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芥川賞・直木賞発表! 候補作『未来』執筆過程で湊かなえは初めての「缶詰め」に追い込まれていた

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湊かなえ『未来』(双葉社)

湊かなえ『未来』(双葉社)

 718日に、第159回芥川賞・直木賞の結果が発表される。芥川賞には、古谷田奈月『風下の朱』(筑摩書房)、高橋弘希『送り火』(文藝春秋)、北条裕子『美しい顔』(講談社)、町屋良平『しき』(河出書房新社)、松尾スズキ『もう「はい」としか言えない』(文藝春秋)がノミネート。また、直木賞には、上田早夕里『破滅の王』(双葉社)、木下昌輝『宇喜多の楽土』(文藝春秋)、窪美澄『じっと手を見る』(幻冬舎)、島本理生『ファーストラブ』(文藝春秋)、本城雅人『傍流の記者』(新潮社)、湊かなえ『未来』(双葉社)がノミネートしている。

 今回の芥川賞は、東日本大震災を題材に書かれた北条裕子『美しい顔』のなかに、石井光太『遺体 震災、津波の果てに』(新潮社)などのノンフィクション作品との類似点が多数指摘され、そのうえ、それらの作品が参考文献として明示されていないことから大スキャンダルに発展。講談社は作品の評価を広く世に問うために『美しい顔』の全文をホームページ上に公開するという異例の事態にもなり、『美しい顔』がどういった評価を受けるのかに注目が集まっているが、一方、直木賞には木下昌輝、湊かなえ、島本理生と、複数回ノミネートされてきた作家が顔を揃えている。

 そんな直木賞ノミネート作家のなかでも、本命と言われているのが、湊かなえだ。彼女は、2013年に『望郷』(文藝春秋)で、2016年に『ポイズンドーター・ホーリーマザー』(光文社)で直木賞にノミネートされており、今回が三度目のノミネートとなる。書評家の豊崎由美と大森望が出演した715日放送『文学賞メッタ斬り!スペシャル予想編』(ラジオ日本)で、豊崎由美は<双葉社はとる気満々だと思いますよ。もうそろそろっていう感じがあるでしょうからね>と語り、また、大森望も<(同じ双葉社なので)上田さんの担当編集者はいろいろ立場的につらいらしいですね>と話していたが、それだけの期待と本気度が漂うのには理由がある。

 『未来』は湊かなえ本人が<これまで書いてきた作品の要素が少しずつ入っていたり、そこにさらに踏み込んでいったりして、私の10年間をすべて詰め込んだ作品にできたなと思います>(「ダ・ヴィンチ」20187月号/KADOKAWA)と振り返るほど、ある意味でこれまでの作家人生をまとめる集大成とも言える作品だからだ。

 『未来』は、父を病で失い、生活能力のない母と二人暮らしをしている10歳の章子のもとに、20年後の未来にいる30歳の章子を名乗る人物から手紙が届くところから物語は始まっていく。

 その後、章子の身には、同級生からのいじめ、母の新しい恋人とのうまいかない関係など、次々と不幸が襲いかかる。そして、後半以降は、元担任教師や亡くなった父など、章子とは別の人物の視点から物語が語られていく。

 『未来』は、『母性』(新潮社)や『ポイズンドーター・ホーリーマザー』など、これまで何度も湊かなえ作品のテーマとなってきた「母子関係」についての物語でもあるし、主人公がどこまでも追い込まれていく展開は「イヤミスの女王」と呼ばれた湊かなえの面目躍如といった感がある。自分自身で<10年間をすべて詰め込んだ作品>と分析するのは、そういった背景があるのだと思われるが、しかし、そのように得意な要素を詰め込んだ『未来』の執筆は、これまで以上に難航していた。初めての「缶詰め」にまで追い込まれた作品でもあるという。

 湊かなえの頭のなかには、『未来』の冒頭とラストは浮かんでいたものの、その間の過程がまったくでき上がらず、2年間かけても進んだのは100ページにも満たない量だった。そうこうするうちに締切は差し迫り、ついには作家人生で初めての缶詰めに突入する。

 しかし、これが奏功した。彼女自身<人間、追い詰められると頑張れるものです>(前掲「ダ・ヴィンチ」)と語っているが、缶詰めにより執筆が滞っていた部分は解消。そして、そこからの仕事は怒濤のペースで進んでいった。

<月に250枚くらい書いたと思います。ただ、あまりに無我夢中だったから、書いているときの記憶がなくて、もてるデータのすべてをこの作品に移したという感じ。自分がすっからかんになって、まさに初期化したような気分>(前掲「ダ・ヴィンチ」)

 そこまで追い込まれた結果でき上がった作品が、これまでの集大成のような作品になったというのは、なんとも興味深い。

 ちなみに、前述『文学賞メッタ斬り!スペシャル予想編』のなかで、大森望は本命が『ファーストラブ』で対抗が『未来』と予想。また、豊崎由美は本命が『破滅の王』で対抗を『宇喜多の楽土』と予想していた。

 果たして、結果はどうなるのだろうか?

(倉野尾 実)

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