7月11日に放送された『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日系)では、入社2年目の新米社員からの「怒らたことや飲酒を促されたこともなく、気を使われすぎている。社会で揉まれてこそ一人前になれると思っていたのに拍子抜けした」という主旨の投稿が紹介された。この投稿にマツコ・デラックスは「別のところで同じようなことが話題になったことがあって……」「セクハラ・パワハラを気にしすぎて、叱咤激励どころか仕事の最低限の会話以外がないハラスメント……意味わかる?」と、言及した。
上司や先輩に気を使わされすぎることを“ハラスメント”だと感じ、不満をぶつけていた社員の話を持ち出し、投稿者のような悩みを抱えている社員は少なくないと口にするマツコ。有吉弘行は「あんまり関わって来なくなるだろうね」と、ハラスメントへの厳しい視線によって社内のコミュニケーションの機会が減っていくだろうと予想した。マツコ・デラックスは「もうハラスメント天国よ」と叫び、話を締めた。
ハラスメントは広義に解釈すれば“いやがらせ”だが、どういった言動が誰にとってハラスメントにあたるかの明確な定義がなく、働きながら不安感を覚える人がいるとよく言われてきた。上司が「これを言ったらセクハラになるかも…」と考え、部下とのコミュニケーションに煩わしさを感じてしまうという話がメディアで取り沙汰されることも少なくない。ハラスメント告発が表面化したことにより円滑な人間関係が失われていくという懸念、そして些細なことでも「ハラスメントだ!」と告発したもの勝ちだという意識が、マツコの「もうハラスメント天国よ」というフレーズに凝縮されている。
だが、冷静に考えてほしい。ハラスメントの意識が高まったことがコミュニケーションを難しくさせたのではなく、これまでの社員間のコミュニケーションが杜撰すぎたことに、この問題の核心があるのではないか?
マツコ・デラックスは今の時代を「ハラスメント天国」と揶揄していたが、社内のパワーバランスに甘えて、相手を全く尊重しない雑なコミュニケーションしかしてこなかった、その“ツケ”を払う時が来ているとも考えられる。これまでは、上司から部下への乱暴で理不尽な命令、尊厳を傷つけるからかい・いじり、一方的な恋愛感情や性交渉の押し付けなど、他者の人権を軽視し双方向のコミュニケーションをとらない“人間関係”が、当たり前のものとしてやり過ごされてきた。それを見直しているだけではないだろうか。働き方改革が叫ばれる現在、これまで当たり前とされていた働き方を見直す転換期と言えよう。
ハラスメント問題にちゃんと向き合い、働きやすい職場を整備した企業は少なくない。厚生労働省が2017年に発表した「職場のパワーハラスメント対策 取組好事例集」では、ハラスメント問題の改善に取り組んだ50社を紹介している。
たとえば愛知県の製造業Q社では、社員にどのような言動がセクハラ・パワハラになるか社員の理解を促進し意識改革をもたらすべく、弁護士や損害保険会社、労働基準協会などに講師を依頼し、ここ10年で5回の研修を実施。過去にはハラスメントが原因でトラブルが生じたこともあったが、現在ではパワハラの訴えは0件になったという。
また、福岡県の専門・技術・サービス業K社では、社員へのアンケート調査を実施。パワハラだと思われる状況や指摘があった場合、すぐに双方から個別のヒアリングを行い、必要に応じて配置転換をするなど、速やかな対応処理を行っている。
徐々にこうした取り組みを実施する企業が増えているとはいえ、ハラスメントの告発は、今後もまだ間違いなく続くだろう。現状を先延ばししていても何の解決にもならない。経営者が先頭に立ち、社員一人ひとりが働きやすい職場の実現に向かうことは、「ハラスメント天国」ではないはずだ。