劇場へ足を運んだ観客と演じ手だけが共有することができる、その場限りのエンターテインメント、舞台。まったく同じものは二度とはないからこそ、時に舞台では、ドラマや映画などの映像では踏み込めない大胆できわどい表現が可能です。
不倫や夫婦間のいざこざなど、本人にとっては深刻で切実な問題でも、まったく関係のない他人の目には、どこかは必ずこっけいに映るものです。少し前に流行ったゲス不倫しかり、発言小町の人気しかり。しかし年齢をつみ重ねて“大人”になれば、どんなに愚かしい行為にみえても、そのなかには、自分にも経験のある感情が垣間見えることもあるのではないでしょうか。
現在全国ツアー公演中の舞台「大人のけんかが終わるまで」は、大人らしくうわべを取り繕っていたはずがタガが外れてしまう、二組のカップルとその家族の一夜の物語。鈴木京香や北村有起哉など大人の魅力満載のキャストが、可笑しさのなかにほろ苦さをにじませる、まさに大人向けのコメディです。
同作は、フランス人劇作家ヤスミナ・レザの最新作。現代人の焦燥感を一貫してモチーフにしている彼女は、イギリスでローレンス・オリビエ賞、アメリカではトニー賞と、書く作品すべてが複数の賞を受賞するなど国際的な評価が高く、2008年に自ら演出した「殺戮の神」は、ロマンポランスキーの手で「大人のけんか」(邦題)として2011年に映画化されています。
破局寸前の不倫カップル、シングルマザーのアンドレア(鈴木京香)と会社経営者のボリス(北村有起哉)は、ボリスの妻が不在のある夜、高級レストランへデートに訪れますが、そこはボリスの妻のおすすめの店。
ミニスカートで惜しみなく美脚を
そのデリカシーのなさにアンドレアは怒り、ボリスはせっかくのデートのおぜん立てに文句をいう彼女に嫌気がさして、帰ろうと車を出したところ、誕生日祝いに息子夫婦と来店していた年配の女性イヴォンヌ(麻実れい)に車をあててしてしまいます。
偶然にも息子エリック(藤井隆)の妻フランソワーズ(板谷由夏)はボリスの妻の親友。浮気現場での遭遇にあせるボリスや困惑するフランソワーズをよそに、KY気味のエリックは、妻の知人なら一緒にお祝いをと強引に誘って、5人はそろってディナーをとることに。
不倫相手とのデートに妻の気配をのぞかせるボリスは最低ですが、駐車場でごねるアンドレアの態度も、若い同僚との浮気をほのめかしてみたり、嫌がるボリスの前でわざわざたばこを吸ったりと、かなりのひどさです。年甲斐もなくはいた短いスカートをアピールして「せっかくのふたりの時間なのに」とすねる様子は、鈴木が美脚を惜しげもなくさらした効果もあってチャーミングですが、かなり面倒くさく、付き合いの長いボリスにとってはそれもイライラの元なのは、倦怠期あるあるでしょう。
ボリスは会社の経営がうまくいっていないこともあってイライラ倍増ですが、家族にも言えないことまで言えてしまえるのは、アンドレアが不倫相手という、秘密を共有する間柄の交際相手だからでしょう。アンドレアに都合よく甘えているボリスが、彼女へのいら立ちから多少乱暴な口調になっても、下品にならず憎めないのは、実力派俳優である北村有起哉の存在感ならでは。そしてなにより、色っぽい!
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