
お茶の水女子大学ウェブサイトより
お茶の水女子大学が今月3日に発表した、2020年度から戸籍上の性別を問わず、性自認が女性のトランスジェンダーの学生の入学を可能にする件について、10日に記者会見を開いた。
トランスジェンダーとは出生時に割り当てられた性別に違和感を持つ人を指す。現行の法律では、戸籍上の性別を変更する要件のひとつに「20際以上であること」が定められており、大学受験の際に20歳未満であった場合、戸籍上の性別を変更することができない。またトランスジェンダーといっても、必ずしも性別適合手術や、性別移行を希望しているとは限らない。戸籍上の性ではなく「性自認」のみを問うという、お茶の水女子大の決定は、多様な「女性」に門戸を開いた画期的なものだ。
お茶の水女子大の室伏きみ子学長は記者会見で、今回の決定は2004年に制定した同大の「学ぶ意欲のあるすべての女性にとって真摯な夢の実現の場として存在する」ミッションに基づいて判断したと説明。「すべての女性たちが年齢や国籍等に関わりなく、個々人の尊厳と権利を保障されて、自身の学びを進化させ、自由に自己の資質、能力を開発させることを目指しています。その意味からも、性自認が女性であって、真摯に女子大学で学ぶことを希望する人を受け入れることは、自然の流れ」「これからの多様性を包摂する社会への対応としても当然」とも話した。
過去にも、当事者と思われる方から問い合わせがあったが、2016年の問い合わせがきっかけとなり、トランスジェンダーの受け入れについて検討を重ねてきたそうだ。
また記者会見の中では、2017年9月に日本学術会議が発表した「提言 性的マイノリティの権利保障をめざして―婚姻・教育・労働を中心に」の中で、「性自認が女性の方が女子大学で学ぶ権利についての提言もなされたこと、海外の大学でも性自認が女性の学生を受け入れている例が紹介された。
日本学術会議の提言には以下のように書かれている。
「一般に大学では、入学願書・在籍時の各種書類に戸籍抄本を提出させることはない。性別の判断根拠は、入学願書の氏名や高校調査書の記載事項に基づいているにすぎない。現状では、問合せがあったときに「戸籍上の性別」を受験・入学の条件にあげて回答しているようだが、トランスジェンダーについてのみ戸籍確認を要求するのは平等対応とは言えない。「文科省通知」にしたがって性自認に即した学校生活を保障されているMTFが、女子校・女子大に進学できないとしたら、それは「学ぶ権利」の侵害になると言えよう。他方、女子大が性的マイノリティにとっての「安全空間」であり、学びたいジェンダー/セクシュアリティ関連科目が充実していることを考慮して、あえて女子大を選ぶFTMも存在する」
シスジェンダー(出生時に割り当てられた性別に違和感を持たない人)は受験の際に戸籍上の性別を確認されないにもかかわらず、トランスジェンダーについては確認が必要というのは不平等であり、またそれによって希望する女子大への受験を断念せざるを得ないのは「学ぶ権利」の侵害になる、というわけだ。記者会見では、「性自認が男性で、戸籍が女性の人も受け入れるのか、という質問があったが、戸籍上の女性は出願資格があるので受け入れることや、過去にも入学後に性自認が男性に変わった学生が在学していたと返答されていた。
2020年度の受け入れに向け、「受け入れ委員会」を設けガイドラインを作成する予定。現時点では、確認方法や確認すること自体についても検討中のようだ。
3日の報道以降、「不安」を抱く学生がいるのではないか、という声がネット上にはあった。しかし室伏学長によれば、学内での説明会は繰り返し行い、好意的な反応だっただけでなく、対応の仕方についての要望も出ていたそうだ。施設内の設備や、希望している留学先の大学が受け入れを行っていない場合はどうするのかなど、具体的な方法についても検討を重ねていくという。
また同じくネット上では「共学化すればいい」という意見もみられた。記者会見の場で記者に同様の質問を受けた室伏学長は「何十年も後、社会が変わったときに共学化はありえるかもしれないが現状でその可能性はない。女性が社会で男性と同等に暮らせる現状ではなく、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)から開放されるのは女子大」と考えているという。なお、お茶の水大学附属高校については、高校受験の段階では性自認が揺れることも多いため、現時点では受け入れを考えていないそうだ。
お茶の水女子大は、検討をはじめた2016年頃から、他の女子大とも情報交換を行い、2017年10月には日本女子大学連盟の総会でも意見交換が行われたという。すでに他の女子大学でも同様の対応を検討しているという報道がある。今回のお茶の水女子大の画期的な決定によって、すべての女性が女子大での「学ぶ権利」を侵害されない社会に向けた大きな一歩となったことは間違いないだろう。