連載

更年期で心も体もどん底に落ちた時、救ってくれたのは夫だった(あずささん・43歳)

【この記事のキーワード】
更年期

向き合います。更年期世代の生と性

 あずささんは43歳、7歳の双子のお嬢さんのママで、同じ歳のご主人と4人暮らしだ。輸入品を扱う企業で長く働いていたが、出産前に退職し専業主婦となった。20代の頃から、ある期間に自分は突然“狂暴”になってしまうという自覚を持っていたあずささん。いまならそれは重いPMSのせいであるとわかるけれど、当時は情報もなく、イライラや激しい怒りを必死で押し殺しながら「なぜこんなふうになってしまうんだろう」と悩む日々が続いていたという。

 PMSと毒親問題に気づいたことからくる気分の落ち込みが重なり、婦人科では抗うつ剤を処方されるようになったが、ある時、かかりつけ医からショックな提案があった。

<前編:20代から重いPMSを患い、産後に抗うつ剤を処方された女性

気分の落ち込みがひどくなり、日常生活が困難に

――婦人科の先生からどんな言葉があったんでしょう?

「『この薬、実はあんまり出したくないんだよね』『そもそも婦人科で出す薬じゃないから、次からは精神科に行ってほしい』と」

――1年半も抗うつ剤を出していながら、あまりにも唐突な気がしますが……。

「私も驚いて。夫に話すと、彼は抗うつ剤を飲んでいることに反対していたし、症状がひどくなっていることも心配していたので、根本的な治療になってないから医者を変えるべきだとずっと言ってくれていたんです。『その薬が効かなくなったら、次はもっと強い薬になるかもしれない。どんどん強くなっていったら、どうするの?』と。でも私は、そんなの困る、いやだと思いながらも、止めるのが怖くて飲み続けていた」

――精神科に行くことについてはご夫婦で相談されたんでしょうか。

「私も夫も漠然とですが『うつじゃないはずだ』との思いがあったので、精神科へ行くことが正しいわけではないんじゃないかと。それで、やはり違う婦人科に行こうとなりました。女性のお医者さんのほうが話しやすいと考えて女医さんがいるクリニックに相談に行ったんですが……そこでまず『私、PMSが酷くって』と話しだした瞬間に、先生は『PMSってなに?』と」

――え! それって1年ぐらい前のことですよね!? PMSという言葉はもう世間一般に広く浸透しているはず……。その女医さんは、患者がその言葉をきちんと理解しているかを確認するために、あえてそのように言われたんでしょうか?

「違うと思います。聞き返されて私は(PMSで合ってた? 間違って覚えてた?)と思い 、慌てて『月経前症候群をPMSと言いますよね?』と言い直したんですが、先生は『ふーん』とおっしゃっただけでした」

――それは……ここに通っていいのかと不安になりますね。

「ろくに話もせずに帰ってきました。でも症状はひどくなる一方で。前の婦人科でもらった抗うつ剤がたくさんあったので、それを飲み続けていたんですけど、落ち込みがひどくなり、段々と日常生活がなにもできなくなってしまったんです」

――なにも?

「ええ、なにも。とりあえず朝、子どもを幼稚園の送迎バス乗り場までは送っていくけれど、戻るとそのまま床で寝てしまう。ご飯も作れません。私、もともと料理が大好きで、3日間かけて本格的な煮込み料理を作ったり、楽しんでやるタイプだったのに……カップラーメンさえ買いに行けないし作れない。部屋はちらかり放題。自分がおかしいとはわかっているんです。これじゃダメだ、動かなきゃ、とも思うけど、どうしてもできなくって」

――ご主人、心配されたでしょう?

「そうなり始めた当初は『新しい病院を探して行ってきなよ』と何度も言ってました。でも探す気力なんてもう私にはないわけです。だからそう言われると『行きたくない』って、しまいには泣き出したり。夫はそんな私を見て『どうしたの?』ってただ驚いて……。そう言われるとイライラして。『こっちがどうしたのか知りたいよ!』と、ウエ~ンって大声で泣いたり」

消えてしまいたい――そんな思いに取りつかれるように

――自分の体がどうなっちゃったのか、一番知りたいのは自分自身ですものね。

「いろんなことが怖かったです。こんな状態はまずい、家庭不和になっちゃう、って。それぐらいはわかってたから。自分はダメ人間だ、と自分を責めもする。それでも動けないし、夫や子どもたちにもキツイ言葉を投げてしまう。でも頭のどこかで『この子たちが大きくなったら、なんでお母さんはあんな態度を取ったんだろう、って苦しむことになるんだ、私と同じように』って思えて辛くて。それで『この子たちが大きくなる前に私は死にたい。早く死にたい』と考えてました」

――自分の存在を消してしまいたくなった?

「そうです。あのままの状態が続いていたら、きっと離婚していただろうし、最悪の場合は自死もありえただろうと思います」

――その状態から抜け出したきっかけは。

「夫の協力が一番大きかったです。明らかに私がおかしいので、夫は夫なりにいろいろ調べていたようです。それで、ホルモンバランスのせいじゃないかと行き当たって。ある日『更年期専門のクリニックがあるから行ってみよう』『HRT(ホルモン補充療法)という治療があるんだよ』と。半年前のことです」

――あずささんは40代前半。更年期世代は45歳から55歳をさしますから、一般的な考えからするとまだ少し早い。にも関わらず、ご主人はよくそこに気づかれましたね。それで更年期専門の病院に行き、HRTをスタートされた、と。

「最初は夫が会社を休んで一緒に行ってくれました。あの頃の私はとにかく頭がボーっとしていて、先生から症状を訊かれても思い出せないし、うまく話せない。夫が横で『妻はこう言いたいんだと思います』と通訳してくれて。それでHRTを試すことになったんです」

――HRTに抵抗は感じなかったのですか?

「それってなに? ホルモンを入れるなんてちょっと怖い、と感じたように思います。渡されたパッチ(シール)を見て『こんな小さなものを貼るだけで、ほんとに変わるの?』とも思ったような。でも辛かったので試してみよう、という気持ちが強かった」

(注)HRT(ホルモン補充療法)とは
更年期世代になり減少したエストロゲンを、飲み薬やパッチやジェルなどの薬を用いて補う治療であり、治療によって40代半ばのエストロゲン量になるように設定される。なお、HRTを始めるためには医師による診断と処方が必要である。

治療を始めたら劇的な変化があった

――HRTの効果はありましたか?

「劇的に。私の場合、パッチを貼ってから1週間で大きな変化がありました。元の自分に戻れた! という感じです。抗うつ剤で抑えているのとはまったく違い、頭がすっきりして以前のように行動できるようになったんです。気が晴れた、という言葉が一番しっくりくるかもしれません」

――やはり、あずささんの体調不良は精神科受診するようなものではなく、更年期によるホルモンバランスの大幅な変化が原因になっていたんですね。劇的に良くなったというのは、ご主人から見てもわかるほどの変化だったんですか。

「はい。みるみるうちに元気になりましたから。そうそう、HRTを始めて昔の自分を取り戻してから、彼に訊いたことがあるんですよ。『よく、あの頃の私を我慢してくれたよね、鬱陶しかったでしょ?』と」

――ご主人はなんてお答えになりましたか?

「『あずさはまるで人が変わったみたいになっていたから。助けてあげたい、自分が動かないとダメだと思った』と」

――なにもできないあずささんを見ても、これは本来の姿じゃない、とわかっていらしたんですね。

「ええ。夫のその言葉を聞いて『私たちがこれまで仲良しでいて、きちんと意思疎通をしてきたから、変化に気づいてもらえたと思っていいのかな?』と言ったら、夫は『まあそうだろうね』と」

――互いに無関心な夫婦関係だと、人が変わったとは思えなかったかもしれないでしょうね。ご主人は元に戻ってほしいとの思いが強かったんだと思います。

「なんだかこんな風に話すと、夫はものすごく優しい人みたいに思われそうですけど、もちろんそんな面ばかりじゃないですよ、普段は(笑)。でも今回のことは、ほんとに感謝しかありません。よく病院を探してきてくれたなと」

世の男性に言いたいこと、知っておいてほしいこと

――お話を聞けば聞くほどご主人には称賛の言葉しかありませんので、おそらくそう書くことになるかと(笑)。あずささんの場合、ご主人が助けようとして必死で動かれたからこそ、いまこうしてお元気になられたわけですが。ご主人やご家族に理解がなく、ただひたすら我慢を強いられているという女性もたくさんいらっしゃると思うんです。

「そうなんですよ、私みたいな症状を、例えば夫や上司や子どもから『だから女はだめなんだ』のひとことで片付けられてきた例ってきっと山ほどあると思うんです。悲しいことですよね、自分ではどうしようもないものなのに」

――職場でも家庭でも、更年期を理解しようともせずになんでもかんでも「更年期ってめんどくさいな」ってひとくくりにして済ませようとするのはいかがなものかと私も思います。とくにご主人方は自分の家庭に関わる問題なのに……。

「どうか奥様に情愛と優しさを持ってください、と世のご主人方には言いたいです。私の場合は専業主婦ですけど、主婦って無給なわけじゃないですか? 喜びは夫や子どものありがとうや喜ぶ顔なんです、それなのに家庭で『更年期? めんどくさいなぁ』なんて言われたり、ひどい扱いを受けたら、絶望しかないと思うんですよ。元気がなくなったときにかけられる言葉がひどい言葉しかないだなんて、ほんとに辛いだろうと思います」

――わかります! この記事は多くの男性に読んでいただきたいです! ところで、あずささんはいまお話していても活発でお元気そうで、ほんの半年前にそんな壮絶な体験があったとはとても思えないのですが、今回のことを経てなにか感じられたことってありますか?

「更年期になり体も精神もどん底まで落ちたからこそ、いままであまりにも自分の体に無知だったということに気づけました。私、ずっと馬力があり元気で猪突猛進タイプだったんですけど(笑)。今後は自分の体をしっかり観察して、体力を過信しすぎずに、リラックスできる方法やストレスを解放する方法を見つけていきたいなと思っています」

――どうかご主人様にもよろしくお伝えください。今日はどうもありがとうございました。

日々晴雨

都内在住のフリーライター、更年期ジャーナリスト。いくつかのペンネームを使い分けながら、コラム、シナリオ、短編小説などを執筆。コピーライターとして企業のカタログやHPなどのライティングに携わることも。2017年にメノポーズカウンセラーの資格を取得。

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