市川、柏に負けるな!「マッドシティ」千葉県松戸市の“残念要素”を徹底検証

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JR松戸駅ホームより、常磐線快速の案内板を望む。

 この7月12日、「2017年5月に千葉県松戸市で男性が拳銃で撃たれて負傷した事件で、千葉県警は銃撃を指示したとして暴力団組長を殺人未遂などの疑いで逮捕した」といった旨の報道があり、世間を騒がせた。

 千葉県松戸市──東京のベッドタウンとして知られ、千葉市(人口97万7182人/2018年6月1日現在【千葉県発表による。以下同】)、船橋市(人口63万5391人) に続く、千葉県第3の都市(人口49万256人)としてのポジションを長く堅持していた。ドラッグストア「マツモトキヨシ」創業の地であることは、多くの市民の誇りでもある。

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マツモトキヨシホールディングス公式サイトより、社史を語るページ。

 一方で同マツドシティは近年、主にウェブ上で、「マッドシティ」なるいささか不名誉な異名でも呼ばれている(なかばネタ的にではあるが)。これは、2010年より放送されたアニメ『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』(TOKYO MXほか)の中で、そう表現されたことがきっかけだとされるが、これは単なる語呂合わせというわけでもないのだ。

 上記の発砲事件に限らず、暴行、強盗、放火など粗暴な事件の報道が目立ち、その上にショッキングな殺人事件がたびたび発生したことで、“治安が悪い町”というネガティブなイメージが定着。実際には統計的に犯罪件数が突出しているわけではないのだが、松戸市内で何かあるとネットでは決まって、「さすがマッドシティ」と揶揄されるような状況になってしまっているのだ。

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松戸市公式サイトより、「市の紹介」のページ。

 そんな松戸市で語られる昔からの“松戸市民あるある”のひとつに、「隣接する市川市、柏市をなんとなく上から見ている」というものがある。しかし、松戸が市川や柏の優位に立っていたのはもはや過去の話だ。

 2017年にはついに市川市に人口で抜かれたとの報道が一部でなされ(市川市の人口は49万2357人)、集計月によっては千葉県第4の都市に陥落することも。地価でも、坪単価が平均57.2万円 と、85.7万円の市川市に大きく水を開けられている(2018年発表の地価公示価格から算出)。

 東京都内からは松戸を通らないとアクセスできない、つまり交通面で劣勢にあった柏市は、2005年のつくばエクスプレス開通以後の発展が目覚ましく、柏駅周辺の賑わいは松戸駅のそれを明らかに圧倒している。つまり、もはや、市川、柏というライバル2市を見下しているような場合ではなくなっているのだ。

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2015年の上野東京ラインの開業で、東京・品川からも常磐線を経由して一気に松戸までアクセスできるようになった。

 そんな松戸市、近隣自治体との比較のみならずその内部に目をやってみても、確かになにかと残念な要素が目立ち、町のブランディングがうまくいっていないように思われる。そこで、ここで改めて、千葉県松戸市の“残念要素”を考えてみたいと思う。

【残念要素01】シンボル的存在だった「伊勢丹松戸店」が閉店した

 松戸駅西口に伊勢丹がオープンしたのは、1974(昭和49)年4月。新築された「松戸ビルヂング」に入居するという形だった。このビルは、伊勢丹が入った店舗棟(地上11階)と、当時としては画期的な地上20階建ての事務所棟から成っていた。伊勢丹松戸店は、事務所棟の最上階にあった「ニューオータニ松戸」の回転展望レストラン「中国料理 桃源」(ホテル施設はないが、結婚式場などを併設。2003年に閉店)と共に、松戸のランドマークとして君臨することになる。

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JR松戸駅西口より、旧伊勢丹松戸店方面を望む。左奥、円形の最上部を持つビルが、回転レストランが入っていた事務所棟。

 伊勢丹の誕生以降、松戸駅周辺は目覚ましい発展を遂げていく。1980年代前半までに、ダイエー、イトーヨーカドーなどの大型ストア、駅直結の「ボックスヒル」、「ポンテ」、「ポポロ」、黒川紀章設計による「アーバンヒル松戸」といった複合型商業施設が続々誕生していった。当時、“マッドシティ”などと呼ばれる未来を想像した人はひとりもいなかっただろう。人口が40万人を突破したのも、この時代のことだ。

 しかし、時代の流れと共に、松戸駅周辺、そして伊勢丹松戸店の求心力は徐々に弱まっていった。

 駅周辺で開発余地のある土地が狭く、発展は頭打ちに。一方で、新松戸、八柱、紙敷、八ケ崎といった松戸駅から離れたエリアが、急速に開発されていく。新築住宅が並び、大きな通り沿いに駐車場付きの量販店やファミレスが軒を連ねる、日本各地にあるあの“郊外的”な風景が松戸でも見られるようになっていった。

 その反面、1991年のピークを境にデパート業界そのものが斜陽化。伊勢丹松戸店にも、かつての賑わいが見られなくなっていく。

「◯◯デパートが長年の歴史に終止符を打ってついに閉店」などといったニュースが珍しくなくなった2016年、ついにこの松戸でも、数年間で営業赤字の改善がなされない場合は松戸店の閉店を検討しているとの意向を伊勢丹サイドが明らかにした。そして実際、V字回復はならず、地元自治体による経済的な支援が議会で否決されたという経緯もあり、2018年3月、閉店が正式に発表されるに至る。

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伊勢丹松戸店の営業終了をアナウンスする、伊勢丹の公式サイト。

 これは、松戸という土地柄に問題があるのではなく、デパートという業態そのものが時代遅れになっているという見方もできよう。なにしろ、「住みたい町ランキング」上位の常連である吉祥寺の伊勢丹でさえ潰れているのだ(閉店は2010年3月)。

 ただ、いずれにしても、ランドマーク的存在や伊勢丹というブランドを失うのは、地元にとってマイナスであることに間違いはないだろう。周辺の店舗などに与えるダメージも甚大だ。事実、「松戸、終わった」という声も閉店当時あちこちで聞かれた。

 そんなこんなで、2018年3月21日、伊勢丹松戸店は43年の歴史に幕を下ろした。当初は、跡地がどうなるのかの発表がなかったことから、悲観的な見方もされた。

 ところが翌4月末、この伊勢丹松戸店の跡地が、2019年のオープンを目指し別の商業施設として再出発することが明らかになる。

 はたしてこの“ポスト伊勢丹”は、松戸駅周辺の新たなブランディングのシンボルになるのだろうか?

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旧伊勢丹松戸店の1階入り口部分には、43年間の感謝を伝えるメッセージが。

【残念要素02】ピーク時は3館、10スクリーンあった映画館がすべて潰れた

 歓楽街としての側面もあった松戸にはかつて、いくつもの映画館があった。ピークは1980年代で、老舗の「松戸輝竜会館」(最大3スクリーン)、「松戸常盤館」(1スクリーン)、後発の「松戸サンリオ劇場」(最大2スクリーン)と、3館もあったのだ(厳密にはほかに成人映画館が2館も)。

 東映系の常盤館は建物の老朽化もあり1992年に閉館するが、翌1993年、松戸駅近くにシネコン形式の「松戸シネマサンシャイン」が3スクリーンでオープン(のちに「シネマサンシャイン松戸」)。同時に同じビルにサンリオ劇場が移転、「松戸サンリオシアター」として拡大した(最大4スクリーン)。

 ところが、このサンリオシアターはわずか3年で閉館。だが、その施設をシネマサンシャインがそのまま引き継ぎ、7スクリーンという当時としては大型のシネコンにバージョンアップしている。2000年までは輝竜会館も営業していたので、この期間の松戸には、10スクリーンが存在していたのだ。

 町の古い映画館が潰れシネコンに集約されていくという流れは、2000年代の映画界の自然な流れだである。だが、残念ながら松戸ではシネコンもダメだった。なんとシネマサンシャインは10年もたず、2013年に閉館。そして松戸は、映画館不毛の地となった。

 2010年代にシネコン経営がうまくいかなかった40万都市……。「松戸は東京に近いから」という“松戸市民あるある”な言い訳をするのはかなり苦しい。なぜなら、千葉、神奈川、埼玉の人口40万以上の市町村で、映画館がないのは松戸市だけなのだ。東京都と隣接するライバル市川市にだって、当然複数館が存在する。となると、町の風土や住民性のようなものが理由なのだろうか?

 なお、松戸駅周辺には映画館がないばかりか、ゲームセンター(充実!)やパチンコ店(大充実!)を除く娯楽施設も、ウインドウショッピングに適したモダンな通りもない。若いカップルが徒歩でデートするのに向かない町だということは確かなようだ。

 映画館が消えて5年あまり。しかしそんな松戸の映画環境に、大きな変革が起こることになった。2019年秋にオープン予定の大型商業施設「テラスモール松戸(仮)」内に、ユナイテッド・シネマ系のシネコンが開業することが決まったのだ。しかも、全11スクリーンという、松戸史上最大の規模となりそうだ。

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「テラスモール松戸(仮)」の開業をアナウンスする、住友商事公式サイト内のページ。

 ただし、このシネコンの最寄り駅は松戸ではなく、そこから常磐線各駅停車で3駅の新松戸駅。駅前からは徒歩20分以上の場所にある(開業後はシャトルバスが走るだろうが……)。つまり典型的な、クルマでの来館を前提とした郊外型シネコンだ。そのため松戸駅を拠点とする住民にとっては、逆方向に2駅で行ける葛飾区・亀有のシネコン「MOVIX亀有」(こちらは駅から徒歩10分程度、10スクリーン)に行くほうが近いという現実がある。

【残念要素03】大宴会を開ける大型ホテル、結婚式場がゼロ

 松戸が残念なのはなにも、これまで述べてきた松戸駅周辺の衰退のみに限った話ではない。松戸市のエリア全域に関してもいろいろとあるのだ。ここからは、そのあたりについても駆け足でまとめていこう。

 まず、なんと松戸には、“ホテル”と名の付く宿泊施設は、ビジネスホテル、カプセルホテル、ラブホテルしかないのだ。大型のシティホテルがないので、結婚披露宴や大規模なパーティを開けない。かといって専門の結婚式場もない。ブライダル情報サイト「ゼクシィ」で検索しようとしても、エリアの選択肢に「松戸」という文字は見つからない。

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ブライダル情報サイト「ゼクシィ」で検索をかけようにも、「松戸」をエリア指定できないという悲しさ。

 しいていえば、「神社で式→近くの料亭で披露宴」、もしくは「公のホールでの人前式&披露宴」という選択肢が残っている程度。そのため、地元愛が強い地域密着型カップルでも、仕方なく他地区のホテルで披露宴を開くことを余儀なくされる。

 なお、市川にもシティホテルも結婚式場もないので、この点に関しては、ホテル、式場を複数抱える柏の一人勝ちとなる。

【残念要素04】つい最近まで高速道路が走っていなかった

 2018年6月2日は、松戸市にとって歴史的な日となった。なぜならこの日、東京外環自動車道(外環道)の千葉区間(三郷南IC~高谷JCT間)が開通。これにより、ついに松戸市に高速道路が通り、初のインターチェンジ「松戸インターチェンジ」も誕生したのである。

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東京外環自動車道(外環道)の千葉区間(三郷南IC~高谷JCT間)開通をアナウンスする、NEXCO東日本公式サイト内のページ。

 逆にいえば、つい最近まで松戸市には、高速道路もインターチェンジもなかったということになる。40万都市で高速道路もインターチェンジもないというのは非常に珍しく、流通などの面で大きなマイナス要因だったことは明らか。ようやく、その状態から脱却できたのだった。

 ちなみに「松戸インターチェンジ」は、高谷JCT方面への入口、三郷南IC方面からの出口のみの、ハーフインターチェンジだということをここで確認しておきたい。

【残念要素05】観光スポットが離れすぎている

 松戸が最近力を入れているのが、観光だ。ただし、ここにも残念な要素が含まれている。というのも、主要観光スポットの一つひとつが離れており、日帰り客が徒歩でそれらを数箇所巡る……といったことが難しいのである。クルマ移動という手もあるが、途中は極めてフツーの道をドライブするだけなので、なんとも味気ない。

 松戸を代表する観光コンテンツに、「矢切の渡し」がある。そもそも「矢切」は松戸の地名なのだが、現在は江戸川を挟んで対岸にある葛飾区・柴又を訪れた人がオプション的に楽しむアクティビティとしての色が濃くなっている。

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1983年に日本コロムビアより発売され大ヒットした「矢切の渡し」(写真は、シングル「北酒場/矢切の渡し」 のジャケット)

 それもそのはず、映画『男はつらいよ』でお馴染みの柴又側と違い、矢切側は船着き場の近くに「野菊の蔵やきり観光案内所」という施設があるのみで、目の前は農地。最も近い観光スポット「野菊の墓文学碑」に行くにしても、農道を抜け、両側に民家が点在する坂を上り、20分あまりも歩かなくてはならない。こうしたことからか、柴又からやってきた人の多くは、松戸にはほとんどお金を落とさずに帰っていくのだ。

 松戸市は、近世期には松戸宿という水戸街道の宿場町であったこともあり、寺社仏閣や石碑の類は多い。また、水戸藩最後の藩主・徳川昭武の武家造りの別邸「戸定邸」と、そこに併設された歴史館もあるので、歴史散歩のようなことはできる。ただし、それぞれのポイントが密集しているわけではなく、「小江戸」を掲げる埼玉県・川越のような、エリア全体に宿場町の風情を残す町並み……といったものがないのがリアルなところだ。

 道中に休憩できるような飲食店も極めて少なく(駅周辺にラーメン店、つけ麺店だけは多いが)、土産物店や地元の物産品を売るような店もほぼない。残念ながら、観光地として市外からのリピーターを多数生むような環境とはいいがたいだろう。

 蛇足ながら、旅行クチコミサイト「トリップアドバイザー」の「2018年 松戸市で絶対外さない観光スポット 10選」というページにおけるランキング上位はいずれも、「柴又帝釈天」「寅さん記念館」など、川を挟んで隣接する葛飾区にあるスポットであることにも触れておきたい。

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