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死刑囚も「死んだ方がマシ」な拘置所の猛暑

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Thinstock/Photo by sandsun

 7月22日は、和歌山カレー事件の犯人林真須美(正しい表記は眞須美)死刑囚の誕生日である。逮捕当時37歳だった彼女は、今年57歳になった。

 20年の拘置所生活は、真須美を「シワクチャシラガハヌケババア」(本人談)に変えたが、変わらないのは、独居房の夏の暑さと冬の寒さである。彼女は今、灼熱地獄と戦っている。

 収容される拘置所によって冷房があったりなかったり、部屋によって日が差し込んだり窓が開かなかったりと、室温には天国と地獄ほどの違いがあるという。

 刑務官の覚え次第で涼しい部屋に入ることもできるのだが、真須美はいつも一番暑い部屋で夏を過ごしている。その異常な暑さについて、彼女は手記にこう書いている。

 私の室、獄中生活は暑いってもんではない。窓の開閉が左右自由にできず、上下に鉄板の窓戸[ママ]が年中はめ込まれていて、焼け付いて手で触ることも出来ず、風通しは悪くて、蒸し風呂、サウナ状態であること、廊下側食器口も私の室は、普通の110も開閉できず、風が全く通らず、頭上に24時間監視カメラと録音マイク二つがセットされており、電灯も他室より大きく明るく二本も電球[ママ]があり、昼も明々とつけられており他室より暑いこと、日中は太陽が差し大汗がビニール畳にポタポタ落ち3~4回は着替えて過ごすこと、もう冷たい差し入れが平日ないのなら死んだ方がマシだ[中略]私室[ママ]と他室との室温を比較するため測ってほしいと再々々々々、所長に申し出てきましたが、所長の代理として面接した女区長(女)は知らぬ顔をしてます。

 彼女は、死刑でを贖う予定になっているのに、すでに毎日死ぬほどの目に遭っているのだ。彼女がこれまで、拘置所の処遇に不満を感じ、たびたび国家賠償請求訴訟を起こしてきたことも頷ける。

 収容者の部屋に冷房が設置されているのは、東京拘置所、名古屋拘置所など、全国の刑務所・拘置所の1割程度にすぎない。

 真須美が大阪拘置所に移る前に収監されていた和歌山刑務所丸の内拘置支所では、2015年に熱中症による死亡者が出たため、その後、冷房が設置された。

   保険金詐欺容疑で真須美と同時に逮捕され、冷房設置前の同拘置支所に収監されていた夫の林健治によれば、「あそこは風通しが悪くてものすごく暑い。刑務所の方がなんぼかマシだから、やってないこともやったと言うて、早く出ていこうとするやつもいる」とのこと。今年のような猛暑では、信じたくなる話である。

 健治は一審で懲役6年の刑が確定し、滋賀刑務所に移送された。同刑務所も冷房はなかったが、琵琶湖から涼しい風が流れてくるので、夏場は過ごしやすかったという。

 冬は暖房がない大阪拘置所。真須美は毎年、全身に使い捨てカイロを貼って凌いでいる。昨年7月から今年5月まで同拘置所に収監されていた森友学園の籠池前理事長は、冬の寒さで手に霜焼けができたという。

 そういう環境だからこそ互助の精神がはたらくのか、獄中20年の林真須美は新参者の籠池前理事長に饅頭を、その妻に石鹸を差し入れ、喜ばれたという。

 死刑囚に「死んだ方がマシ」と言わしめる拘置所の猛暑。今年の異常な暑さのもとでは、すでに各地の刑務所・拘置所で熱中症患者が続出しているだろう。719日に39.8度を記録した京都市内にある京都拘置所では、2人が搬送され、うち1人は意識不明の重体だという。

 京都拘置所は、「今年は非常に気温が高い日が続いているので、熱中症対策として水分補給の機会をできるかぎり増やしたい」とコメントを出しているが、水分補給だけでは熱中症は防げない。収監者の高齢化も進んでいることから、死亡者が出る恐れもある。一刻も早く、冷房の設備を整えるべきである。
(文中、敬称略)

田中ひかる

1970年東京生まれ。著書に『月経と犯罪 女性犯罪論の真偽を問う』(批評社)、『「オバサン」はなぜ嫌われるか』(集英社新書)、『生理用品の社会史 タブーから一大ビジネスへ』(ミネルヴァ書房)、『「毒婦」 和歌山カレー事件20年目の真実』(ビジネス社)など。

田中ひかるのウェブサイト

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