中国で売れ続ける黒柳徹子『窓ぎわのトットちゃん』 背景には成績至上主義と児童の自殺頻発も

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新経典文化公司が発行する『窓ぎわのトットちゃん』の中国語版である『窓辺的小豆豆』

 中国・南海出版公司が初版を出版し、その後、新経典文化公司が版を重ねている中国語版『窓ぎわのトットちゃん』(『窓辺的小豆豆』)の販売部数が、累計で1000万部を突破したのは2017年6月のことだった。同書のオリジナルは、1981年に講談社より発刊された黒柳徹子の自伝的エッセイである。東京・自由が丘にかつて存在した、自由な校風で知られた私立の学校、トモエ学園。著者がそこに通っていた時分のエピソードや、同校のユニークな教育方法が描かれたノンフィクション作品だ。日本では累計800万部以上が販売され、2017年には『トットちゃん!』(テレビ朝日系)として一部抜粋の形でドラマ化されるなど、いまなお国民に愛され続けている作品である。

 中国国内における『ハリーポッター』シリーズの累計販売部数は約1000万部。それを考えると、『窓ぎわのトットちゃん』が持つ「1000万部超え」という数字がいかに巨大かがわかろうというもの。では、なぜ中国では、この作品が日本以上のヒットを飛ばしているのか。改めてその背景に迫ってみたい。

『窓際のトットちゃん』が中国で“正式に”発売開始されたのは、2003年のこと。1980年代には、とある出版社が海賊版を発売していたとのことだが、当時、中国は万国著作権条約等の著作権保護のための国際条約を批准しておらず、販売部数などの詳細なデータも残されていないという。そして正式な発売開始以降の状況については、中国メディアが次のように分析している。

「中国が著作権条約に加盟後の2003年、同作は作者の許可のもと、中国で正式に発売された。また発売当時の中日関係は、政治的にこう着状態ということもあり、日本人作家の書籍が中国で売れることなど想像もしていなかった。しかし、中国の出版社側の努力もあり、『窓ぎわのトットちゃん』は中国国内の1000の教育機関に寄贈され、単なる児童文庫としてだけでなく、教育書籍としても中国で広まっていったのだ。子どもの個性を矯正するのではなく、最大限に伸ばすという教育方針は、中国のそれまでの教育の概念を大きく変えるものとなった」(ネットメディア「捜狐新聞」)

 また、大学生向けの情報サイトなどでも、同書は推薦図書として次のように評価されている。

「推薦したい最も大きな理由は、ノンフィクションであるということだ。いくつかの小さな話で構成され読みやすく、みずみずしく誠実なストーリー、さらに挿絵の優しさが読者を物語に引き込んでいく。いたずら好きの問題児たちを無条件で受け入れるトモエ学園の子どもたちは、きっと人生で最高の時間を過ごしたに違いない」(「大学網」)

 さらに、読書口コミ掲示板「豆弁読書」には以下のような読者の感想が寄せられている。

「日本ではすでに半世紀以上も前から、子どもの個性を尊重する教育が行われていたとは驚きだ。中国は半世紀前の日本にすら追いついていない」

「子どもの頃に抱いていた探求心や好奇心というものは、すべて大人に潰されてしまった。大人こそ読むべきバイブルだ」

「中国の教育界に足りないことが凝縮されている。小学生時代にこんな恩師に出会えた主人公がうらやましい」

 こうした称賛の声が多くある一方で、同じく豆弁読書には、同書に対し異を唱える意見も。

「現代の義務教育の中では、時間通りに教科書をこなしていくことで精いっぱい。子どもひとりひとりの個性を伸ばすことが大切だというのはわかるが、時間的にも人数的にも実現不可能な理想論だ」

「小学生の頃、親とか先生に読まされたけど、読ませて道徳教育をしたつもりになっている大人ばっかり。子どもは読むだけ現実に失望するかもしれない」

 つまり、現実とのギャップに不満を口にする読者も少なくないわけだ。

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日本版オリジナルの『窓ぎわのトットちゃん』(講談社青い鳥文庫)

 中国の教育行政をつかさどる中国国家教育部は、「低学年の小学生が読むべき本50選」に、日本の書籍としては唯一、この『窓ぎわのトットちゃん』を推薦している。また中国の一部の小学校では、「総合実践活動」という科目を創設、トモエ学園で行われていたような、個性を伸ばす教育を導入していくことが報じられている。こうした背景には、成績至上主義の中国で、勉強を苦にした児童の自殺などが頻発していることも挙げられるだろう。同作を理想論と語る読者もいるが、同作をきっかけに中国の教育が変わろうとしているのも確かなのである。

【文/Sun Baibai(ロボティア編集部)】

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