
空港へ歩いて行ってみたことはありますか?
連載【空港から最寄り駅まで歩いてみた】
第1回「県営名古屋空港編」
海外旅行の増加やLCC(格安航空会社)の活況で、利用者数がここ数年増加傾向にある各地の空港。近年では空港ターミナルと鉄道・軌道が直結し、利便性も向上しているが、とはいえ地方空港の中には、バスが主な連絡手段として機能しているところも、依然として多い。
しかし、だ。格安の飛行機に乗るときは、アクセス手段も格安で行きたい。LCCが多く就航する成田空港へは、東京駅から最安900円で行ける「東京シャトル」など、格安バスが発着している。関西空港からも、南海線・なんば駅まで820円で行ける乗車券が、ピーチやジェットスターの機内で販売されているが……。さらに安く、歩いて空港を訪れることはできないものだろうか?
北海道テレビ(HTB)の人気番組『水曜どうでしょう』で、羽田空港から都内各地を歩いて移動する「東京ウォーカー」という企画があった。番組内では空港の敷地を徒歩で脱出する手段がないようだったが、羽田空港トンネルを車で通った際に、歩道があったことを記憶している。
先述の通り地方空港は、バスを含めた車でのアクセスが大前提となっているところが多い。もちろん歩道はあるだろうが、おざなりに造られていたり、管理が行き届いていないところも少なくないだろう。
2018年7月に西日本を中心に発生した豪雨で、広島空港を発着する連絡バスは一時、すべてが運行休止に追いやられた。山陽自動車道などの周辺道路だけでなく、JR山陽本線などの鉄道も不通となったためだが、地震や豪雨などの自然災害によって「鉄道は使えるがバスは動かない」といったケースも今後は起こりうるだろう。なればこそ、徒歩での空港アクセスをもっと考えてみるべきではないだろうか?
というわけで本連載では、空港から歩いてみようと思う。
はたして、直結駅のない空港からその最寄り駅まで歩いてみると、どうなるのか? なぜ直結駅が作られなかったのか? その歴史を各空港ごとにひもときつつ、空港アクセスの実態を解き明かしてみたい。
まず、記念すべき連載第1回となる今回は、「名古屋飛行場」(県営名古屋空港)へ行ってみた。実践したのは2018年7月8日、当日の名古屋の最高気温は31.3度だった。

愛知県豊山町の名古屋飛行場(県営名古屋空港)。
名古屋駅から見るとほぼ真北に12キロ、愛知県豊山町に位置する県営名古屋空港は、かつては中京地区の主要空港として機能していた。「小牧空港」と呼ばれることも多く、実際、厳密にはその敷地は小牧市や名古屋市、春日井市にもまたがっているのだが、ターミナルビルなど主要部はあくまでも愛知県豊山町にある。
中部国際空港(セントレア)が2005年2月に開港して以降は、名古屋の玄関口の座を譲り、旅客便は国内線が残るのみとなった。現在はフジドリームエアラインズ(FDA)が9路線の定期便を設定している。
もともと旧名古屋空港時代から、アクセスはバスがメインとなっている。乗り換えなしの手軽さやスピードを求めるなら、名古屋駅や、名古屋中心街の栄から発着する直通バスを、料金を重視するなら、名鉄・名古屋駅から名鉄犬山線の西春駅へ向かい、そこからバスを利用する。現在もこの2ルートが主流で、名古屋駅からは700円、栄からは600円、西春経由は名鉄線300円+バス340円の計640円だ。
しかし、実際に使ってみるとどちらのルートも、なかなか面倒だ。名古屋駅と一口に言っても、名鉄バスが発着する名鉄バスセンターはJR駅からはそこそこ遠いうえ、名鉄百貨店本店メンズ館の4階という、実にわかりにくい場所にある。筆者は場所を知っていたものの、新幹線の改札口からは10分程度かかった。
あおい交通が発着する名古屋駅のバス停・ミッドランドスクエア前は、比較的わかりやすい場所にある。もっとも、JR線からの所要時間は似たようなものだ。

名古屋駅の名鉄バスセンターには連絡バスの大きな垂れ幕が。
一方の名鉄犬山線・西春駅経由のルートはまず、“初見殺し”で知られる名鉄名古屋駅で適切な列車に乗ることからクリアしなければならない。同じホームに7種類の種別、3方面の列車が到着する中から、「岩倉・犬山」方面の「急行・準急・普通」のいずれかを瞬時に判断し、選択する必要がある。
今回は人でごった返すホームから、なんとなく乗車した新鵜沼行きの急行に乗車した結果、見事的中。10分程度で西春駅に到着した。郊外の中規模の駅といった風情で、その東口から発着するバスに乗っていよいよ空港に向かうのだが、日中は1時間に2本しか発着していないようだ。接続が悪かったため、炎天下で20分ほど待つはめになった。
県営名古屋空港は西原駅から乗るバスの終点なので、降りる場所を間違える心配はない。しかし、一般の路線バスなので乗降客は多いし、時間もかかる。ホームページには「所要時間約20分」と案内されているが、渋滞や信号待ちの影響で30分近くたってやっと到着した。
そもそも案内されている20分という所要時間が、名古屋駅から空港への直通バスと変わらない。犬山方面の在住者を除けば、差額の60円を節約してまで選択するルートとは、とうてい思えないのであった。

一般的な郊外駅の風情が漂う、名鉄犬山線・西春駅。

名鉄犬山線・西春駅東口からは、日中1時間に2本ペースでバスが運行。
さて、いよいよ空港に到着してみると、展望台とフジドリームエアラインズのカウンタ、数件のショップがある程度。ターミナルビルや駐車場は、利用者が多かった旧来のものをそのまま使用しているため、ややオーバースペックな印象を受けた。
ただ、今でも空港自体ににぎわいがないわけではない。現在、県営名古屋空港から発着するのは青森、花巻、山形、新潟、出雲、高知、北九州、福岡、熊本の9路線23便と、意外に多いからだ。先述の通りすべてFDAによる運航で、一部は日本航空との共同運航便。日本航空はセントレア~福岡便を設定していないため、FDAが代替している状態だ。
もちろん、都市部の基幹空港に比べれば極めて少ない運航本数なのだが、23便という本数は地方空港としては多いほうといえるだろう。出発ロビーも展望台も、それなりのにぎわいを見せていた。
さて、空港に到着したここからが本題。県営名古屋空港から、その最寄り駅まで歩いてみたい。しかし、目指す先はバスでやってきた西春駅ではない。県営名古屋空港には、もっと近くに鉄道路線が存在しているのだ。それなのになぜ、最寄り駅が造られなかったのだろうか……?
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