登場人物たちの関係はインターネット上のつながりが多く、また彼らの抱える問題は、特にアメリカと薬物の規制基準が異なる日本にとっては遠い世界の出来事のように感じられます。しかし、弱音を吐ける唯一の居場所であっても見栄を張ってしまったり、現実とは違う理想の自分の像を演じてみたりという彼らの根底の気持ちは、大いに共感できるもの。
SNSでついこぼした愚痴に誰かが共感してくれたときに覚える慰めとうれしさを思い出せば、彼らが薬物中毒から抜けだせたのではなく、代替としてチャットに依存してしまっているのだとしても、無理からぬことなのかもしれません。
同じ境遇の皆で支え合おうとし、彼らとの関わりのなかで過去が明かされていくオデッサに対し、ひとりで悩み困難に立ち向かおうとするエリオットは、どこか本心が見えません。喜怒哀楽がはっきりしていて少しチャラい話し方はごく普通の青年のようですが、ふとしたときの目のうつろさは、彼の抱える闇の底知れぬ深さをうかがわせました。
右近が翻訳劇へ出演するのは、今作が初めて。にもかかわらず、明るい好青年ぶりと深い闇という、本来なら一貫しない人物像を非常にリアルに表現してみせたのは「素晴らしい!」のひと言ですが、実はあまり驚きはありませんでした。
尾上右近、若き才能に期待大!
というのも、右近は若手歌舞伎俳優で、いま一番の注目株なのです。昨年再演されたスーパー歌舞伎「ワンピース」では、怪我で降板した主演の市川猿之助の代役を務め大絶賛された実力派。
しかしそれ以上にオンリーワンなのが、今年2月に歌舞伎俳優と並行して清元節の7代目清元栄寿太夫を襲名したことです。右近は男系世襲である梨園の中ではめずらしく歌舞伎俳優の娘からの血筋で、父は清元(歌舞伎の伴奏)宗家である7代目清元延寿太夫。
寺島しのぶや松たか子の子が歌舞伎俳優になり父親の稼業と両立させる、といえば、右近がどれだけガッツがあり、挑戦が許されるだけの力量があると認められているかが伝わるでしょうか。現代劇でも存分に魅せてくれるだろうと信じていましたが、期待通りでした。
オデッサは、「人生と戦っているんだから。社会に不適合だと認めるの、その先に出口はある」と語り掛けます。バーチャルでしかつながっていなかった「あみだクジ」と「オランウータン」は、勇気をふりしぼって実際に会って抱き合い「生きてるって感じがする」と互いに笑い、エリオットは母との対峙を経て、夢を追うことを決意します。
他者とのつながりや絆を求める気持ちや、人を絶望から救いあげるのはコミュニケーションであることは、いつの時代でも普遍のこと。現代社会ではSNSへの依存が問題になっていますが、ツールの本質を決して見誤らず、その先にある幸せを見出して生きていきたいものです。
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