に対して侑が抱いた気持ちは「ずるい」。燈子が自分を見てドギマギして顔を赤らめるという、普通なら単に困ったり、好きでなければ嫌だと思ったり、逆に好きならばうれしく思ったりする場面で、彼女はただショックを受け、純粋な嫉妬を表すのです。

「わたしだって羽が生えたみたいにフワフワしちゃったり」
「そんな期待」
「だけど依然しっかり地面を踏みしめていて」
「わたしはきっと他の人より羽根の生えるのが遅いだけで きっと今に もうすぐ」

 印象的なコマ割りとセリフによって、恋愛で浮き足立つことができない侑が抱える焦燥感が表されています。「人を好きになりたい」「特別を知りたい」と切実に願っているのです。

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