社会

なぜ翻訳でステレオタイプな「女ことば」が多用される? 言語学者・中村桃子さんインタビュー

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女ことばの意味は変わる

――今年公開された『ブラックパンサー』という映画で、シュリという、16歳で科学者という女の子の字幕翻訳で、最後に発するセリフ以外すべて女ことばでなかったんですが、それがとてもかっこよかったんですね。この翻訳采配はすばらしい!  と思ったんですが、わたしだけなのかと考えたりするんですが……

中村:同意される方もたくさんいると思いますよ。『翻訳がつくる日本語』の表紙の絵には、79年の映画『エイリアン』での、主人公のリプリーが戦いの果てにひとりで脱出用シャトルで逃げる際に、I got you, you son of a bitchというシーンを採用しています。この言葉づかいは、英語圏の人から言わせるとかなり過激なセリフを言うんですが「やっつけたわ 化け物! 助かったのよ」と女ことばに訳されていて私も驚きました(笑)。それから40年近く経ってますが、これから変わっていくんじゃないでしょうか。

――そうですよね、こうしたテーマに関心がある方や、発言される人も増えてきているわけですから。

中村:そうした意見をどんどん出してもらったら、「こういうこと言ってる読者がいるんですよ」と言えて、(オーダーする)配給会社や出版社と(受注先の)翻訳者の力関係も変わるかもしれません。やはり会社からOKが出ないと手を加えられたりするんですよ。

――先ほども、中村さんがインタビューされた翻訳者の方々も、翻訳の女ことばに自覚的とおっしゃってましたものね。

中村:私の本も、読者の方が声を上げてくださって、刺激を受けて、新しい本も書けてきたので、一般の声も大事ですよね。また、女ことばの意味合いが変わっていく可能性もあると思います。

――翻訳がつくる日本語』でも取り上げられていた、ドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』は、字幕だけでなく吹き替え翻訳がわたしは大好きです。活き活きと女性たちが性や人生や政治について語り合っている様子が女ことばによって祝福されているような側面もあると感じたからなんですね。「〜かしら」「〜なのよ」と、コスプレ的に採用することもあります(笑)。

中村:方言コスプレなんかもおもしろいですし、パロディでやってらっしゃる芸人の方もいますよね。ただ、女ことばには規範としての側面もあるので、プレイとしてでは片付かないと思っています。

――お笑い番組で、男性の芸人が女性を演じて、過剰な女ことば、女らしい振る舞いをする様子が、女性をバカにしているようにも見えたりしますよね。

中村:先ほど例に挙げた、男性管理職が女ことばを使ったりすることもありますし、現実での意味合いが変われば、イデオロギーとしての女ことばの意味も変わると思います。そのためにはやはり経済的関係の是正が大事ですよね。工夫なさっている翻訳者の力が認められ、社会的地位が上がるなど、いろんな要因が関わってきますよね。
(聞き手・構成/鈴木みのり)

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