過重労働から労働者を保護する勤務間インターバル制度とは

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Thinstock/Photo by vadimguzhva

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 政府は724日、過労死や過労自殺防止対策のために国が進める方針を定めた「過労死防止大綱」の改定版を閣議決定した。終業から次の始業まで一定時間を確保する「勤務間インターバル制度」を普及させ、2020年までに同制度を導入する企業の割合を10%以上にするなどが軸になるようだ。

 勤務間インターバル制度は、1993年に制定された“EU労働時間指令に基づくもの。EU諸国では原則として「24時間につき最低連続11時間の休息時間を設けること」が義務化されている。つまり、前日23時まで仕事をしたとすると、翌日は10時まで業務を開始することができないというわけだ。

 現状、日本ではこの休息制度は企業側に義務化されておらず、それどころか今後も導入を視野に入れている企業は圧倒的に少ない。厚生労働省が2017年に発表した「勤務間インターバル制度を取り巻く状況等」によると、導入している企業はわずか2.2%。さらに、導入を検討している企業も0.4%と非常に少なかった。政府は「2020年までに導入する企業を10%まで引き上げる」と掲げたが、私は「ずいぶん弱腰だな」と感じた。だが、この現状を知ると10%でさえも、とてつもなく高いハードルと言えそうだ。

 勤務間インターバル制度導入の主な目的は、「長時間労働の防止」だ。前日の退社時間が翌日の始業時間に影響するため、より効率的な働き方を意識するようになり、長時間労働の抑制につながることが期待される。

 また、まとまった睡眠時間を確保する狙いもあるだろう。厚生労働省が発表した「健康づくりのための睡眠指針2014」には、「健康成人を対象にした研究では、人間が十分に覚醒して作業を行うことが可能なのは起床後1213時間が限界であり、起床後15時間以上では酒気帯び運転と同じ程度の作業能率まで低下することが示されている」と記載。睡眠不足が労働生産性の低下を招くことを指摘している。日本の労働生産性はOECD加盟国の中でも低いことで知られているが、長時間労働に伴う睡眠不足が影響している可能性も考えられるのではないか。

顧客への理解促進も

 厚生労働省は「勤務間インターバル制度導入事例集」を発表し、勤務間インターバル制度を導入した企業の事例をまとめている。

 たとえばKDDI株式会社では導入の際、一部社員から不満の声が漏れていたらしいが、導入後は特に問題なかったと報告している。また、導入した結果、過重労働になっているポイントを見出すことができ、従業員の健康リスクを回避できたと効果を実感しているようだ。

 AGS株式会社は、導入に際して一番苦慮した点を「お客様の都合でインターバル時間が確保できない」としていた。だが、顧客に対して勤務間インターバル制度導入を説明するペーパーを作成し、理解してもらえるよう取り組みを実施。その結果、特に不満は生じていないとのことだ。

 勤務間インターバル制度を導入するとなると、様々なハードルが存在するだろう。しかし、会社全体で「勤務間インターバル制度を導入することは、働きやすい労働環境を獲得するために必要なことである」という雰囲気が広まれば、少なくとも「2020年までに10%」の目標は達成できるかもしれない。

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