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『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』が描いた、男女平等社会を阻む本当の敵

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映画『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』公式ホームページより

 29歳の女子テニス世界チャンピオンと55歳の元男子テニス世界チャンピオンによる対決。1973年に行われ、全世界で9000万人近くが視聴した伝説の試合を映画化した『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』が話題だ。

 『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』で、女子テニス世界チャンピオンのビリー・ジーン・キングを演じるのはエマ・ストーン(『ラ・ラ・ランド』など)。元男子テニス世界チャンピオンのボビー・リッグスを演じるのはスティーヴ・カレル(『フォックスキャッチャー』など)。監督は『リトル・ミス・サンシャイン』や『ルビー・スパークス』のヴァレリー・ファレスとジョナサン・デイトンが務める。

 この時代、アメリカのテニス業界では女性アスリートへの差別が平然と行われていた。全米テニス協会は次期大会の女子の優勝賞金を男子の8分の1とする方針を打ち出し、それにビリー・ジーン・キングは異議申し立てをする。しかし、全米テニス協会側のジャック・クレイマーは「観客が呼べるのは男子の試合」とのでたらめな理由をつけて却下。結果的に、ビリー・ジーン・キングら女子テニス選手は全米テニス協会を抜けることになり、女子テニス協会を立ち上げて独自のテニスツアーで興行を行っていくことになる。

 そんななか、ビリー・ジーン・キングに声をかけてきたのがボビー・リッグス。当時55歳の彼は、国際テニス殿堂に入るような伝説的な選手だったが、久しく表舞台から退いており、しかも、ギャンブル依存で夫婦仲も壊滅的な状態。そんな状況を打破し、ひと儲けしようと考えたの結果が、「男性至上主義のブタvsフェミニスト」という呼び込みで男女のテニスの試合を行うことであり、そこで白羽の矢が立ったのがビリー・ジーン・キングだった。

 この映画に出演するにあたり、エマ・ストーンは身体を鍛え上げ、7キロの増量を敢行。トップアスリートの身体の再現に努めた。彼女は1988年生まれだが、そんなエマ・ストーンにとって、この試合は初めて聞く話。そして、同時にこのようにも感じたという。

<一番驚いたのは、45年前のこの出来事からそれほど物事が変わっていないことです>(映画公式パンフレットより)

 彼女の言う通り、1973年当時と、2018年の現在で、状況はさほど変わっていないともいえる。

 同じことをビリー・ジーン・キング本人も言っている。本作の製作にあたり、ビリー・ジーン・キングも取材に応じるなどの協力をしているのだが、彼女は<現代社会の女性嫌悪は本当にひどくて、毎日目にします。若干の改善は見られましたが、(トランプ氏の大統領就任により)過去が別の形で繰り返されている感じがします>と、やはり2018年との共通性を指摘したうえで、このように語っている。

<女性は“残りかす”で満足すべきである、女性はいつも感謝を示すべきだ…そんなことはありません! 私たちにも、“ケーキ”をもらう権利があるのです。アイシングをもらう権利も、トッピングのチェリーをもらう権利もあります。私は当時と同じ目標に向かって闘い続けていきます。そこへ到達するには、この先少なくとも100年、150年はかかるでしょうが、それでも我々は努力しなければならないのです>(映画公式パンフレットより)

 ビリー・ジーン・キングとボビー・リッグスの試合がどのような結末を迎えたのかについては、是非とも映画館に行って確認していただきたいが、この作品に深みを与えているのは、二人の試合だけを「男vs女」の単純な構図に当てはめるのではなく、もっと別な場所に、より強く、より陰湿な女性差別があるというのを炙り出していることだ。

 「男性至上主義のブタ」を名乗るボビー・リッグスは、根っからの女性差別主義者というわけではない。こういった試合を考えついたのも、また、試合を盛り上げるために挑発的な言動を行うのも、彼が「山師」であるがゆえで、それは「道化」のパフォーマンスに過ぎない。本当に醜い差別感情はむしろ他の場所に巣くっているのだ。

 『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』は、女性アスリートを不当に扱うことで搾取の構造を保とうとする全米テニス協会側のジャック・クレイマーや、また、ビリー・ジーン・キングとボビー・リッグスの試合を観戦しながら口汚いヤジを飛ばして日頃の不満を解消しようとする男性の観衆たちこそ、女性差別問題の解決を阻む本当の敵ではないかと示唆する。

 この構図は現在でも同じだ。権力者や既得権益をもつ者が差別・ハラスメントを煽り、そこに一部の人々も同調する。『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』が炙り出したものは、先に引いたビリー・ジーン・キング本人の言葉の通り、トランプ政権以降のアメリカにも共通するものであり、またそれは、財務省の福田淳一前事務次官に端を発するセクハラ問題が起きたばかりの日本においても無縁なものではないだろう。

 『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』は、45年前の過去を描いた物語ではなく、むしろ、「いま」の物語なのである。

(倉野尾 実)

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