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日本が40度を超える記録的な猛暑となっていることはCNN、BBCなど欧米のメディアも伝えている。さらにはこの “deadly heat wave” (死を招く熱波)により、2年後のオリンピック開催が心配であることも報じられ始めている。
2020年東京オリンピックは現在も開催中止論が消えないほど諸々の問題山積だが、一見マイナーに見えて、実は奥の深い文化論でもある「刺青問題」もある。オリンピックを観に来る外国人の中にはタトゥのある人も多いだろう。彼らが宿泊先のホテルのプールで泳ぎたいと思った時、はたまた温泉まで足を伸ばした際に、さて、入場できるのだろうか。
日本では刺青は暴力団の証=タブーとされ、今も銭湯、温泉、プールなどで「イレズミのある方、お断り」が少なくない。一方、アメリカには昔からタトゥの文化があり、さらに近年はファッションとして大流行したため、全く「普通のもの」となっている。
ニューヨークでは夏場に地下鉄に乗ったり、道を歩くだけで腕、肩、首筋、手の指、ふくらはぎ、足の甲などにさまざまなデザインのタトゥを入れた人を、それこそ無数に見掛ける。小さな花やハートのワンポイントから腕全体を覆うゴス調の凝ったデザイン、正誤混在の漢字や日本語、恋人の名前や「ママ、愛している」といったメッセージ、さらには亡くなった愛児の肖像など百花繚乱だ。そういえば、日本の伝統的なデザイン(いわゆるヤクザ系の柄)にキティちゃんを組み合わせたものを見たこともある。プロの彫り師による精緻なものもあれば、自分か友人(または刑務所内で他の収監者)が彫ったと思われるピンボケしたものもある。
タトゥ盛り盛りの公務員たち
2012年に大阪の橋下市長(当時)が市の全職員33,000人を対象に刺青調査をおこない、物議を醸した。あの時、市長が「公務員が刺青など、外国ではありえない」といった趣旨の発言をしたと読んだ記憶がある。その時、「いやー、アメリカでは公務員もフツーに入れてるけど。先生も警官も消防士も」と思った。
例えば、筆者の息子の小学校時代の理科の先生は若い女性で、手首に小さな3つの星のタトゥが入っていた。中学の特殊教育の先生は、背中の開いた服だと羽のタトゥが見えていた。とはいえ、見える場所に極端に大きなサイズや、過激なデザインのタトゥを入れている教師は少ないように思う。だが、警官と消防士、そして米兵はまさにタトゥの宝庫だ。
FDNY(ニューヨーク消防局)は、タトゥのルールは特に設けていない。消防士の職務は火事場での消火活動であり、市民と直接接するわけではないからだろう。以前、ある消防署を取材した際、ベテラン消防士が腕に彫った大きなWTC(ワールド・トレード・センター)の刺青を見せてくれた。9/11同時多発テロで亡くなった同僚への追悼と敬意の証として彫ったものだった。
市民と接することの多い警官には多少の制限が課されていた。NYPD(ニューヨーク市警)は2007年、新規採用警官に対し「タトゥは制服を着ると見えない場所のみ可」とルールを定めた。だがそれ以前に採用されていた警官には当てはめられず、夏場に街で見掛ける警官の腕にはタトゥがあった。一度、首筋に彫っている警官を見たこともある。
しかし昨年、NYPDは男性シーク教徒警官のターバン着用、男性イスラム教徒警官のヒゲを解禁し、同時にタトゥの規制も緩めた。ターバンとヒゲは信仰に基づくものだが、タトゥは規制し過ぎると新規応募者が減ることが理由だった。それほどタトゥを持つ若者が増えているのだ。
米軍も事情は同じだ。新規の兵士を募るために空軍は昨年、タトゥは「頭部、首、顔、舌(!)、唇、手(指1本だけは可)以外はすべてOK」とした。つまり、腕と脚は見えようが見えまいが、いくら入れても良いこととなった。陸軍、海軍もおおよそ似たルールだ。海兵隊だけはやや厳しく、腕と脚は良いが、肘と膝は不可。ただし「制服で隠れる部分は制限なし」の注釈を付けている。
アメリカのミリタリー人口は非常に多く、除隊した元兵士が警官に応募するケースも少なくない。つまりタトゥを規制し過ぎると国防に影響し、のちには国内の治安維持にもかかわることとなるのだ。
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