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W杯が誘発した#MeTwoムーヴメント〜エジル引退と”アフリカ人だらけ”の仏チーム、そしてトレヴァー・ノア

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『トレバー・ノア 生まれたことが犯罪! ?』(英治出版)

 今、ツイッターでは #MeTwo というハッシュタグが盛んに使われている。#MeToo をもじったもので、移民または二世や三世であったり、両親が異なる国の出身であることなどから「ふたつのアイデンティティ」を持つことを意味する。

 発端は、サッカーのドイツ代表から引退して大騒ぎとなったメスト・エジル選手だ。トルコ系三世のドイツ人であるエジル選手は、トルコのエルドアン大統領と写真撮影し、ドイツ国内で激しく批判された。この件についてエジル選手は、「私にはドイツとトルコ、ふたつのハートがある」「勝ったらドイツ人、負けたら移民と言われる」と語っている。エジル選手は長年にわたって受けてきた人種差別にこれ以上は耐えられないとし、サッカー・ワールドカップ(W杯)終了後にドイツ代表を退いた。

 すると、代表引退という行為についても「気持ちは分かる」「無責任だ」と賛否両論が起こった。この騒動からエジル選手同様にふたつ(もしくはそれ以上)のアイデンティティを持つ人たちが #MeTwo を語り始めたのだ。

 #MeTwoのツイートを読むと、移民であること、人種ミックスであること、在住国では人種的マイノリティであること、生まれた国と育った国が異なること、複数言語話者であることなどについての思いが様々であることに気付く。国によって人種構成、移民の歴史、社会や経済の状態などが異なり、さらに個々人によって考え方、感受性もそれぞれだからだ。

 例えば、エジル選手は祖父母の代でドイツに移住した三世だが、本人が言うようにドイツとトルコの2つのアイデンティティを持っている。だが、ドイツではトルコは人種的マイノリティであるために人種差別を受け、「移民」とすら呼ばれることがある。

 ドナルド・トランプも父方は祖父母がドイツから、母方は母親自身がスコットランドからアメリカにやってきた移民だ。しかしアメリカの人種的マジョリティの白人であるため、トランプ自身に「移民の子」「二世」という意識はもはや無いように見える。トランプは大統領への立候補宣言の瞬間から移民排斥を唱え続けている。トランプが自身をドイツとスコットランドの #MeTwo、さらには米国も加えた #MeThree と捉えているかは不明だ。

フランス – アフリカ – アメリカ

 アメリカの深夜トーク番組『ザ・デイリー・ショー』のホストであるトレヴァー・ノアも、W杯についてのコメントで文字通り世界を揺るがせた。

 W杯はフランスが優勝して幕を閉じたが、フランス・チームにはアフリカ系の選手が多く含まれていことから、ノアは自身の番組で「アフリカが勝った!」「南フランスでどれだけ日焼けしても、あの色にはならないよね」とジョークを飛ばした。

 このジョークに気分を害した駐米フランス大使が、なんとノア宛の抗議の手紙を公開した。手紙には「ほとんどの選手(23人のうち2人を除いて)はフランス生まれであり、フランスで教育を受け、フランスでサッカーを覚え、彼らはフランス市民です。彼らは自国フランスを誇りとしています」とある。手紙の後半は唐突なアメリカ批判とも取れる内容で、選手たちがフランス人であることをさらに強く訴えている。

「アメリカ合衆国と異なり、フランスは市民を人種、宗教、出自によって表しません。ルーツは個人の問題であり、我々はハイフンで繋いだアイデンティティ(筆者註:アフリカン-アメリカンなど)を持ちません。彼らをアフリカン・チームと呼ぶことは、彼らのフランス性を否定することです。たとえジョークであっても、フランス人とは白人のみを指すという考えを正当化するものです」

 フランス・チーム23人のうち、15人がアフリカにルーツを持つ。アフリカで生まれたのは大使が書いたようにコンゴ生まれ、カメルーン生まれでフランスに移住した2人。他の13人はマリ、セネガル、ナイジェリア、ギニア、アンゴラ、モロッコ、トーゴなどからの移民を親にフランスで生まれている。

 このメンバー編成ゆえに、ノアがジョークを発する前からサッカー・ファンの間では「フランス・チームは “アフリカ・チーム” か否か」の論争が繰り広げられていた。以下はあるスポーツ・サイトの公式ツイッター・アカウント上での議論の一部。

「全員フランス生まれか、フランス育ちだ。なにが問題なんだ」
「彼らはフランス人じゃない」
「フランス人だ」
「違う」
「そうだ」
「違う」
「国籍はフランスで、血筋はアフリカだ」
「血筋では勝てない、トレーニングによって勝つ。そして彼らはフランスで訓練を受けた」

 上記8つの発言はすべて異なる人物による。一般人にもいろいろな捉え方があり、かつ多くの人の関心事であることの表れだろう。

 駐米フランス大使の手紙が公開された後、ノアは番組でめずらしく真顔になり、この問題を語った。大使の手紙には「選手たちの豊かで幅広いバックグラウンドは、フランスの多様性の反映なのです」という件(くだり)もある。ノアはそのフレーズに対し、こう反論した。

「多様性の反映とあるけど、植民地政策の反映だよね」

 アフリカ・ルーツの15人の選手の祖国は、アンゴラを除いてすべて、かつてはフランスの植民地だった国だ。

 ノアはアフリカにルーツを持つ選手のフランス人化に異議を唱えているわけではない。大使の「彼らはアフリカ人ではなく、フランス人だ」という主張に対して、「なぜ、両方であってはいけないのか」と問いかけているのだ。アフリカ系フランス人、もしくはセネガル系フランス人、マリ系フランス人、カメルーン系フランス人……複合アイデンティティ#MeTwo である。

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堂本かおる

ニューヨーク在住のフリーランスライター。米国およびNYのブラックカルチャー、マイノリティ文化、移民、教育、犯罪など社会事情専門。

サイト:http://www.nybct.com/

ブログ:ハーレム・ジャーナル

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