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市民権を剥奪するトランプ政権

 移民の市民権取得は国家としてのアメリカを運営していくための重要な仕組みだが、トランプ政権は市民権を出し渋っている。

 昨年の12月時点で市民権申請のバックログ(申請したものの、発行されていない人数)が73万人と、オバマ政権最終年であった2015年末の39万人をはるかに上回っている。以前は申請→審査→発行が3〜4カ月程度で行われていたが、現在は8〜9カ月かかっているとされている。今後はさらに長引くと予測する声もある。

 理由については様々な憶測がなされているが、今年11月の中間選挙、ひいては2020年の次期大統領選に投票させないため、というものがある。アメリカでは市民権を得て初めて投票できるが、元移民である新市民が、アンチ移民政策を進めるトランプと共和党に投票する率が低いであろうことは言うまでもない。

 また、トランプが当選した2016年以後、「市民権を取っておかないと何をされるか分からない」「市民権取得自体が難しくなるかもしれない」、もしくは「市民権を取得して、反トランプに投票せねば」と考えた移民が多数申請し、近年にないほどの申請数となっている。そこから必然的に審査に時間がかかっているとする説もある。

 だが、トランプ政権は新たな人員を手配し、移民局に新ユニットを設立している。過去に市民権や永住権を取得済みの者を再調査し、問題がある者から資格剥奪をおこなうためのものだ。

 先日の報道では、フロリダ州在住のノーマ・ボルゴノ(63)がその対象となっていることが伝えられた。ボルゴノは1989年にペルーから移住し、市民権を取得している。フロリダで勤務していた貿易会社で上司が2,400万ドルの横領事件を起こした際、秘書であったボルゴノが上司に命じられて横領のための書類操作をおこなっていた。ただしボルゴノは報酬を得ていなかった。事件が発覚した2012年、ボルゴノはFBIの捜査に協力し、上司は逮捕。ボルゴノ自身は1年間の自宅監禁と5,000ドルの罰金刑を受け、すべて完了している。

 政府はボルゴノの市民権剥奪を訴えている。剥奪されるとペルーへの強制送還となるが、ボルゴノの娘は、母は腎臓疾患を抱えており、ペルーでは適切な治療が得られないと心配している。

 今年1月にはミシガン州在住、ポーランド国籍で米国永住権保持者の医師、ルーカス・ニエク(43)が逮捕されている。ニエクは1979年に祖国ポーランドの政情不安を逃れ、両親とともに5歳で渡米。グリーンカード(米国永住権)を取得し、以後、アメリカですべての教育を受け、医師となった。市民権は取得せず、グリーンカード保持者のままであるため、国籍はポーランド。

 ICE(移民局の移民捜査・逮捕部門)によると、ニエクの元恋人が、ニエクから娘へのDVの訴えを起こし(この件は棄却済み)、その調査中にニエクが10代の時期に2度の逮捕歴があることが判明し、今回の逮捕につながったとのこと。

 アメリカにはニエクと同じようにごく幼い時期に移住した移民も多い。彼らは自分が米国籍でないことは自覚しているが、アメリカで育ち、アメリカ以外の国を知らず、文化的、精神的にはアメリカ人であると言える。ニエクはポーランド語も話さないと伝えられている。こうした人々を、罪状によるとは言え、10代の分別のない時期に起こした事件によって国外追放することが国家として正しいことであろうか。

 グリーンカード保持者は10年ごとの更新を義務付けられており、ニエクも10代での逮捕ののちに少なくとも2回の更新をおこなっているはずだ。その際にもバックグラウンド・チェックがなされており、過去の逮捕歴は問題なしと判断され、新規のグリーンカードが発行されている。トランプ政権はこの発行基準をいきなり覆したことになる。

 ニエクは2月に移民収容所から出され、再度、医師として働くことを許可されたが、2019年11月に聴聞会に出なければならない。しかし聴聞会が1年半以上も先に設定されたことから、永住権剥奪と強制送還はおこなわれないのではないかと予想されている。では、トランプ政権の意図はなんだったのか。移民本人と近親者、報道を読んだ全米の移民をいたずらに動揺させたのは「見せしめ」だったのか。もしくは極端すぎる資格剥奪・強制送還は現実的ではないと、逮捕後に判断したのか。

 いずれにせよ、移民でできた国・アメリカ合衆国から移民を排斥することは国としての機能不全を招くだけでなく、アメリカとアメリカ人の精神をも蝕む。市民権宣誓式での、人々の感動、希望、高揚感にあふれたあの顔付き。あれこそが、アメリカそのものなのである。
(堂本かおる)

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