敏腕女社長は、暴力を振るう父を許せたとき、夫へのDVからも“解放”された

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「愛された思い出」があるか、ないか

 今の香さんは、壮絶な逆DVを一緒に乗り越えた夫と、暴力のない平穏な生活を送っている。父と母は、相変わらずの関係を続けているが、もう止めようとは思わない。オトナになって、母が「本気で逃げ出したい」とは思っていないことに気づき、命の危険がないならそれも2人の生き方なのだと納得したからだ。

 実家には、年に何度かは顔を出すこともあるという。しかし、あれだけ憎んだ父とは、きっと険悪な仲なのだろう。

「実は、意外とそんなことなくて――。結構いい関係なんです」

 え? どうして?

「自分が事業を起こすようになって視点が変わったのかもしれませんが、父は親としてはひどかったけど、男やビジネスマンとしては魅力があるんです。母や愛人もそのエネルギッシュさに惹かれているのだと思います。彼はちょっと変わったこととか、人と違うことをよしとする人で、普通なら怒られるようなことをしても『さすがワシの子じゃ』と褒めてくれました。本もたくさん与えてくれたおかげで、自分で考える力もつきました。『愛されていた』という記憶を探せば、あるんですよね。それは虐待から立ち直る上で、大切な要素だと思います。むしろ、子どもより夫ばかりに向いていた母のほうが、『何を考えているのかわからない人』という感じで疎遠です」

 だが、2歳下の弟は、自らも妻にDVを繰り返すようになり離婚。父を含め、香さん以外の家族とは長い間絶縁状態なのだそう。

「同じように育ったはずなのに、彼には愛された記憶がないみたいなんですよね」

 今まで気丈に振る舞ってきた香さんのまぶたの縁が、初めて赤く染まった。

 別れ際に、ホテルのロビーで香さんと握手をした。ハッとするぐらい小さくて、やわらかな手だった。かつてはこの手で父の暴力と闘い、恋人を殴ってきたというのが信じられないほどに。外の雨はもう上がっている。駅を目指して軽やかに去っていく香さんの背中が、スーツ姿の男たちに混ざって光の向こうに消えていった。

(文/帆南ふうこ)

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