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東京五輪は世界と学生を巻き込んだ「暑さ我慢選手権」か?

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Thinstock/Photo by Xurzon

 文部科学省とスポーツ庁は7月26日、全国の大学・高等専門学校に対して、2020年に開催される予定の東京オリンピック・パラリンピックのボランティアを募集する通知書を出した。通知書には、大会開催期間中は交通機関の混雑が予想されるため、授業・試験日程を変更することの提案や、大会には教育的意義もあるとして、学生のボランティア参加を促すことなどが書かれていた。

 7月31日には上智大学で、学生や教職員を対象に「ボランティア募集説明会」も開かれている。また、すでに今回の通知を受け、教職員に向けて大会開催中の授業・試験の実施を自粛するよう求めを出した大学もあるようだ。

 しかしこの通知にネット上では異論が噴出している。東京五輪のボランティア募集については、これまでも散々批判が起きてきた。

 今年6月11日に発表された募集要項によれば、ボランティアは「休憩・待機時間を含み、1日8時間程度」「10日以上の活動が基本」。そのうえで、次のような条件を持つ人に「積極的に応募していただきたい」とある。

「東京2020大会の大会ボランティアとして活動したいという熱意を持っている方」
「お互いを思いやる心を持ち、チームとして活動したい方」
「オリンピック・パラリンピック競技に関する基本的な知識がある方」
「スポーツボランティアをはじめとするボランティア経験がある方」
「英語、その他言語及び手話のスキルを活かしたい方」

 競技の基本的な知識を持ち、ボランティア経験もあり、英語などの外国語や手話スキルに長けた人を、無償で働かせることができると想定しているとしたら驚きだ。これだけでも非常に高いハードルだが、2016年7月4日時点で発表されていたボランティアの募集素案はまさに「ブラックボランティア」としか言いようのないものだった。

 ボランティアの募集素案に書かれていたのは「コミュニケーション能力がある」「外国語が話せる」「1日8時間、10日以上できる」「採用面接や3段階の研修を受けられる」「宿泊費や交通費は自己負担、宿泊先も自分で手配」など。よくよく見てみると、正式に発表された募集要項は、募集素案の文章をマイルドに直しているだけのようにも読める。

 文科省とスポーツ庁は「競技力の向上のみならず、責任感などの高い倫理性とともに、忍耐力、決断力、適応力、行動力、協調性などの涵養の観点からも意義があるものと考えられます。さらに、学生が、大学等での学修成果等を生かしたボランティア活動を行うことは、将来の社会の担い手となる学生の社会への円滑な移行促進の観点からも意義があるものと考え」ているらしい。交通機関の混雑を予想し、授業や試験日程の変更を促すことには妥当性があるとも言えるだろう。しかし、教育的意義を唱え、本業である学業をおろそかにしてまでボランティアの募集をかけるのは本末転倒だ。「1日8時間程度、10日以上の活動が基本」という要項をみるかぎり、社会人よりも学生の参加を前提とした募集要項になっているのかもしれない。

 今年の記録的な猛暑を受け、7月に開催される東京五輪での、選手や観客の健康状態を懸念する声が海外メディアからもあがっている。しかし五輪組織委員会の森喜朗会長は“暑さに打ち勝つ”つもりのようで、7月24日の『日刊スポーツ』で「この暑さでやれるという確信を得ないといけない。ある意味、五輪関係者にとってはチャンスで、本当に大丈夫か、どう暑さに打ち勝つか、何の問題もなくやれたかを試すには、こんな機会はない」と話している。なぜ選手や観客、ボランティアが、暑さ我慢選手権に強制参加させられなければならないのだろう。

 東京オリンピック・パラリンピックまで残された時間は2年しかない。いまさら「開催中止」を決定することが難しいのであれば、せめて、やりがいを搾取することで大会を成り立たせようとしたり、重要な問題を精神論で乗り越えようとしたりするのではなく、万全の状態で開催できるよう対策を取らなければ、本番で崩壊してしまいかねない。組織委員会には冷静な対応が望まれる。

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