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月経中に泳ぎたい女性にも、泳ぎたくない女性にも。元水泳選手でスポーツドクターの産婦人科医が伝えたいこと

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Thinstock/Photo by SolisImages

 毎年、夏が近づくと、元水泳選手であり、日本水泳連盟の連携組織「日本水泳ドクター会議」に所属するスポーツドクターでもある産婦人科医の私には、「生理中に泳いで大丈夫なの?」という質問が必ず寄せられます。

 「月経中のスポーツ、特に水泳の可否」については、日本産婦人科学会が1989(平成元)年、日本臨床スポーツ医学会は2010(平成22)年に指針を出しており、私はそれに基づき、一貫して「医学的には問題ないけれども、強制はすべきではない。水に入る前や上がった後の流血に配慮すべき」という見解を示してきました。

 ところが今年、インターネット上で初めて思いがけない意見が寄せられました。「医学的にいくら大丈夫と言われても、不衛生だし病気に感染しそう」、「タンポンを使わないなら気持ち悪いからやめてほしい」などというものです。

 そこで、女性とスポーツの歴史、学会の指針が出された経緯や背景について解説しながら、今回寄せられた意見への見解をまとめてみたいと思います。

「女性スポーツ史」の中での水泳と月経

 女性アスリートの活躍が当然のように毎日ニュースを賑わせている今となっては、知らない人や、忘れてしまった人も多いかもしれません。つい最近まで、女性がスポーツに参加できる機会はかなり制限されていました。

 近代オリンピックも、第1回大会(1896年アテネ)は古代オリンピックに倣って女人禁制で開催されました。第2回からテニス、ゴルフが女子にも解禁されたものの参加者は12名のみ。水泳(競泳、飛込)は第5回(1912年ストックホルム)から、そして第9回(1928年アムステルダム)に陸上、体操が女性にも解禁され、ようやく全参加者の1割を超え、日本人も初めて1名だけ出場します(陸上・人見絹枝さん)。

 しかし、その後も長い間、「男性から女性らしいとみなされる競技」しか参加が認められませんでした。今では人気競技となったマラソンも第23回(1984年ロサンゼルス)から。特にハードルが高かったのは格闘技です。第25回(1992年バルセロナ)の柔道を皮切りに、第27回(2000年シドニー)にテコンドー、第28回(2004年アテネ)にレスリング、そして第30回(2012年ロンドン)にボクシングが正式種目になり、ようやくすべての競技への参加が認められるようになりました。

 こうしてスポーツ界への女性の進出が進む中、日本産科婦人科学会の小児・思春期問題委員会は、1989(平成元)年に「月経期間中のスポーツ活動に関する指針」を出しました。

 これは、昭和の時代までは当然とされていた「月経中の体育、特に水泳は見学」という風潮は、医学的に根拠がなく、スポーツ好きの少女たちの権利を奪っているのではないかという懸念から生まれたものでした。私自身が水泳部に入ったのは中学2年生からですが、子供の頃から体を動かすのが大好きで、月経中も他の体育の授業と同様に見学したくなかったのです。でも「生理中に泳いだら体も冷えるし、将来子どもが産めなくなるよ」とか、「そんなに生理痛がひどいのは、水泳やりすぎなんじゃないの?」など、今思えば非科学的な、いわゆる「呪い」の言葉がかけられることは少なくありませんでした。そう言われると本当に大丈夫なのか不安になるものですが、大学生になって学会から出た指針に書かれていた以下の文章を読み、救われた気持ちになったことをよく覚えています。

 「基本的には、本人の自由意志が大切であり、とくに禁止する必要はないと考えられる。本人の自由意志で行われる場合には問題は少ないが、画一的に強制して行わせることには問題がある。また逆に、自由意志を尊重しすぎて、ただ月経期間中であるという理由のみで絶対に行わないということにも問題があり、健康管理の面(月経痛対策など)からも、ある程度のスポーツ活動を月経期間中であっても、むしろ行うことが望ましいと思われる」

 その後20年を経て、女性を取り巻く社会・スポーツ環境の大きな変化を踏まえ、日本臨床スポーツ医学会産婦人科部会が「月経期間中のスポーツ活動に関する指針」を出しました(日本臨床スポーツ医学会誌:Vol.18 No.1, 148 -152,2010)。これは、「今後、月経中の水泳についての科学的根拠を含む事実が体育教員に正しく指導され、学校施設が充実し、月経が水泳授業の阻害要因とならぬよう、児童・生徒が自己判断できる材料提示がなされる必要がある」という言葉で締めくくられています。

 私は、中学校や高校の性教育に外部講師として招かれることが多いのですが、そこでは、これらの指針を踏まえ、下のスライドを使って説明しています。

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 すると、感想文にこう書いてくる生徒が必ず何人かいるのです。「水泳のときに生理になると必ず見学をしないといけないと思いましたが、生理でも泳いでいいと知り驚きました」。残念ながら、今でも一律に禁止している学校もあるのでしょう。

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