
左:『エリン・ブロコビッチ』(ソニー・ピクチャーズエンタテインメント)右:『ワーキング・ガール』(20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン)
働く女性の映画
皆さん、働く女性の映画はお好きですか? 私はけっこうよく見ますし、この連載でも既に『サンドラの週末』をとりあげたことがあります。この映画は病気を患った労働者が置かれた厳しい状況を描いた作品でしたが、女性の仕事を扱った映画にはもうちょっと気楽なサクセスストーリーもたくさんあります。最初は下っ端で失敗ばかりしていたヒロインが、ライバルを見返し、出世をつかむ……みたいな話は、胸がスっとすることも多いですよね。こういう映画は楽しく見られるし、仕事で疲れている観客にとっては息抜きになります。
楽しい映画鑑賞に冷や水を浴びせるようなことになってしまって恐縮ですが、そういう一見フェミニズム的な映画に、実はわかりにくい性差別がひそんでいることがある……ということを、今回は指摘していきたいと思います。皆さんが好きな映画が批判されるかもしれませんが、そのへんはご容赦ください。また、ネタバレもたくさんありますので、そちらもお気を付けください。
エリート女性上司はなぜかクズ!?『ワーキング・ガール』
マイク・ニコルズ監督『ワーキング・ガール』(1988)はとても人気がある映画です。たたき上げのヒロイン、テス(メラニー・グリフィス)が仕事の成功と素敵な恋人を手に入れるという内容で、女性からの支持も篤い作品です。
テスは夜学で学位をとってウォール街の銀行に就職しましたが、ハーバードなどの名門大学を卒業しておらず、ブロンドで可愛い容姿をしているので男たちに見くびられ、セクハラを受けるばかりで出世できません。そこにエリート女性上司キャサリン(シガニー・ウィーヴァー)がやって来てテスを引き立ててくれたため、やっと運が向いてきたか……と思いますが、キャサリンはテスのアイディアを横取りしてしまいます。キャサリンが骨折して休みをとったのを利用し、テスは巻き返しを試みます。自分で人脈を作り、ついにはキャサリンの恋人ジャック(ハリソン・フォード)まで魅了してしまいます。
この映画では、学歴がない可愛子ちゃんということで低く見られてきたテスが、エリートを見返すまでを描いているので、一見、弱い立場にある女性に寄りそっているように見えます。テスを演じるメラニー・グリフィスもとても魅力的です。セクハラや、容姿が綺麗な女性がバカ扱いされることを諷刺している点でも、公開当時は新しかったといえるでしょう。
しかしながらこの映画でひっかかるのは、上司がエリート女性だということです。キャサリンは有能ですが、最初は優しそうにテスに近付いて、女性だからわかりあえる、というような雰囲気を醸し出した後に、手柄を横取りします。これは典型的な「女の敵は女」という展開です。「女の敵は女」という考え方の背後には、男社会という不利な状況の中、少ないパイの配分をめぐって戦わねばならない女同士の反目を煽ることで、男性中心的なシステム自体からは目を背けさせ、女性の苦労の理由を他の女性に押しつける、非常に巧妙な性差別があります。
現在のアメリカの金融大手企業ですら、キャサリンがついていたような上級管理職にある女性は3割程度、CEOになると2%くらいしかいないと言われています。統計的には実際の職場で女性の出世を邪魔するのは男性上司であることのほうがずっと多そうなのに、なぜわざわざエリート女性が敵役なのでしょう? この作品における、不誠実で他の女性を敵視するキャサリンの描写には、可愛くて健気な女性はいいけど、自分の有能さにもともと自信があるエリート女性は憎たらしい、というミソジニーが見え隠れします。
1 2