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穂村弘×枡野浩一対談【1】「言葉の透明度について」

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撮影/天田輔

 枡野浩一連続対談シリーズ「心から愛を信じていたなんて」の最終回の相手に枡野さんが切望した相手は、穂村弘さんでした。

 穂村弘さんと枡野浩一さんは、ともに現代短歌を代表する歌人です。ふたりは互いに意識しあう少し年の離れた「ライバル」であり、少し距離を置く「友人」のような関係であるようです。

 穂村弘さんはエッセイの名手でもあり、この対談の約1カ月前に、2017年度の講談社エッセイ大賞を『鳥肌が』で見事に受賞されました。(同時受賞者は小泉今日子さん)枡野浩一さんもまた、「歌人20周年記念/世界初Tシャツ歌集をつくりたい!」としてクラウドファウンディグに挑戦し、達成率370%の大成功を収めています。

 ふたりともに何度目かのキャリアピークを迎えている状況といえますが、しかし、おふたりにはそんなことは全くどうでもいいことのようにも見受けられました。

 対談の最初にこんなやりとりがあります。

穂村「緊張します……僕は枡野さんと話すときは緊張感が高い気がします……」
枡野「最終回の相手にぜひ穂村さんをと僕がお願いしたのは、今までの対談の中に必ず穂村さんの名前が出てくるからなんです」

 これは緊張感と愛憎と友情とが交差する、当代随一の言葉の使い手ふたりによる「言葉と愛」の対談です。全6回、たっぷりとお楽しみください。

僕が枡野さんを変だと思うところはいつも人生相談になるところ(穂村)

枡野 ご来場ありがとうございます。歌人の枡野浩一です。今日は歌人の穂村弘さんをゲストにお招きしました。よろしくお願いします。

穂村 穂村弘です。よろしくお願いします。

枡野 穂村さんとふたりっきりで公開で話すのは……今日で3回目くらいなんですよね?

穂村 …………なんか、緊張しますねぇ。なんとなく、枡野さんって、緊張するんですよ……。僕は毎週のように誰かとしゃべってるんですけど、(枡野さんと話すのは)緊張度が高い……気がします。

枡野 ……よろしくお願いします。

穂村 よろしくお願いします。

枡野 それでこのトークはですね、去年(2016年)僕が出した『愛のことはもう仕方ない』という本のキャンペーンで始まった対談シリーズなんですけど、今回が最終回となりました。最終回の相手にぜひ穂村さんをと僕がお願いしたのは、今までの対談の中に必ず穂村さんの名前が出てくるからなんですね。どういう文脈で出てくるかっていうと、「僕は正直者だけど、穂村さんは西荻窪を花荻窪と書いたりする嘘つきだ」という文脈で、あの、どうしても出てきてしまうという(笑)。(なぜかといえば)以前に穂村さんが言っていたことで、嘘の範疇……「人によって範疇が違うんじゃないか?」と言っていたのが印象的だったのと、それとあと……。あ、そうだ! 『講談社エッセイ賞』受賞おめでとうございます!

穂村 ありがとうございます。

会場 (拍手)

枡野 受賞されたのはこの本なんです。『鳥肌が』っていう本ですけど。それで今日は講談社の編集者の方が会場に来られていて……。これは(『野良猫を尊敬した日』)別に講談社エッセイ賞とってない本ですね?

穂村 講談社から出た……

枡野 本で。立花文穂さんっていう方がブックデザインしてる素敵な本なんですが、これは今日販売しますので、もしお持ちでない方はこちらを手に取ってみてください。そっか、講談社エッセイ賞をとった本は講談社の本じゃないんですね?

穂村 そう。え、なんで……ダメなの?(笑)

枡野 や、他社の本が……素晴らしいことですね! はい。そう、それで、えっと……それでえっと……(穂村さんと話したいのは)<嘘についての話>と、もうひとつは、穂村さんがとても人気があるので……。今日もね、この対談イベントのシリーズでこんなに早く予約が埋まったことがなかったんですよ。なので、<人気とはなにか?>というお話も伺えたらなと思っています。よろしくお願いします。

穂村 よろしくお願いします。

枡野 それで、ちょうどこの(穂村さんの)本のしおりのついた所にですね、121ページに<「この文章ってどこまで本当なんですか」って言われるのが嫌だなぁ>っていう一文があるんですよ。わりと「この文章ってどこまで本当なんですか」って言われがちなんでしょうか?

穂村 言われがちですね。

枡野 それは、あの、嘘みたいなことが好きで、変なことばかり書いているから……とかでもあるんですか?

穂村 まぁ、そうですね。あの、そう聞かれない書き手の人もいると思うんですよ。でも僕たぶん、聞かれがちのほうなんだと思います。枡野さんはどうですか?

枡野 僕も聞かれます。あの、『淋しいのはお前だけじゃな』っていう本を出したことがあって、それは事実だけを書いているエッセイ風な本なんですけど。でもそれは、「こんなドラマチックな人生のはずがないから、どこまでほんとなんですか?」って聞かれました。

穂村 なんか、言葉の裏側に演出が入っているっていう、それはある意味ではその通りなんだけど。例えば、「この彫刻はどこまで本当なのですか?」とか、「この音楽はどこまで本当なのですか?」とか、そういうことは聞かれないですよね?

枡野 つまり文章というものが、わりと現実を元にしてるものが多いということなんですか?

穂村 僕の言い方だと、つまり、言葉と違って絵筆とかピアノとかは表現の<専用ツール>なんですよ。

枡野 はい。

穂村 絵筆は絵を描くに決まってるんです。ピアノに向かって構えている人も、ピアノは表現ための専用ツールだから、表現するに決まってるんですよ。

枡野 はい。

穂村 でも、言葉を書いてる人は、表現しているとは限らないというか。現実のコミニュケーションのために字を綴っていたり、年賀状書いてたり。そこがつまり、言葉だけが現実から切れてないから、(「この文章はどこまで本当ですか?」と)聞かれるのかなと思っているんですけど。

枡野 つまり、ツイッターのつぶやきがたまたま五七五七七になって短歌のようになってしまう、そういうことと短歌が同列のように見えてしまうこともある……ってことですか?

穂村 うんとね……、ごめん、ちょっと説明が下手だったかな。あのね、猫の絵を描く人がいてね、猫の絵ばっかりの画集を出したとしますね。

枡野 はい。

穂村 その画集のトークイベントをやったとして、そのときに、「この猫は三毛ですか?」とか「去勢してるんですか?」とか、「餌はなにあげてますか?」とか「何代目ですか?」とか、そういう話題だけに終始したらおかしいでしょ?

枡野 まぁそうですね。ただあの、例えばリアリズムの絵を描く人がいて、でも現実にはあり得ない絵だとするじゃないですか、シュールな。そういうときは、「この風景はほんとなんですか?」って聞く人はいるかもしれませんね。

穂村 うん。まぁそれはそうなんですけど。でも、何がではなくてどう描かれているかが絵画の本質なんだってことを、その絵を手に取る人は、文章の場合よりはもっと認識してくれると思うんですよ。

枡野 なるほど。

穂村 だから僕が、枡野さんの本やトークイベントがいつも変だと思うのは……

枡野 はい。

穂村 必ず人生相談みたいになるところ……。

会場 (笑)

穂村 つまり、「猫の話ばっかりしてるなぁ」って。

枡野 う~ん、どういうことですか?

穂村 つまり、この本(『愛のことはもう仕方ない』)の中に猫のことが書いてあるからと言って、「その猫は雄なんですか?」とか「去勢してるんですか?」とか、そういうことばっかり話すのはおかしいんじゃないかっていう。

枡野 ああ、はい、つまり、どう表現してるかの部分が語られるべきなのに……

穂村 そう、そうなんです。

枡野 なるほどねぇ。

穂村 それで、表現の透明度にはジャンル差があると思っていて。画集という例でしゃべったけど、それが写真集だと、猫の話をずっとされちゃうリスクはもっと高くなると思うんです。

枡野 はいはい、なるほど。「この猫は……」

穂村 「雄ですか雌ですか虚勢したんですか短毛種と長毛種はどちらが好きですか」……

枡野 「外猫ですか?」とか……

穂村 そう(笑)。それでその写真集を買う買い手の意識も、「猫が好きだから、いろんな猫が見たくてこの写真集を買いました」っていう割合が、画集に比べて上がると思うんですよ。

枡野 なるほど~。

穂村 それは、絵に比べて写真っていうジャンルの透明度が高いってことだと思う。透明度っていうのは何に対する透明度かって言うと、現実に対する透明度ってことだと思います。
そして僕は言葉を、現実に対して透明度の高いものだとして扱われることに逆上しがちで……(笑)。

枡野 ああ……なるほど! それで僕が、基本的そういうことしか言わなかったり、書かなかったりするのが変じゃないかと……。

穂村 確かに枡野さんの態度はそうで、おかしいと僕は思うんだけど――

会場 (笑)

穂村 (枡野さんの書く)本は違うんですよ! 枡野さんの本は明らかにその透明度の問題を、これは言葉にすぎないということを読者が意識するように、一行一行書かれてあるんですよ!

枡野 まぁそうですねぇ。

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枡野浩一

歌人。1968年東京生まれ。小説『ショートソング』(集英社文庫)ほか著書多数。短歌代表作が高校の国語教科書(明治書院)に掲載中。阿佐ヶ谷「枡野書店」店主。最新情報はツイッター【@toiimasunomo 】で。

@toiimasunomo

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