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教員の長時間労働を招く“運動部指導”という伝統に、働き方改革でメス

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Thinstock/Photo by SeventyFour

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 富山県教職員組合は17日、2016年に長時間労働によりくも膜下出血を発症し過労死と認定された40歳代の公立中学校男性教諭が、発症前に時間外勤務の7割が部活動の指導に割かれていたと発表。県教組や同支部の調べによれば、時間外勤務は発症前の30日間で118時間25分と、過労死ラインにあたる80時間を大幅に超えていたようだ。

 非常に残念なニュースではあるが、教員の過重労働は深刻な問題だ。文部科学省が2016年度に公立校の教員を対象に実施した「教員勤務実態調査」によると、過労死ラインで働く中学校教師が7割近くもいることがわかった。さらに、OECD2013年に発表した「国際教員指導環境調査」によると、日本の中学校教師の1週間当たりの勤務時間は53.9時間(参加国の平均38.3時間)と参加した世界34カ国中最長。いかに日本の教師が過労死と隣り合わせかがわかる。

 さらに同調査では、部活動などの課外活動が1週間のうち7.7時間(参加国の平均2.1時間)とも報告している。特に運動部では平日のみならず休日に試合や練習が行われるケースも珍しくなく、“完全な休日”が週に一度以上ある運動部顧問の教員は少ないのではないだろうか? 亡くなった男性教諭も、部活指導に多くの時間を割いた結果、心身を追い込んでしまい過労死に至ったと推測されている。課外活動の時間が上記国際調査参加国の平均並みに短ければ、守ることができた命だったかもしれない。

 そもそも、世界的に見て教師が部活動の指導までする日本のシステムは特殊だ。教師が課外活動に1週間当たり0.4時間しか費やさないスウェーデンを始め、ドイツやフィンランドなどのヨーロッパ諸国では、街のスポーツスクールに子どもを通わせ、その分野のプロが指導に当たるのが常識とされている。教師は専門教科を教えることに特化した専門家と考えられており、「スポーツを専門外の教師が指導する」という日本の常識は世界の非常識と言えそうだ。

 また、日本スポーツ協会が2014年に発表した「学校運動部活動指導者の実態に関する調査報告書」によると、未経験の競技の顧問に就いている中学校教師は45.9%と半分近くいる。未経験の競技を指導することは、教師にとって相当なストレスだろう。また、未経験の教師による指導が物足りない、あるいは効率が悪かったり論理的でなかったりといった違和感を生徒側が覚えることもあるのではないか。現行の部活動は、両者にとってネガティブな循環が生じやすい構造になっている可能性がある。

 もちろん日本政府も教師の部活動問題を危惧しており、現状を楽観視しているわけではない。スポーツ庁は今年3月、「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」を発表。「教師の代わりに部活動の指導や大会への引率が可能な“部活動指導員”の配置に関する具体的なディレクション」や「週2日以上の休養日を設置」、「競技力の向上だけでなく、部活動を通して友だちと楽しめるよう多様なニーズへの対応」など、今後の“部活動の在り方”を明記した。さらに同庁では今月12日、中高の文化部の活動に関する指標も作ることを決定。運動部同様「週2日以上の休養」などを検討するとのことだ。

 教員に「子どものために」という大義名分でプレッシャーを与え、無理難題を押し付けることは、もはや“常識”ではない。部活動問題に限らず、すでに教員の働き方改革は進行中である。もう時代が後戻りすることはないはずだ。

宮西瀬名

フリーライターです。ジェンダーや働き方、育児などの記事を主に執筆しています。
“共感”ではなく“納得”につながるような記事の執筆を目指し、精進の毎日です…。

twitter:@miyanishi_sena

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