20代から重いPMSを患い、産後に抗うつ剤を処方された女性

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更年期

向き合います。更年期世代の生と性

 あずささんは43歳、7歳の双子のお嬢さんのママで、同じ歳のご主人と4人暮らしだ。輸入品を扱う企業で長く働いていたが、出産前に退職し専業主婦となった。20代の頃から、ある期間に自分は突然“狂暴”になってしまうという自覚を持っていたあずささん。いまならそれは重いPMSのせいであるとわかるけれど、当時は情報もなく、イライラや激しい怒りを必死で押し殺しながら「なぜこんなふうになってしまうんだろう」と悩む日々が続いていたという。

排卵日前後に襲ってくる気持ちの変化に悩まされて

――PMSは、生理1週間前に襲ってくる感じですか?

「私の場合は排卵日前後の数日なんです。とにかく喧嘩っ早くなる。会社ではなんとか抑えていたものの、一歩外に出て、例えば道で知らない人と体が当たったりしたらもう大変。追いかけて『ちょっと! 当たったんだけど!』って文句言わないと気が済まない(笑)」

――たしかに、なかなかの狂犬ぶりですね(笑)。

「自分の体についてよくわかっていなかったから、それが排卵日のせいだと長い間わからなくって。でもなんとなく生理と関係あるのかなとは思い、30代になって婦人科で相談したんです。そこで漢方を処方されました」

――効き目はどうでしたか?

「しばらく服用していましたが、変化が感じられないので、いつの間にかやめてしまって。そのうちに結婚して、妊娠・出産があり。子どもが34歳になるまでは子育てがとにかく大変で、その頃のPMSがどうだったかはあまり記憶にないんです」

――自分の体の不調よりなにより、お子さんのことを優先されていたんでしょうね。

「ええ、双子で大変だったこともあり悩む暇もなかったというか……。でも、子どもが少し手を離れるようになるとまたPMSが気になるように。出産を経験していたので、さすがにもう体調に変化があるのは排卵日前後だとわかっていました」

――PMSという言葉も一般的になっていた頃ですよね、数年前だと。

「はい。きっと自分のこの症状もそうだろうと。独身時代と違って、子どもがいるだけにとても不安になったんですね。抑えきれないイライラや暴力的な気分が子どもに向かってしまったらどうしよう、いつか子どもに手をあげてしまうんじゃないか……って」

――それでまた婦人科に通われるようになった。独身時代に通われていたのと同じお医者様ですか?

「そうです。漢方が効かなかったということで、違う錠剤を出してもらいました」

――安定剤かなにかでしょうか?

「そうだったのかもしれないけれど、効果がなかったので覚えてないんです。ちょうどその頃、私の中で違う問題も出てきてしまって……」

親になったことで、蓋をしていた気持ちに変化が……

――“問題”とはどんなものか、教えてもらってもいいですか?

「自分の親との関係性です。それまでも『うちの親って変だなぁ』とはずっと感じてはいたけど、その気持ちに蓋をしていたんです。でも出産して自分が親になったことで、その蓋がある日ポンっと音を立てて外れてしまった」

――あずささんが感じていた、過去の辛い思いが噴出したということですか?

「まさにそれです。子育てって、赤ちゃんから3歳ぐらいまではとにかく子供たちを<生かす>ことに精一杯だと思うんですね。それが3歳を過ぎて少し手がかからなくなると<生かす>から<育てる>になる。今度は、子どもの人格を形成していかないといけない。そうすると私自身もいろんなことを考えはじめ、最終的に自分と親との関係に行き着いてしまったんです」

――いまは毒親という言葉もあります。

「うちもそうなんだと思います。過去を振り返るうちに『あのとき、親はなんであんな風に私に言ったの?』『なんであんなことをしたの?』 と、いろんな思いが沸き出て止まらなくなった。自分はこんなにも親を恨んでいたのか、親に言われたひとことにこんなにも傷ついていたのか――。ずっと考えるようになってしまった。関連する本をたくさん読みましたけど、なにも解決しませんでした」

――ご主人にはそのことは?

「夫はずっと物事が順風満帆に進んできている人で。うまくいかない人の気持ちってあまりわからないだろうなと思い込んでいたので……なかなか自分のそういう部分をさらけ出せなかったんです。でも、時間が経ってそういう自分の内面を見せられるのはやっぱり夫なんだと気づいてからは、全部話せるようにはなったんですけど。いまは育った背景も理解してくれています」

――悩み始めた当初は、その思いをひとりで抱え、そこにPMSの問題も重なった……。

「はい。PMSのほかに気分の落ち込みも表れて。最初の薬は効かなかったので、先生が違うお薬を出してくれました。抗うつ剤です。その薬を飲むと、イライラは収まりましたが、副作用が強くって……」

――先生から「抗うつ剤です」と説明はありましたか。

「なにも。生理の2週間前になったら飲み始めてください、と言われただけでした。その薬を飲むと、吐き気とめまいがひどくって立てないんです。だからいつも眠る前に飲んでいました。薬を飲んで排卵日前後の怒りを乗り切り、生理がきたら飲むのをやめる。その繰り返しで結局1年半ぐらい、42歳頃まで抗うつ剤を飲み続けていました」

――これは抗うつ剤だ、と気づかれたのはどうして?

「薬局で処方箋を出すと、毎回薬剤師さんがいぶかしげな顔をするんです。『月の半分だけ飲むように、と先生がおっしゃった?』『婦人科でこのお薬を出されたんですか?』と質問されたり。最初ははいはい、って答えてたんですけど、そのうち不安になって。そこで初めて薬の説明をよく読んでみたら、抗うつ剤と書いてあったんです」

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 抗うつ剤と知り「なぜうつでもないのに、抗うつ剤を飲むんだろう」と疑問を感じたあずささん。けれども、この薬があるからこそ社会でうまく生きていけるんだ、との思い込みがあり止め時がわからなくなっていた。飲みたくはないけど飲まずにはいられない。飲み続けて1年半、排卵日以外にも極端な気分の落ち込みなどの症状が現れるようになった頃、あずささんはかかりつけの婦人科医から「あること」を言われてショックを受けることになる。

<後編へ続く>

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